ファッション&ビューティーブランド、在庫処分のための「作りすぎました」セールに傾注

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

多くのブランドが余剰在庫を処分するため、1月に入ってもセールや大幅な値引きが続いている。

これらの割引は多くの場合、「フラッシュ」プロモーションや、「we made too much(作りすぎた)」セールとして販売されている。このような販売手法は、何年にもわたってブランドで使用されてきた。ルルレモン(Lululemon)は好調な売上を記録し続けているが、何年にもわたって「we made too much」セクションを設けており、現在は売上上位のアイテムを、幅広いサイズとカラー、最大半額で提供している。

しかしこの1月には、通常よりも多くの商品を売り出したいと考えている多くのブランドが、同じ手法を採用した。これらのセールは、小売業界全体が、パンデミックのあいだに起きたeコマースの急増に対して楽観的に対応しすぎたことに起因する、過剰在庫に対処し続けているなかで行われているものだ。たとえば、クリーンスキンケアブランドのアーサメイジャー(Ursa Major)は、クレンザーや美容液などの「特別提供品」について最大40%の割引を行っている。靴ブランドのホップスタジオ(Hopp Studio)も、製造終了や試着済みの靴を対象とした、同様のシーズン終わりの倉庫セールを行っている。セールは顧客のコンバージョンと商品の販売について、たしかな実績を持つ戦略ではあるが、めったに割引を行わない新興ブランドでさえも、在庫の問題を抱えていることを示唆している。

商品一掃のための販売戦略

米LAを拠点とする婦人服ブランドのカーリーン(Carleen)の創設者であるケルシー・パークハウス氏は、小規模生産を行う企業にとって、定期的なセールは、割引を求める様子見の顧客のコンバージョンを上げるために役立つと、米モダンリテールに語った。

「当社は多くの小規模企業と同様に、勢いづいたeコマースの波に合わせて生産の決定を行ったが、現在ではその波も減速している」と、パーカーハウス氏は述べている。

カーリーンは、ルルレモンやギャップ(Gap)のような大手ブランドほどの過剰在庫を抱えているわけではないが、古い商品を一掃するためにウェブ上の期間限定セールは重要な手法だと、同氏は語る。同社は昨年、製品の継続的な刷新が必要となるドロップモデルを採用し、生産時期を分散させることに成功した。同社は今月、次のコレクションに移行するため、生産数が多く、引退を予定している一部の冬用商品を対象に、24時間のフラッシュセールを行う。

ソーシャルメディアの投稿やメールの件名に「フラッシュセール」という言葉を入れることで、ほかのメールによるキャンペーンと比べてクリック数が増え、トラフィックが急増する。たとえば、パーカーハウス氏は1月に送信したフラッシュセールの通知メールは開封率が40%、クリック率が5.5%に達したと語る。これは2022年12月に、カーリーンのギフトガイドのメールの開封率が39%、クリック率が1.6%だったのと比べて大幅に上昇している。

パークハウス氏は次のように述べている。「これは、『この商品が完全に入手不可能になる前にお買い求めになるチャンス』という通知だ。特定の商品だけのセールは、すぐに購入しなければならないという雰囲気を作りだし、多くの場合、一般的なサイト全体のプロモーションよりも効果的だ」。

膨大な在庫を抱え続けるアパレルブランド

アパレルブランドは特に、不確実な予測に起因する、膨大な在庫を抱え続けている。ジェーン・ハリ・アンド・アソシエイツ(Jane Hali &
Associates)のアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏は、ルルレモンがセールを続けているのは、こうした問題を大きく物語っているという。

「ルルレモンの『we made too much』に選ばれているのは、通常は季節限定のスタイルや、人気のない色の商品だ」と同氏は述べる。しかし、同社のウェブサイトでは現在、このセクションにレギンス、スポーツブラ、タンクトップなど、これらのセクションにある、数十種類もの女性向けスタイルを販売している。「同社は最近の決算発表が好調だが、在庫が多すぎるようだ」と、同氏は付け加えている。

同氏はさらに、ある商品の在庫が多すぎるという名目でセールを行うことは、売れ残った商品を大々的に宣伝することなく処分するための巧妙で簡単な方法だと語る。「年間売上と結びつける必要がなく、1回の買い物量を増やすために役立っている」と、同氏は述べている。

ジョージ・メイソン大学のビジネススクールで情報システムと運営管理の准教授を務めるメフメット・アルタグ氏は、「インフレ率が比較的高く、顧客がショッピングにおいて価格に敏感であることから、この傾向は今年も続くだろう」と語っている。

危険なサイクルを引き起こす可能性

しかし同氏は、大幅な割引をプロモートし続けると、ブランドの価値を下げ、買い物客にとって新たな期待を抱かせることになると可能性があると警告する。「このような種類の割引を行うと、顧客は確実に、購入する前に『待つ』ようになるだろう。その結果、小売業者はさらに割引を行う必要があり、それによって自社の利益に悪影響がおよぶことになるだろう」と同氏は述べている。

概して、過剰在庫を低価格で一掃するのは、顧客が正規価格を支払わない危険なサイクルを引き起こす可能性があると、同氏は語る。

また、小売業者が売れ残った大量の商品を処分するために売りさばく必要性を訴えるのも、こうした理由からだと、同氏は述べている。

カーリーンのパークハウス氏にとって、これは過剰な商品を、特売を探している買い物客に対してどのように位置づけるかを戦略的に考えることを意味する。

「セールは事業の一部だが、同時に、商品の価値を高く保つよう心がけている」と、同氏は述べる。そのため、現在のところ、過剰在庫のための常設のブランドセールセクションを立ち上げる予定はない。「しかし、その一方で、当社を支持し続ける熱心な顧客に対しては、期間限定プロモーションを提供することなどで、報いたいと思っている」と、同氏は述べている。

[原文: Fashion and beauty brands turn to ‘we made too much’ sales to offload inventory]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

Source