大気汚染は肺だけでなくメンタルヘルスにも悪影響を及ぼすという研究結果

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大気汚染は健康状態にさまざま悪影響を与えることが知られているほか、認知能力の低下にも関連していることが判明しています。新たに発表された研究では、大気汚染がうつ病などのメンタルヘルスの問題にも関連していることが示されました。

Association of Long-term Exposure to Air Pollution With Late-Life Depression in Older Adults in the US | Depressive Disorders | JAMA Network Open | JAMA Network
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2022.53668


Air pollution exposure may increase risk of depression in elderly people | News | Harvard T.H. Chan School of Public Health
https://www.hsph.harvard.edu/news/hsph-in-the-news/air-pollution-exposure-may-increase-risk-of-depression-in-elderly-people/

Air Pollution Isn’t Only Bad For Lungs, Say Studies. It’s Also Bad For Mental Health : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/air-pollution-isnt-only-bad-for-lungs-say-studies-its-also-bad-for-mental-health

Long-term exposure to air pollution may raise risk of depression later in life, study says – CNN
https://edition.cnn.com/2023/02/10/health/pollution-depression-seniors-wellness

一般に、うつ病についての議論は若い人々を対象にしたものになることが多く、高齢者におけるうつ病は比較的軽視されがちです。そこで学術誌のJAMA Network Openに掲載された論文の研究チームは、大気汚染が高齢者のメンタルヘルスに及ぼす影響を調べるため、アメリカの公的医療保険制度であるメディケアに登録している64歳以上の高齢者890万人以上のデータを分析しました。


データによると、対象となった890万人のうち152万人以上が、2005年~2016年の間にうつ病と診断されたとのこと。研究チームは加入者が住んでいる地域を郵便番号に基づいて特定し、各地域の大気がどれほど汚染されていたのかを1年ごとにマッピングしました。今回の研究では、発電所や建設現場などで放出されるPM2.5や、主に交通機関の内燃機関から放出される二酸化窒素、発電所や製油所に由来するオゾンといった大気汚染物質について調査したとのこと。

分析の結果、これらの大気汚染物質による汚染レベルが高い地域に住んでいた高齢者ほど、うつ病を発症するリスクが高いことが示されました。また、汚染レベルが比較的低くても、これら3つの汚染物質は遅発性のうつ病リスクの増加と関連していたそうです。研究チームは、「高レベルの大気汚染への長期的暴露と晩年におけるうつ病診断リスクの増加に、統計的に有意な関連が観察されました」と述べています。

論文の筆頭著者でハーバード大学公衆衛生学部の研究者であるXinye Qiu博士は、「高齢者のうつ病は、アルツハイマー病やその他の神経学的状態と同様に、一般の人々や研究者がより注意を払うべき老年医学上の問題です」「ここには明確なしきい値がないため、未来の社会はこの公害をなくすか、可能な限り減らした方がいいと考えるでしょう」とコメントしました。


さらにQiu氏らの研究では、社会経済的に不利なグループではPM2.5および二酸化窒素への暴露とうつ病の間により大きな関連が見られたとのこと。これは経済状態による社会的ストレスと、大気汚染という劣悪な条件に同時にさらされていることが原因の可能性があります。また、心臓や呼吸器にもともと問題を抱えている高齢者は、二酸化窒素の暴露によるうつ病発症リスクがより高いことも示されました。

今回の研究結果は被験者の大多数が白人だったため、異なる人種の高齢者でも同様の結果が見られるかどうかを突き止めるにはさらなる研究が必要です。また、あくまで集団レベルの相関関係について調査した研究であるため、大気汚染が実際にどのようなメカニズムでうつ病のリスクと関わっているのかはわかりません。

ほぼ同時期に学術誌のJAMA Psychiatryに掲載された論文でも、主にイギリスに住む39万人の被験者を調査した結果、大気汚染にさらされるとうつ病や不安のリスクが高まる可能性があることが報告されました。この研究では、イギリスの大気質基準を下回る汚染レベルであってもリスク増加につながったとのことで、政府はより厳しい大気汚染防止策を実施するべきだと研究チームは提言しています。

Long-term Exposure to Multiple Ambient Air Pollutants and Association With Incident Depression and Anxiety | Anxiety Disorders | JAMA Psychiatry | JAMA Network
https://doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2022.4812


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