「私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命がけで守る」という格言はヴォルテールのものではないという指摘

GIGAZINE
2023年03月04日 09時00分
メモ


by Kanijoman

哲学者ヴォルテールが発した言葉として広く知られている「I disapprove of what you say, but I will defend to the death your right to say it.(私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命がけで守る)」という格言はヴォルテールのものではなく、伝記作家のS・G・タレンタイアが書き記したものとされています。なぜ間違った情報が後世に伝えられているのかという謎について、これまでにも著名人の名言の真実を数多く暴いてきたガーソン・オトゥール氏が解説しました。

I Disapprove of What You Say, But I Will Defend to the Death Your Right to Say It – Quote Investigator®
https://quoteinvestigator.com/2015/06/01/defend-say/

「私はあなたの意見には……」という格言はヴォルテールのものとして有名ですが、実はヴォルテールが発言したという証拠はありません。現存する書物のうち、この言葉が初めて登場するのはタレンティアが1906年に出版した「ヴォルテールの友人」です。

この本の中では、1758年にフランスの哲学者クロード=アドリアン・エルヴェシウスが「精神論」という著作を発表し、その反カトリック的な内容から物議を醸したことについて書かれています。「精神論」はパリ高等法院から非難されて焚書(ふんしょ)とされましたが、ヴォルテールは本の内容そのものには難色を示しつつ、焚書は不当なものであると考えました。このことについて、タレンティアは次のように記しています。

「つまらないことでなんという騒ぎだ!」焼却のことを聞いたとき、彼(ヴォルテール)は叫んだ。そんなささいなことで人を迫害するなんて、なんとひどい不当なことだろう。‘私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命がけで守る’これが今の彼の態度である。

タレンティアはかの格言を引用符で囲んでいるため分かりにくくなっていますが、「私はあなたの意見には……」という部分はヴォルテールの心情をタレンティアが想像して書いたものであり、実際にヴォルテールにより語られたものではありません。しかしながら、今ではこの部分がヴォルテールの発言として有名になってしまっているのです。

実際、タレンティアは1939年に学術雑誌の「Modern Language Notes」で発表した論文の中で、この言葉はヴォルテールのものではなく、自分の言葉であると断言しています。


さらに詳しく調べてみると、タレンティアが翻訳・編集したヴォルテールの書簡集を1919年に出版した際、この話題に再び言及していることが分かります。タレンティアは例の格言を再掲しましたが、やはりヴォルテールの言葉だとは記さず、代わりにこの表現を「ヴォルテール主義」と名付け、ヴォルテールとエルヴェシウスの関係についてはタレンティア自身の想像と位置づけました。そして、この書簡集でタレンティアは問題の場所を以下のように書き直しています。

1759年に「精神論」がヴォルテールの詩「自然法」と一緒に焚書されたとき、ヴォルテールはエルヴェシウスの傑作を心から憎みながら(そして徹底的に罵倒しながら)も、その生きる権利を求めて、丘や谷を越えて、歯と爪を立てて闘った。本質的に、ヴォルテール主義とは「I wholly disapprove of what you say—and will defend to the death your right to say it.(私はあなたの意見には反対だが、それを主張する権利は命がけで守る)」であった。


1919年のタレンティアの表現は1906年の表現と少し違っていました。例えば、前にはなかった「wholly(完全に)」という言葉が挿入されているほか、かの部分が太字になっており、この表現がヴォルテールのものではなくタレンティアのものであることを明確に示す文章構成になっています。

しかし、このことを誤って伝えてしまう人が次々と現れ始めます。1920年、ロバート・デルというフランス愛好家は、著書の「My Second Country (France)」のなかで「ヴォルテールの寛容さは、エルヴェシウスへ宛てた手紙の中の有名な一節『I wholly disapprove of what you say and will defend your right to say it.』に最も良く現れている」と書いています。さらに1920年6月、サウスダコタ州アバディーンの新聞が「wholly」版の格言を引用して「あらゆる国の自由を愛する人々が言論の自由の必要性を訴えてきたが、ヴォルテールほどこのことを端的に表現した人物はいなかった。『I wholly disapprove of what you say—and will defend to the death your right to say it.』」と書きました。


その後、格言がヴォルテールのものという誤認が指摘された例もあります。1943年、コロンビア大学のバーデット・キネがModern Language Notesに発表した短い論文にタレンティアが1939年にキネに送った重要な手紙が掲載されていますが、この手紙中でタレンティアは「私の著書の中にある『私はあなたの意見には……』という言葉は私自身の表現であり、引用符で囲むべきではありませんでした」と記しています。

オトゥール氏は「結論として、多くの研究者がヴォルテールの著作の中からこの引用を見つけようと試みましたが、結局見つかりませんでした。この言葉は、おそらくタレンティアが1906年に出版した『ヴォルテールの友人』という著作の中で広めたものでしょう。タレンティアの言葉は、彼女の考えるヴォルテールの視点を印象的かつ優美に映し出しています」と述べました。

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