ゼロパーティデータ を流通させるアプリ「Caden」登場:「来たるべきインターネットの未来を決定付ける要素になっていく」

DIGIDAY

ユーザーが意図的に企業へ提供するデータを意味する「ゼロパーティデータ」。その用語が大手グローバル調査会社のフォレスター(Forrester)によって生み出されたのは、いまから5年以上前のことだった。

以来、この用語はオーディエンスに応じて、懐疑と支持の眼差しが向けられてきた。推進派は「消費者データを収集して活用するための、よりプライバシーに準拠した方法」だというが、懐疑的な人たちはこれを「考えが甘くてあまりに漠然とし、不誠実すぎると」見ている。

ケイデン(Caden)の共同創業者であるジョン・ロア氏は、自身もこの言葉を懐疑視しているなかのひとりだと述べている。同社は、ユーザーが報酬と引き換えにさまざまな個人情報を企業に提供できるようにするアプリ「Caden」を開発。ケイデンの運命はゼロパーティデータの収集と利用にかかっているが、同社がまだ名を成していないことは、同氏も認めている。

「この用語ではなく、その定義そのものは正しいと思う」と、同氏は語る。また、「これには大いに納得できるし、必要なものだとも思う。(そして、)浸透しているとも感じる。より完全な同意と管理を全面的に与えるというコンセプトは、今日だけではなく全般的に、来たるべきインターネットの未来を決定付ける要素になっていくはずだ」と意気込む。

段階的な拡大を計画

CadenアプリがAppleのApp Storeに登場したのはつい先日のことだが、同社がユーザー待ちリストをユーザーに開放したのは12月のことだった。同氏によれば、このリストには約1万5000人が登録しているという。しかし、ほかの似たようなアプリと同じように、Cadenアプリも現状では勢いを獲得できていない。消費者と企業にとっての同社の長期的な価値は、このアプリをダウンロードするユーザーの人数と、彼らがアクセスを許可する個人情報の種類にかかっている。

ケイデンはまず手始めに、ウーバー(Uber)やエアービーアンドビー(Airbnb)、Netflix、Amazon、Appleのヘルスキット、バンキングおよびクレジットカードプロバイダーなどといった数多くの主要ブランドと提携しており、これらすべての企業がCadenユーザーのアカウントに接続できるようにしている。

自身のデータを共有することで、ユーザーがいくらの報酬を手にできるのかは、まだ決まっていない。その一部は、どのようなデータを共有してどのように使用することを許可するかによって、決まるとみられる。ケイデンが掲げる当面の目標は、ユーザーが月に15~20ドル(約2000~2600円)を稼げるようにすることだ。しかし、「その額はすぐにも年に600ドル(約7万8000円)、やがては数千ドルにまで増える可能性もある」と同氏は話す。

同社の計画は、Cadenアプリを公開した後、多層的アプローチでその機能を拡大していくというものだ。第1段階は、ユーザーのデータを集めて、それをオルタナティブデータとして金融サービスに販売することだという。第2段階として、2024年のはじめにかけてアドテク市場への進出が計画されている。これが実現すれば、さまざまなプラットフォームのターゲティング広告のために、ユーザーが自身のデータを擬似匿名化することに同意できるようになる。

そして第3段階は、識別可能な情報を基にオプトインする方法を含む、「真のKYC(know-your-customer」の構築だ。つまり、顧客を知るデータの作り上げることといえる。

ユーザーデータの活用方法

ユーザーデータの活用は、そのデータの所有者や、それを使おうとする企業によって多種多様だ。ロア氏は一例として、熱烈なウーバーユーザーである同氏のフィアンセを挙げた。このような場合、運輸ネットワーク企業のリフト(Lyft)が、顧客としての彼女の生涯価値に基づくオファーを提示したいと考えるかもしれない。

こうした例もある。もしNetflixが、あるユーザーが数週間後にモロッコへ出かけるという情報をつかんでいれば、Netflixはそのユーザーに検索させることなく、モロッコについてのドキュメンタリーを前もってレコメンドできる。

「あるユーザーが、これまでにAmazonでいくら使ったのかもわかる」と、ロア氏は語り、「その人がショッピングするのが多いのは、雨の日なのか、晴れの日なのか、それともエクササイズの日なのかといった傾向があるのか? それがその人の買い物やストリーミングに関する行動にどう影響しているのか?」と続ける。

ケイデンとライバル各社

ケイデンのコンセプト自体は、まったく新しいというわけではない。過去10年間にわたり、オゾンAI(OzoneAI)やスタートアップス・オファー(Startups Offer)、インビジブリー(Invisibly)といったほかの企業も、ユーザーがお金を稼いだり貯めたりしながら、自身の個人情報を提供できるようにする方法を模索してきた。スタートアップのポゴ(Pogo)は昨年の夏、報酬ベースのモデルで1470万ドル(約19億2400万円)を調達している。

プライバシー重視型ブラウザのブレイブ(Brave)は、ファーストパーティデータに基づき、ユーザーが表示された広告から売上の一部を受け取れるようにしている。スタートアップのスウェイペイ(Swaypay)は、ブランドと彼らの商品を気に入っているTikTokショッパーとをつなぐことを約束している。スイスを拠点とするゼロパーティプラットフォームのキービー(qiibee)は、昨年、エージェンシー企業のミート・ザ・ピープル(Meet The People)から出資を受けている

ケイデンとライバル各社は、どこが違うのだろうか? ロア氏に尋ねてみたところ、「Cadenアプリを使えばユーザーが望むままに能動的あるいは受動的に自身のデータを簡単に紐付けられる」という答えが返ってきた。ケイデンはまた、さまざまなデータタイプの点と点をつなぐのに役立つナレッジグラフ(IBMの元主席オントロジストが開発)の開発も行なっている。

