「ストーリーもメッセージもない PR が多すぎる」:不出来なPRを生む現状に抗う、業界ベテランの告白

DIGIDAY

PRは、その看板に傷がついている。少なくとも、業界歴16年のベテランはそう考えている。主にB2Bのテックブランドを担当するこの人物によると、不透明な経済情勢がきっかけとなって、質の低いコミュニケーション手法や、エージェンシーの頻繁な乗り換え一時の流行に頼るマーケティングが、持続可能なブランド構築に取って代わっているという。

近年では、デジタルメディアの細分化によって、クライアントがアーンドメディアやコミュニケーション戦略以上のものを求めるようになり、クライアントとエージェンシーの関係に緊張が生まれていると、PRのプロたちは指摘する

上記の業界ベテランに言わせると、コミュニケーション業界は、クライアントを満足させ、取引関係を維持し、会社に資金を流入させ続けるための手間を怠っているように見える。その結果、この人物のエージェンシーでは、担当するB2Bのテック企業をはじめとするクライアントからの、アーンドメディアを超えた戦略を求めるニーズに応えるべく、提供する能力を拡大する必要に迫られているという。

匿名を条件に本音を語ってもらう「告白」シリーズでは今回、経験豊富なPR業界のベテランに、業界への不満や、クライアントの期待を変えること、新たなビジネス手法への取り組みについて語ってもらった。

以下、読みやすさのために若干の編集を加えてある。

──業界のどのような状況を受けて、ビジネスのやり方を変えようと考えたのか?

(B2Bのテックブランドは)ストーリーを持たないことが多い。プロダクトの特徴やメリット以外に、自分たちについて語ることができないのだ。価値観に基づくメッセージなど、ほとんどないに等しい。それでも多くのPR会社が、彼らをクライアントとして引き受ける。そのようなクライアントを引き受ける理由は、ビジネスを維持していくためだ。そしてそれが皮肉なことに、PRという分野の評判を毀損する結果につながっている。

──何がそうさせているのか?

状況が非常に厳しいからだ。ビジネスを維持するだけでなく、人材をつなぎとめ、従業員を雇い続けなくてはならない。私が常々解決しようとしている包括的な問題があるのだが、それは、前もって戦略を練るという作業を、ほとんど誰もやらないことだ。すべての問題の根源はそこにある。

PRを頼んでくるブランドは自分たちのポジショニングとメッセージを確立しておらず、ターゲットオーディエンスを絞れていない。市場に出る前にやっておくべきことをすべてすっ飛ばし、PRは後付けで何とかなると考えている。PRはいつも、自動車の塗装でいう最後の上塗りのように思われている。

──つまりPRエージェンシーは、クライアントを引き受ける前に必要なブランド構築の手順を踏んでいないことになる。なぜそうなるのか?

PRエージェンシーの側からすれば、求められるすべての仕事が、非常に率直に言ってしまうと、

(A)それを行う態勢が整っていない
(B)参考になるような同業者や競合他社の事例がない
(C)小切手を一刻も早く現金化したいので、小切手を銀行に持ち込むのを遅らせるようなことはする気がない

ゆえにやりたくないというわけだ。事前に戦略を練っていないことが、我々が出来の悪いキャンペーンを行ってしまう理由であり、PRは効果がないという評価につながっている。それは、戦略の過程を飛ばしているからだ。

──現在のPR市場に対応するために、ビジネスのやり方を変えたそうだが、どのように変えたのか?

私はもう、クライアントを記者やアナリストの前に、彼らが望むような形で連れて行くことはできなくなった。彼らのプレゼンテーションの仕方には、(ブランド構築や戦略が)大いに欠けていた。だから私はプロセスを逆行し、PRを実行する前に彼らがやっておくべきことをすべてやることにした。

彼らが飛ばしてきたすべての過程を、もうそのままにはしない。私はこれを骨格作りと表現しているが、それをした上でクライアントに「これらのことをやって初めてPRができる」と伝えている。だから最初のオンボーディングのプロセスでは、その作業を彼らと一緒にやっている。

私はこの仕事を始めてからずっと、(クライアント候補が)やってきたら、彼らに(ブランドストーリーや企業について)質問し、相手を知る過程で、そうした最初の質問に加えて、事前に準備しない即興の質問も投げかけ、その上でクライアントとして迎え入れるべきだと言われてきた。しかし今、ひどいクライアントを拒絶することは、以前より減っているように思う。

──それがPRという分野の今後について意味することは?

PR担当者は、自分たちをPR担当者だと思わないようにしなければならない。自分たちのことを、コミュニケーション戦略家、戦略的コミュニケーターとみなすべきだ。パブリックリレーションズが提供するもの、できることのすべてを人々に理解してもらうためには、その言葉自体なくなってもいいくらいだ。

位置づけを変えなければならない。PRの仕事をしながら、PRのプロフェッショナル(以外のものを)名乗る人たちがいる。それはPRが、コミュニケーションにおいて必要とされる多くの要素のひとつにすぎないからだ。最初の一歩として、PR担当者は、クライアントのためにやるべきすべてのことを考慮し、それを実行に移す必要がある。

[原文:‘There’s a lot of desperation’: Confessions of a PR industry veteran on PR’s ‘reputation problem’

Kimeko McCoy(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)

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