【山田祥平のRe:config.sys】なんちゃってDXはまだ続くのか

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 Adobeが、Windowsの標準ブラウザであるMicrosoft EdgeにAcrobatのPDFテクノロジーを提供することになった。全世界14億人ともいわれるWindowsユーザーのPDF利用体験を向上させ、さらなる価値を得られるようにするという。

標準としてのPDF

 AcrobatのPDFエンジンが実装されたEdgeブラウザは、2023年3月から、すべてのWindows 10、11のユーザー向けに提供されるという。

 PDFはAdobeが作ったプラットフォームであり、Adobe純正のレンダリングエンジンを使って表示するのがまっとうな手段だ。その表示が基準となるだろう。

 AdobeとMicrosoftが、Microsoft Edgeに内蔵されたPDFリーダーに、Adobe AcrobatのPDFエンジンを搭載することで、PDFの表示に際する微妙なレンダリングの違いなどに悩まされることはもうなくなる。色やグラフィックスの表示などに関しても、その忠実度が向上するはずだとされている。

 PDF形式のファイルそのものの入手については、それこそ多くのサイトが公式文書、取扱説明書、地図といったさまざまな種類のドキュメントを配布していて、それをダウンロードして読んだりする機会は多い。

 また、Windowsの印刷機能、さらには、アプリごとの印刷機能としてPDFへの出力ができるようにもなっていて、それを使うことで、自分でPDFを作ることもあるだろう。多くのアプリがあるが、PDFを作れば、それを読む側は、アプリごとにビューワーアプリなどを個別に用意する必要もなくなる。標準化の恩恵はそんなところから始まる。

 Windows PCを使っていて、PDFを表示するためには、いろいろな方法がある。もっともオーソドックスな方法としては、PDF表示のためのAdobe純正アプリ「Adobe Acrobat Reader」を使う。これは「世界で最も信頼されている無料のPDF閲覧ソフト」と提供元のAdobeが主張するアプリだ。

 ただ、ブラウザのページ遷移の中で、PDFへのリンクを開こうとしたとき、閲覧用アプリとしてのAdobe Readerではなく、ブラウザのウィンドウ内でPDFが表示されることも多い。この表示に使われているレンダリングエンジンはAdobe純正のものであるとは限らない。

 だからこそ、今回、Windowsの標準ブラウザであるEdgeのPDF表示用レンダリングエンジンをAcrobatと同じものにして、微妙な差異によるエンドユーザーの混乱を抑制しようというわけだ。

 PDF閲覧のためのアプリは、有償のもの、無償のものなど、数多ある。そして、それぞれが独自の方法でPDFを解釈する。その解釈が微妙に異なると表示の見かけが異なってしまうわけだ。また、表示のみならず、アプリごとに、そのUIも異なるが、今回のEdgeによるAdobeのレンダリングエンジン実装はUI、UXは無関係のようだ。

 もっとも、AdobeはChrome用Edge用に拡張機能として「Adobe Acrobat : PDF の編集、変換、署名ツール」を無償提供してきた。それをインストールしておけば、ブラウザ内蔵のエンジンを使うことなく、Adobe純正のエンジンが使われる。今回の協業では、Windows 10、11でEdgeブラウザを使うユーザーは、特別なインストール作業などをしなくても、最初から、Adobe純正のエンジンを使ってPDFを表示できるようになるということだ。

 ちなみに、冒頭のスクリーンショットは、現行のEdgeを使って総務省が公開する「情報通信白書令和4年版ポイント」のPDFを表示したものだ。左がAdobeの拡張機能での表示、右がEdge内蔵エンジンでの表示だが、微妙に違うのことが分かる。UIも大きく異なる。よく使う拡大縮小のボタンがAdobeは右下、Edgeは上になっているのでいつも手が迷う。しかも、本家のAcrobat Readerアプリでは、拡大縮小のボタンはEdgeと同じ上部なのだ。これはひどいと思う。

遅々として進まない閲覧体験の改善

 PDFは、Portable Document Formatの頭文字をとったもので、アプリやOS、ハードウェアに依存しない表示を実現するために開発された。仕様そのものは国際標準化されている。最初のバージョンは1993年だった。仕様については無償で公開されていたが、2008年にはISOによって国際標準化されている。

 PDFは、バージョンごとに機能が追加され、単なる電子の紙の概念を超え、インタラクティブなページ構成、フォーム、電子サイン、DRM、構造化といった多彩な機能が実装されてきた。だが、多くの人々にとっては、電子の紙として、どんな環境でも、ほぼ同じ見かけの文書表示が得られる便利な存在として認識されている。

 ただ、そのことゆえに紙から逃れられない面もある。例えばあらゆるデバイスにA4縦といったフォーマットを提供することができても、うれしいのは、A4縦サイズに近いサイズの表示デバイスを持っている場合だけで、それより小さな表示デバイスでは拡大やスクロールの操作が必要だし、大きな表示デバイスでは、見開き表示をしてもまだ大きく感じることもある。表示デバイスが多様化し、手のひらサイズのデバイスから50インチ超のデバイスまで多岐にわたるなかでの悩みだ。そういう意味ではPDFというのは、すでに役割を終えたと考えることもできる。

 Adobeとしても、そんなことは百も承知で、2020年に、その閲覧体験を向上するための「Liquid Mode」を発表している。個人的には切望し、待ちかねている機能だ。Adobe Senseiが見出し、段落、画像、一覧、表などのPDFの要素を把握して特定、オリジナルと同一であることを捨て、ダイナミックなカスタマイズ表示が可能となる

 残念ながら、正式な日本語化は2021年以降とされているが、現時点ではまだ実装されていない。本当に正式リリースを楽しみにしている。今回のEdgeへのエンジン実装が、そのための布石になるようならうれしいと思う。

 なお、現行のAcrobat Readerには、表示メニューのズームに「折り返し」という機能が用意されていて、開いたPDFの表示をリフローすることができるようなっている。ただ、これは元の文書の作り方次第でうまく機能することもあれば、まったく役にたたないこともある。前述の総務省による情報白書は、ePubファイルまで用意されているのに、元のエディトリアルデザインがそのことを想定していないために、何の役にもたたない悲惨さだ。

 本当は、行政にはこうしたところからのDXを期待したいし、世の中の規範になってほしいところだ。電子化すれば、それがデジタルということではない。このことについては過去にも何度かふれているが、今回の標準化を機に、多少の進捗があればいいなと思う。

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