同氏はまた、人々がデータのチャートやグラフを見ることができるCadenのデザインについても言及した。また、同社はChatGPTスタイルのコンポーネントの可能性など、AIを組み込むアイデアも模索しているという。

管理と透明性

プライバシー管理を声高にアピールするCadenアプリだが、その透明性は一定レベルを超えるものではない。たとえば、どのヘッジファンドがCadenユーザーのデータにアクセスできるのかを尋ねてみたところ、「同サービスを利用する企業の例を挙げることはできない」と同社は情報開示を拒んだ。

また、ユーザーは自身のデータにアクセスできる企業の完全なリストを入手できるのかについても、「できない」とロア氏は答えた。その一方で同氏は、「Cadenアプリはユーザー本人が安心できるやり方で自身のデータコレクションを管理し、自身の好みを企業と共有できる非常に適切なアプリだ」とも述べた。

「そこまで細かくやるつもりはない。整理することができなくなり、ユーザーに管理を期待することができなくなるからだ」と同氏は語り、「これについては、今後のアドテク製品の開発に合わせて、さらに慎重に対応していくことになるはずだ」という。

データを広告主に販売する仲介業者の役目を果たすケイデンは、フォレスターが当初意図したようには「ゼロパーティデータ」という言葉使ってはいない」とフォレスターのアナリストであるステファニー・リュー氏は言う。ケイデンの「ゼロパーティデータ」という言葉の使い方に疑問があることに加えて、同社がユーザーと広告主の両者にアピールできるだけのスケールを獲得できるのかについても、大いに疑問であると、同氏は述べる。

「ユーザーが管理できる部分は、広告エコシステムという壮大な構想のなかにあっては、実際にはごくわずかであり、(自身の)データ管理に関するこうしたメッセージは、よく言っても誠意が欠けており、悪く言えば誤解を招きかねない」と同氏は語る。

ケイデンに必要なスケール感は?

ケイデンのチームメンバーは、アドテク市場で豊富な経験を積んできている。最高製品責任者のアマラチ・ミラー氏は以前、数年間に渡ってグループエム(GroupM)やバイアコムCBS(ViacomCBS)のデータチームに所属していた。投資家陣には、ヤフー!(Yahoo!)の共同創業者であるジェリー・ヤン氏や、メディアリンク(MediaLink)でバイスチェアマンを務めるウェンダ・ハリス氏、オグルビー(Ogilvy)の元CEOであるビル・グレイ氏らが名を連ねている。

ケイデンは、採算が取れるようになるまでにその規模を拡大できるのか? この点はいまなお不確かだが、デジタル広告の全域で続くプライバシーをめぐる変化と、ケイデンの消費者向け製品という組み合わせが、投資家のタイラー・ピーツ氏(メディアモンクス[MediaMonks]のデータ担当グローバルエグゼクティブバイスプレジデント)を大いに楽観的にしている。

「サードパーティデータは、それがどこで手に入るのかといった点において、さまざまなタイプのビジネスにとって今も必要悪となっている」と同氏は語る。「この分野の誰もが、現状を渋々受け入れて、『この種のファーストパーティIDを強化するためのメカニズムが必要だ』と言う。しかし、これはこうしたビジネスのための永続的な価値を生み出すものではない。その価値はこれからも侵食され続けていくからだ。そもそもが、さほど素晴らしいものではない」。

ソーシャルメディアプラットフォームにとっては、数億人というユーザーを獲得することこそが、究極の目標である時代が長く続いてきた。しかし、Cadenプラットフォームにもこのスケール感が必要だと、ロア氏は思っていない。同氏が抱く1年目の目標は、数万人のユーザーを獲得することと、最低数百万ドルの継続的な年間売上を得ることだ。

成功を左右するのはデータの質と量

ケイデンは同社データの価格設定を明らかにしていないが、その収集・擬似匿名化された層は、現在の市場と似たものになる見込みだ。ミラー氏によれば、アドテクに関しては、比較対象となるものはいまのところまだないが、一部のデータにはポイントカードプロバイダーやクレジットカード会社が、ターゲティングや測定のために請求する区分に属するものもあるかもしれないという。

エージェンシーが今後、(その定義はともかくとして)ゼロパーティデータをもっと利用するようになるかどうかどうかも、いまなお疑問のひとつだ。レイザーフィッシュ(Razorfish)でデータサイエンスおよび分析担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるシシ・チャン氏によれば、ゼロパーティデータをまだ活用していないクライアントがほとんどだと述べる。その理由のひとつは、それがファーストパーティデータと必ずしも区別されていないからだという。

「価値の証明や、消費者との信頼の構築に関しても、答えを出すべき疑問が残っている」と同氏は付け加える。

エプシロン(Epsilon)でプロダクトマネージメント担当バイスプレジデントを務めるタイラー・マクダニエル氏は、ケイデンが立てる戦略の全貌を熟知しているわけではないが、その提案には潜在的な魅力があると話す。データの集め方、使い方とともに、ケイデンの成功を左右する要因のひとつは、データの質と量だ。

「提供されるデータの質が低ければ、そのせいでブランドは顧客との良好な関係を壊してしまうことになる」と、同氏は語る。「だから我々はこの問題を解決するために、そのようなことが起こらないようにすることを考える。(中略)それには、もう少し様子を見て、ケイデンの動向を把握する必要があるが、いずれにせよ、この問題にはさまざまな示唆が含まれていると私は思っている」。

[原文:New app launches through Apple hoping to win with ‘zero-party data’ when others haven’t

Marty Swant(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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