市場 が大きく違うNYとLAを拠点とする、ブランドのリテール戦略とは?

DIGIDAY

3月上旬、ニューヨークを拠点とするポレタポルテブランド、フルール・デュ・マル(Fleur du Mal)の共同創業者、ジェニファー・ズッカリーニ氏がふたりの店長とミーティングを行った。ひとりはブランドの本拠地ニューヨークの店舗、もうひとりは、もうすぐ2周年を迎えようとしているロサンゼルス2号店の店長で、ミーティングではこのふたつのマーケットの違いや、この2店舗でどのような商品展開をしていくかについて話し合われた。

その対話は多くの興味深い成果を生んだ。たとえば、LAの顧客は年中スイムウェアを購入するが、ニューヨークでは水着は春夏しか販売しない。LAではランジェリーやラウンジウェアが圧倒的に多く、ニューヨークで何よりも売れているのはポレタポルテのコレクションだ。もうひとつおもしろい事実として、LAの顧客はカップサイズが大きくバンドサイズが小さめのブラを購入する傾向にある。これは、ニューヨークとくらべてカリフォルニアでは豊胸手術が比較的盛んだからではないかとズッカリーニ氏は考えている。

東海岸と西海岸の両方を拠点とするファッションブランドが両方の市場で成功するためには、こうした市場の違いを念頭に置くことが重要だと、ズッカリーニ氏は言う。フルール・デュ・マルのニューヨーク店はLA店よりも売上が多いが、ブランドの売上の約90%を占めるデジタル販売では、この2都市はほぼ互角である。カリフォルニアは全米で第1位、ニューヨークは第3位の経済規模を誇り、どちらの都市もファッション市場として重要かつ価値があるため、両市場で販売するブランドは、それぞれの市場に対して別の戦略を立てなくてはならない点を理解する必要がある。

西海岸と東海岸の美的感覚や買い物の仕方の違い

フランスのファッションブランド、バッシュ(Ba&sh)の北米CEOデジレ・トーマス氏も両都市の美的感覚の違いを指摘している。バッシュLAの顧客は明るい色に惹かれるが、ニューヨーカーはあらゆるものに関して黒を好む。だが、両者にはトレンドやスタイルだけではなく、消費者の買い物の仕方にも根本的な違いがあると、トーマス氏は指摘した。

「ビバリードライブの店長とニューヨークのノリータの店長とでは、やり方がまったく違う」とトーマス氏。「西海岸では、顧客のアポイントメントを重視しており、より高級なサービスを提供してスタイリストとつながる機会を多く設けている。東海岸では観光客の占める割合が大きい。顧客の出入りが断然激しく、顧客は自分の欲しいものをわかっている。西海岸はもっとカジュアルで、人々はゆっくり時間をかけている」。

ズッカリーニ氏は、両海岸の違いが小売戦略に活かされているという。フルール・デュ・マルでは、店舗の仕入れの決定に関しては、地域の顧客のことをいちばんよく理解している店長にかなりの自由裁量を与えている。ズッカリーニ氏は店長とバーチャルか直接会って定期的にミーティングを行い、売れているものに関するフィードバックを受けており、それによってメーカーへの発注や商品の発送先を決定している。

こうした違いは、同じチャネル内であってもマーケティング戦略にも影響を与える。たとえば、ニューヨークのフルール・デュ・マルの屋外広告は主に壁に貼り付けるチラシであり、歩行者に向けて宣伝している。一方、LAではビルボードが中心で、車を運転している人がターゲットだ。

西海岸の健康に対するオープンな姿勢

西海岸のゆったりとしたスピードは、ブランドの対面イベントの開催方法にも影響を及ぼす。ズッカリーニ氏によると、フルール・デュ・マルは両店舗でパーティやパネルディスカッション、新しいコレクションのプレビューなど、定期的にイベントを開催している。両店でのイベントには多くの人が参加しているが、雰囲気はまったく異なっている。

「ニューヨークでは、みんな遅れてやってきて長居はしない」と同氏は述べた。「ロサンゼルスでは、人々は早めにやって来て長居をしておしゃべりして、より長い時間を過ごしている。客層も違う。どちらの店のイベントもエディターやメディア、インフルエンサーが混在しているが、ニューヨークではメディアの方が多く、ロサンゼルスではインフルエンサーの方が多い」。

そのため、フルール・デュ・マルでは店内イベントのプログラムも異なるものにしている。たとえば、LAの店舗で最近行われたイベントに、医師がMDMA療法の潜在的なメリットについて語るパネルがあった。ズッカリーニ氏いわく、それはニューヨークではうまくいかなかったかもしれないが、健康やウェルネスへの関心が非常に高いLAの顧客にとっては「とてもしっくりくる」イベントだった。

西海岸の健康とウェルネスに対するオープンな姿勢は、ブランド全体の変革をも導いている。アウターウェアブランドのアライバルズ(The Arrivals)の共同創業者ジェフ・ジョンソン氏は、ニューヨークからサンディエゴにみずからが移転したことが、最近、同ブランドをパタゴニア(Patagonia)に競合するアウトドア志向のブランドへと進化させる原動力となったと語る。アライバルズは、ジョンソン氏が2019年に移転するまで、創業地であるニューヨークに9年間拠点を置いていた。西海岸ではアウターウェアに関する哲学が違う、と同氏は指摘した。カリフォルニアでマウンテンギアを着ている人を見かけたら、実際に山に登りに行く途中である可能性が高い。

「西海岸、特に太平洋岸北西部などはアウターウェアにとってすばらしい目的地だ」とジョンソン氏は言う。「ニューヨークはストリートスタイルのメッカであり、リーダーであり、発信地だ。一方、西海岸と北西部ではそれぞれの環境にあった着こなしがすべてなのだ。洋服のエンジニアリングや性能にもっと焦点が当てられている」。

重要な違いは店舗へのアクセス

小売業の観点では、賃貸契約や家主との関係はロサンゼルスとニューヨークでは同等だと述べたのは、小売企業リープ(Leap)の不動産担当アソシエイトバイスプレジテント、レベッカ・フィッツ氏だ。家賃相場は少し異なる。ニューヨークでは、2022年末で1平方フィート(0.09平方メートル)あたりの小売家賃が165ドル(約2万2280円)程度になる可能性があるのに対し、ロサンゼルスでは平均34ドル(約4590円)程度である。

さらに重要な違いは車でのアクセスである。ニューヨークは車が不便な密集都市であり、公共交通機関かライドシェアリングが主な交通手段となっている。逆にロサンゼルスは広範囲に広がった都市のため、車での移動が必須だ。

「LAでは、すばらしい小売店舗を見つけたと思っても、そこに駐車場がなければ、その点をよく考えなくてはならない」とフィッツ氏は言う。「カリフォルニアには、アボットキニー、3番街、そして私たちにとって新しい市場であるモンタナアベニューなど、たくさんのサブマーケットが存在する。それぞれが小さな独立した小売市場のようなものだ。さまざまなタイプのブランドが成功するための場所がたくさんある」。

フィッツ氏は東西沿岸部に店舗をオープンする際の実践的なアドバイスとして、顧客が住んでいる場所と買い物をする場所の違いにもブランドは留意すべきだと述べている。ロサンゼルスの街は広大なため、店頭で買い物をする顧客は、かなり遠くからわざわざ足を運んできている可能性がある。

「デスティネーションストアでない限り、有機的に客の出足が多い場所に店をオープンするのがよいだろう」とフィッツ氏は述べた。

[原文:Fashion Briefing: How bi-coastal brands are navigating the big differences between the two markets]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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