利便性を名目にした「悪魔の取引」?:Amazon がShopify利用ブランド獲得を狙った新プログラム

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Amazonの新しいベータプログラムは、同社がShopify(ショッピファイ)の出品者を獲得するためにどれだけ労力を払おうとしているかを如実に示すものだ。

一部のブランドや代理店は、エクスプロアブランドセレクション(Explore Brand Selection)というプログラムへの招待を受け取りはじめている。Amazonは出品者に対して、同プログラムのことを「商品掲載の処理でブランドを支援する方法」と表現している。すなわち、すべてのASIN(Amazon標準識別番号)を手動でアップロードする代わりに、エクスプロアブランドセレクションがそのプロセスの大部分を自動化するという。

しかし、一部の業者はこのプログラムに高い代償があると考えている。ブランドのShopifyの世界にAmazonが入り込むことを懸念しており、この新しいツールを使用することでAmazonにどのような種類のデータへのアクセスを与えることになるのかという心配があるのだ。

商品掲載を自動化で支援

Amazonはこのプログラムを、本質的にサードパーティーブランドの業務を楽にするための新しい自動化であると説明している。同社が出品者に送付した情報によると、利点のひとつとして、「商品の出品を迅速に作成できる」ことを挙げており、このプログラムによって「必要な属性の59%が自動的に入力される」と付け加えている。さらに、「既存の品揃えの最適化」や「品揃えの拡大」も行えると、同社は説明している。すなわち、ブランドがAmazonに対して、自社ウェブサイトのすべてを参照することを許可すれば、Amazonで販売を希望する商品をより簡単にアップロードできる。そしてブランドは、自社商品や、それらをマーケットプレイスにアップロードするかどうかのコントロールを維持できると、Amazonは主張している。

しかし、エクスプロアブランドセレクションによって、ブランドのShopifyデータにAmazonがアクセス可能になるのか、それともAmazonはウェブサイトから商品リストのデータを集めるだけなのかは、ツールを紹介された一部の人々にとって明確ではない。Amazon側は、出品者がウェブサイトのバックエンドでAmazonと接続することを要求することはなく、機密情報も取得しないと述べている。

同社のスポークスパーソンは、米モダンリテールへの声明で次のように述べている。「当社は現在、販売パートナーの商品掲載プロセスを支援する、完全任意の新機能をテスト中だ。エクスプロアブランドセレクションは、販売パートナーが商品掲載を短時間で行い、既存の出品を最適化し、品揃えを拡大するためのオプトインサービスだ。出品者はAmazonストアで何を販売するかのコントロールを維持でき、出品するアイテムをカタログに追加する前にレビュー、編集、承認することができる」。

Shopifyサイトへのアクセスを懸念

エクスプロアブランドセレクションは約1カ月前に開始されたもので、Amazonが自社の領域を拡大するための最新の試みのようだ。より多くの出品者が自社商品をサードパーティーマーケットプレイスにリストするよう、eコマース大手である同社は出品者が同社に対して内部を公開し、情報を自動的にアップロードすることを求めている(もちろん、ブランドの許可がある場合に限る)。

しかし、一部の業者は、このプログラムが、実質的には簡易化を名目にした悪魔の取引になり得ると考えている。「これは、Amazonによる非常に強引な要請だ」と、ブラックラベルアドバイザー(Black Label Advisor)の創設者でCEOを務めるジョン・エルダー氏は語る。同氏のクライアントはベータ版への参加を許可されていないが、「ベータ版にアクセスが許可された人々を見かけている」と、同氏は述べる。プログラムへのアクセスを許可された出品者の中には、Amazonが「私のShopifyストアに配線接続しようとしている」という発想についてTwitterで嘲笑していた者もいた。

しかし、もしAmazonがエルダー氏の参加を認めたとしても、ほぼ確実に参加しなかっただろうと同氏は語る。「出品者は、Amazonとそれ以外のすべてとを明確に切り離しておきたいと考えている」と、同氏は述べる。同氏の目から、エクスプロアブランドセレクションは、Amazonが出品者のShopifyサイトにより直接アクセスするための手段だと映っているようだ。「出品者が自社の個別情報すべてを、ShopifyからAmazonに明け渡したいと思うだろうか? これは馬鹿げた要求だ」と、同氏は述べている。

Win-Winの関係になり得るか?

しかし、誰もがこのプログラムを悪意のものと受け止めているわけではない。「ブランドがAmazonで品揃えを簡単に拡大できるようになるという、基本的なコンセプトはよいものだ」と、アカディア(Acadia)の小売マーケットプレイス戦略責任者を務めるキリ・マスターズ氏はメールで米モダンリテールに語った。「Win-Winの状況だと思われる。販売チャネルとしてのAmazonの事例の多くと同様、課題は実行の方法にあるだろう」。

同氏は、商品リストのデータを、ある場所から自動的に別の場所に移動する部分に問題があるとみている。「Amazonのシステムには、訂正が必要になると思われるエラーや、システム内に組み込まれると削除が困難であるデータが含まれている可能性が大いにある。Amazonでは、情
報を訂正することは今でも非常に難しい。多くの事例とフォローアップ、主張の証拠の提出、不正確な主張や医学的主張への反論などが必要になる」と、同氏は述べている。そして、D2Cウェブサイトから提供されたデータは、リストの基本コンテンツにしか使われず、「A+コンテンツ」と呼ばれる、Amazonページをより的確にパーソナライズし、掲載された商品を目立たせるような追加アセットは含まれない。

マスターズ氏の説明によると、「ブランドがすでに優れたウェブサイトを保有しているのでない限り、ゴミを入れればゴミが出てくるという状況にしかならないだろう」。

マスターズ氏は、AmazonがShopifyのデータにアクセスするという問題をそれほど重要視してはいない。Amazonは自分でウェブサイトからコンテンツを収集し、Shopifyのデータを直接調べることはないと、同氏は考えている。

小売業者が抱く警戒心

Amazonが出品者のD2Cサイトのデータに直接アクセスしないとしても、Amazonがブランドから多くのデータを取得する一方で依然として出品者には何も提供しないことに違和感を覚えるブランドもいる。さらに、Amazonと提携していないサービスの中にも、すでにこのような種類のサービスを提供しているところもある。「ShopifyストアからAmazonの出品者アカウントに出品リストを送り、出品者アカウントと連携させて在庫管理を行えるアプリはすでにいくつも存在する」と、コンサルタンシーのクランチグロース(CrunchGrowth)の創業者でCEOを務めるフィル・マシエロ氏は述べている。「しかし、Amazonが提案しているように、同社がブランドのストアに介入できるようにするのは、よい考えとは思えない」。

これは、Shopifyの世界への浸透を狙っている、ほかのAmazonプログラムが普及していないことを受けたものだ。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)によると、この1年間で「バイウィズプライム(Buy with Prime)を採用したブランドは数百に満たない」だ(ただしAmazonはこの主張に異論を唱えている。その記事が刊行されたあとで、同社のスポークスパーソンは次の声明を発表した。「マーケットプレイスパルスの主張は正確ではない。バイウィズプライムを提供しているブランドの数はそれよりはるかに多く、バイウィズプライムが自社ビジネスにどのような価値をもたらすかに気づいた小売業者が増えるにつれ、その数は日々増え続けている」)。

エルダー氏は、Amazonが自社の領域の拡大を試みていることについて、小売業者が抱いている警戒心を、この事実が示唆していると考えている。「出品者は、こんなものいらないと思っている」と同氏は述べている。

[原文:Amazon Briefing: Sellers aren’t thrilled with Amazon’s latest attempt to woo Shopify brands]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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