ロシアで反体制派武装集団の出現?:ロシア義勇軍・ロシア自由軍団とは

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ウクライナの国境に接するロシア西部ベルゴロド州(Belgorod)で22日、ロシア系の武装集団による攻撃が起きた。グループは「ロシア義勇軍」と「ロシア自由軍団」と呼ばれ、ウクライナを支援し、プーチン大統領の打倒を目指しているという。

プーチン大統領、ロシア連邦最高位の国家勲章の授与式をクレムリンの聖カタリナホールで挙行(2023年5月23日、クレムリン公式サイトから)

以下、オーストリア国営放送(ORF)の関連記事を参考にまとめた。

ロシアの情報によると、22日、ウクライナから装甲車両に乗った武装集団がベルゴロドのロシア国境地域に入り、砲撃と爆発があった。ロシア側は、1人が死亡、13人が負傷したと発表した。その後、侵入した戦闘員らは押し戻され「排除」されたという。ロシアは「ウクライナ側のテロ行為」とみなし、キーウを非難している。

ロシア当局は23日、事態を完全に把握し警戒状態を解除したと語ったが、ベルゴロド州のヴャチェスラフ・グラドコフ知事は、「ドローンによる攻撃があった」ことを認めている。ただ、現地の情報は確認できない状況だ。

ロシア側では一時的だが、「対テロ作戦」が指令された。ロシアで「対テロ作戦」が施行されたのはロシア軍のウクライナ侵攻が始まって以来、初めて。「対テロ作戦」は1999年頃、ロシアのチェチェンでの軍事行動中に導入されたことがある。警察と軍に大幅な権限を与えるものだ。グラドコウ知事は24日、「対テロ作戦」が終了したと発表した。

イーゴリ・コナシェンコ軍報道官は、対テロ作戦で、「70人以上のウクライナ人テロリストが殺害され、装甲車両4台とSUV5台が破壊された」と述べた。軍は空爆と砲撃を行ったという。国防省はビデオで、攻撃者に対する空爆の状況を見せた。

コナシェンコフ軍報道官によると、侵略者の一部はウクライナ領土に撤退したという。22日に行われたベルゴロド地域への攻撃は「アルテモフスクでの敗北に対するキーウ側の報復行為だ」と主張した(モスクワでは、ウクライナの都市バフムートは、旧名でアルテモフスク(Artjomowsk)と呼ばれている)。

ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は23日、ロシア本土への攻撃に「深い懸念」を表明し、「彼らはウクライナの戦闘員だ。ウクライナにはロシア系の国民がたくさんいるが、彼らはウクライナ人の戦闘員だ」と述べた。

「ロシア義勇軍」と「ロシア自由軍団」は今回の攻撃を認め、「われわれはウクライナ側を支援している」と表明。「ロシア自由軍団」はウクライナのテレビで「国境沿いに非武装地帯」を創設したいと述べ、「私たちはあなたの敵ではない。自由は近づいている」と語ったという。

一方、ウクライナ側は今回の軍事行動について「キーウはそれらの軍事行動とは何の関係もない」と述べ、関与を否定する一方、「ロシアにはロシア国民で構成されたゲリラグループが存在する」と指摘した。

なお、ここ数カ月間、国境近くのロシア地域では砲撃の報告が頻繁に聞かれる。同地域の住民は常に警戒態勢にあって、短い間隔で何度も避難命令が出されるという。4月にはベルゴロド上空でロシアの戦闘機が弾薬を失うという不祥事が起きている(オーストリア国営放送のHPから)。

ニューヨーク・タイムズ紙は同武装集団の戦闘員とインタビューしている。そこで戦闘員はロシアに対して武器を取る理由について、①ロシア軍のウクライナ侵略に対する道徳的怒り、②婚姻関係で親戚の多いウクライナを守りたい、③プーチン大統領への嫌悪感などを挙げている。同紙によると、戦闘員たちは現在、ウクライナ軍司令官の信頼を勝ち取っているという。

5月3日未明、ロシアのクレムリン宮殿に向かって2機の無人機が突然、上空から現れ、それをロシア軍の対空防御システムが起動して撃ち落すという出来事があった。ロシアは「ウクライナはプーチン大統領を無人機で攻撃した。攻撃は計画されたテロ攻撃だ」と強調し、プーチン大統領暗殺未遂事件と説明していた。キーウ側は「モスクワのでっち上げだ」と非難した。

興味深い点は、ロシア側は、今回のロシア系反体制武装グループの攻撃と無人機のクレムリン侵入事件をいずれも「テロ行為」と呼んでいる一方、ウクライナ側は両件ともその関与を否定していることだ。明確な点は、両件ともウクライナ領土内で起きたことではなく、ロシア領土内での出来事だ。

プーチン氏にとって最大の懸念は、ウクライナ寄りのロシア武装グループがプーチン大統領の軍指揮に不満をもつロシア軍の一部と連携して反プーチンで立ち上がるシナリオだろう。

ウクライナ軍は反攻をまもなく開始するというが、プーチン大統領の失権の日は予想以上に速いスピードで近づいてきているのかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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