ブランドのデザインを一変させる ジェネレーティブAI :マーケティングおよびクリエイティブ企業向けの新ツールが続々登場

DIGIDAY

オーストラリア発のデザインプラットフォームであるキャンバ(Canva)は2023年3月23日、同社製品Visual Worksuite(ビジュアル・ワークスイート)用の新たなジェネレーティブAIツールを発表し、カスタムイメージテンプレートおよびプレゼンテーションの作成、動画フッテージの音楽への自動同期、デザイン内の言葉を100以上の言語に翻訳するなど、新たな機能を導入した。

そのほか、さまざまな新機能に加えてキャンバは新たに「ブランドハブ(Brand Hub)」を設け、そこを介したマーケティングおよびクリエイティブ企業向けの新ツールも投入していく。それにより、企業はたとえばスタイルガイドの備蓄、マーケティング資料の策定、社のデザイン全般におけるロゴやイメージの容易な変更などができるようになる。

究極的な目的は各々の目標を達成する手助けをすること

キャンバが最近発表したジェネレーティブAIには「Magic Write(マジックライト)」と呼ばれるテキスト生成ツールや、簡単な説明文からイメージを作成する「Text to Image」もあり、同社によればこれはすでに6000万人のユーザーが試しているという。いずれも、2023年3月前半に始まった新たな広告キャンペーンにも登場している。

「いまは極めて重要な変化の時だと捉えている」と、キャンバのチーフマーケティングオフィサーであるザック・キツチェ氏は話す。「我々の課題は、次々に現れているこの新テクノロジーをすべて、どうしたら自分のものにできるのか、そしてデザインの次なる波を起こし、究極的には我々のコミュニティが各々の目標を達成する手助けをできるのか、ということだ」。

AI分野は成長し、今年5兆円強の市場になると見込まれる

キャンバだけではない。いくつかの大手デザイン/ビジュアルプラットフォームも同じく、新たなジェネレーティブAI機能を先を争うように投入している。3月21日、アドビ(Adobe)は数多くのジェネレーティブAIツールを擁するプラットフォームとして、Firefly(ファイヤーフライ)を発表した。

3月22日は、人気ゲームデベロッパープラットフォームのユニティ(Unity)がジェネレーティブAIツール用の新たなマーケットプレイスを導入する計画を発表している。さらに、3月第三週に登場したものには、AIイメージクリエイターであるミッドジャーニー(Midjourney)のV5、ステーブルディフュージョン(Stable Diffusion)――スタートアップのランウェイ(Runway)による人気AI動画プラットフォーの第2世代――、そしてマイクロソフト(Microsoft)によるビング(Bing)およびエッジ(Edge)用の新たなText-to-Image生成機能などがある。

事実、AI分野は急速に成長している。ピッチブック(Pitchbook)の最近の報告によれば、世界全体のAI市場は2023年、426億ドル(約5兆5400億円)に達すると見込まれている。

AIツールを使いこなせるクリエイティブこそが真の勝者に

こうした革新が導くのは「アイデアがあれば、誰でも何かができるし、できるようになる新たな時代だ」と、スウェーデンを拠点に活動するデザイナーで、さまざまなAIツールの使い方をブランドに教えているライナス・イーケンスタム氏は話す。キャンバが上述の発表をした前日、同氏は米DIGIDAYの取材に応え、アドビのFireflyのおかげで「ジェネレーティブAI界の重みが一気に増したし、競争が激しさを増すなか、そうしたツールを使いこなせるクリエイティブこそが真の勝者になる」と同氏は語った。

「アドビはデザインツール界のメールチンプ(Mailchimp)――代表的なポッドキャスト広告主――と言ってもいいと思う。自分の出自をいわば無視して、上へ上へとひたすら昇っていき、ついには下々の人のために働くことを忘れた」と同氏はいう。「そして、市場にぽっかりと開いた穴をキャンバは目ざとく見つけ、それをものにして大きくなった。いまやアドビにはそれこそ無尽蔵の資源があるが、実際の話、キャンバにも同じく無尽蔵に近い資源がある」。

懸念もあり、マーケター勢は二の足を踏む

しかしながら、大きな話題になっているとはいえ、ジェネレーティブAIについては著作権にまつわる問題や偽情報に関する懸念が残っており、マーケター勢は法的グレーゾーンに入ることに二の足を踏んでいる。実際、ジェネレーティブAIが現在の盛り上がりを見せる前からすでに、マーケター勢はAIに関して漠たる不安を抱いていた。

企業のCMO勢を対象にガートナー(Gartner)が実施した2022年12月の調査によれば、70%が2025年までに最も不安視することとして、「AI倫理」を挙げている。そして2027年までに、「コンテンツの真正性を証明する何かを創り、偽情報対策をし、デマやフェイクに対処することになるだろう」と80%が回答した。同調査ではまた、AIを利用している回答者の75%が2025年までに、チームの主業務を生産作業から戦略的な取り組みに切り替えるとしている。

ジェネレーティブAIツールは依然、すべてを解決してはくれない。たとえば、イタリアのエージェンシーであるアルカージェ(Arkage)のクリエイティブストラテジー部門トップを務めるアンドレア・チュール氏は、「ミッドジャーニーといったプラットフォームではまだ、クリエイティブがイメージを完全に制御することができず、そのためクライアントであるブランドからのフィードバックに基づいた変更や修正が十分にはできない」と話す。

とはいえ、その点が改善される日は遠くないと同氏は考えている。そして、「いまはまだ、AIのアップデートがたびたび話題になっているが、そうしたニュースが特段注目もされず、ごく当たり前のものになる日も遠くはない。AIはもはや、遊び場ではない」とも言い添える。

[原文:With Canva and Adobe’s new updates, the generative AI race enters the brand design space

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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