アメリカ版「与党も野党も茶番」!?

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れいわ新選組の櫛渕万里衆院議員が国会の壇上で「与党も野党も茶番」というビラを掲げたことで登院停止10日間の謹慎処分を受けました。この「与党も野党も茶番」というのは表現としては面白く、日本の政治も確かにそんなところはあります。が、本家、アメリカの茶番劇はもっとダイナミックで世界中の注目を浴びる点で「政治って何だろう?」と思わずにはいられないのです。

アメリカの債務上限問題は現地時間の5月31日遅くに下院を通過しました。賛成314,反対117でこの反対には共和党の強硬派の70票強が含まれています。あれだけ騒ぎ、あれだけ緊張感を煽ったのに大差の賛成です。メディアは個別議員の怨嗟のようなコメントを報じるため、読み手である一般庶民は惑わされるのです。そもそもが緊迫した問題だったのか、この大差は議員の真意なのか、あるいは政党政治らしい決着のつけ方なのか、共和党強硬派の勢いはこんなものだったのか、など様々な疑念を抱かせるのであります。

Maksym Kapliuk/iStock

これから上院ですが、雰囲気的には勝負あったという感じで、事務処理的な流れになりそうです。もちろん、こんな投げやりな書き方は失礼であり、当事者たちの必死の思いで交渉成立にこぎつけたことに敬意を表さねばならないのでしょう。日本の政治ではなかなかギリギリの攻防という緊迫感は見られません。与党の力が圧倒している上に党の方針に反して反対票を投じると概ね誰がそうしたか分かるため、後でボコボコにされます。よって党利党略に従うという個性の完全無視が前提にあるのです。つまりギリギリの攻防は原理原則では起きようがないのです。

ではアメリカです。これは政治に限らずビジネスシーンでもそれこそ近隣との付き合いまでそうなのですが、「駆け引き」が常について歩く、これが北米にいて思うことです。私の31年間のビジネスライフも全てディールとネゴシエーションだと思っています。どうやって自分の意思を貫くか、この駆け引きのために直接の対峙相手のみならず、周りを押さえたり、相手が想定もしない交渉カードを出すこともごく普通です。つまりディールは自分がどれだけ良いカードを持っているか、それに尽きるし、そのカードは日々のビジネスや政治的活動で培うものです。

今回、途中からエンタメだと感じたのはバイデン氏とマッカーシー氏の直接交渉が非常に楽観的に展開していた点です。つまり、双方、ボトムライン(落としどころ)を持っていたように見えるのです。例えば北米ではストライキが数多く行われますが、まとまるディールと紛糾して何十日もストを強行するケースなど様々です。これは交渉当事者の能力と組合員の取りまとめ能力次第なのです。バイデン、マッカーシー両氏とも辣腕、かつ政治家としての経験値も非常に高く、計算づくだったということなのでしょう。そういう意味では外野からすれば茶番だったのかもしれません。

ところで次期大統領選に向けて少し動きが出てきました。共和党はデサンティス氏が出馬表明し、本格始動しています。かつてはミニ トランプとの異名があったかと記憶していますが、今はデサンティス氏がトランプ氏と比較されること自体を嫌い、完全なライバル関係にあります。これから両名による「死闘」が繰り広げられるわけですが、個人的には似たようなタイプの2人が争ってもテレビドラマならともかく、リアルとなれば何も面白くないゲームだと思っています。ひょっとすると票の取り合いをしている間に第三の有力候補が「揚げ」をかっさらっていくこともあるかもしれません。

一方の民主党ですが、まだほとんど表に出ていないのですが、JPモルガンのジェームス ダイモン会長の去就に個人的に注目しています。ダイモン会長は今週、ブルームバーグに「多分、私はいつか、ある立場で自国に尽くすだろう」と述べています。それを受けて著名な投資家であるビル アックマン氏が「ダイモン氏が大統領選に出るべきだ」と推挙しているのです。

またこの情報はタブロイド程度の話ですが、ダイモン氏は世界最大の銀行のトップに長年君臨し、今では金融界では不動の地位を確立している大御所です。ダイモン氏が仮に出馬するとすれば民主党です。知名度、影響力、行動力、そして選挙資金の集金能力全てにおいて圧倒的能力を持っています。唯一、政治未経験者でありますが、トランプ氏もそうでした。ダイモン氏は金融の世界に関してはリーマンショックの処理を含め、政府機関と相当のディールをこなしてきているので問題はないでしょう。

今回の債務上限問題は大統領をトップとする執行側と議会の対決であり、日本にはない構図です。大統領は議員ではないので政府と議会の対立が基本軸です。よって議会を構成する与野党は入り乱れ、超党派なるものがしばしば組成されます。よってそれをコントロールするためにマッカーシー氏は直接議員に電話をしまくり、説得工作をするのです。

一方、日本の政府は与党による閣僚という帽子をかぶります。つまり政府のトップ部署を政治家が支配する構図なので言葉通り、与党と野党の戦いになります。アメリカの与野党は当然、党利に基づく団結はありますが、裏切りもそれなりに出るため、日本のような戦い方とは違うと言えそうです。閣僚は政治家であり、プロ集団ではない点において茶番劇という背景を含め、どちらが良いのか、という議論があってもよいかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月2日の記事より転載させていただきました。

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