君は豆腐パックの水を飲むか

デイリーポータルZ

「清涼飲料水統計2022」によると、世に出る新商品の数は毎年千を超えるそうだ。

へえ、とコンビニの飲料売場を見れば確かに圧倒的な品揃えである。

お茶ひとつとっても、ほうじ茶玄米茶烏龍茶ジャスミン茶にルイボスティー、濃い緑茶に脂肪を燃やすお茶。タピオカの流行に紅茶以外のお茶を甘くして飲んでもいいのだと気付かされたのも記憶に新しい。次々に現れる新商品があらゆる需要に応え、売場を拡張していく。

しかしこれだけの種類の飲み物が揃えられてもなお、わたしたちはさらに狭く細いけもの道をゆく。

「これでいい」と「これがいい」のあいだで

二人暮らしをはじめてしばらく経った頃、味噌汁をつくる私の横でパック豆腐の水をいそいそとコップに移して飲む彼を見て「これはえらいひとと付き合ってしまったな」と思った。

飲み物として売られているものではないし、誰かに習って飲んだわけでもない、誰もあとに続かない。完全な野良道である。

もしかすると、人の数だけそういう野良道が、ひっそりと愛される飲み物があるのではないか。

そう思って「自分だけが飲んでいる、ちょっと変わったおいしい飲みもの」をアンケートで募集したところ、たくさんの回答が集まった。

集まった飲み物をざっくり分類してみると3種類に分けられた

もったいないしめんどうだし「これでいい」というタイプと、自分の理想の味を求める「これがいい」タイプ。そして誰かからもらった飲みものをずっと覚えているタイプ。

読んだだけで味や飲んでいる風景が思い浮かぶものもあれば、まったく知らない世界を覗かせてくれそうなものもある。これは飲んでみなければ。

せっかくお気に入りを教えてもらったのだ、味の良し悪しではなく「こういうときに飲みたい!」というシチュエーションを考えながら飲み比べることにした。どれがどの飲み物のことか、想像しながらご覧ください。

筆者とDPZ編集部の4名でお送りします!
トップバッターは編集部の石川さん。

過去にはジュースを水で薄めたものを「貧者のフルーツウォーター」と呼び、飲み物界に激震を起こしたレジェンドだ。

普通のコーラではなく、カロリーゼロのコーラを選ぶのがこだわりだそう。

3yk:石川さんは普段白湯のバリエーションとして飲んでいるんですか?

石川:白湯は味がないから飲まないです。味があるのが大事なんです。

「コーラとしてではなく、味の付いた白湯だと思って飲んでください」と言う石川さんに、ゼロ・コーラの僅かな炭酸が存在を訴えている。
ズッ
ありがた~い

ほのかな酸味とカラメル、シナモンみたいな漢方っぽい香り。ただの薄めたコーラと思いきや、意外にも複雑な味だ。

古賀:ばあちゃんちで出てきたら、あーまた変わった飲み物飲んでら、ぐらいで受け止められそう。

ぼんやりした味の靄の向こう側に、「台所で薬代わりのコーラをお湯で薄めるおばあちゃん」という情景がぼやぼやと浮かんでくる。AIに描かせた絵のような曖昧さである。

ノーマルコーラでも試してみたが、ゼロコーラに比べて柑橘のような酸味だけが目立ち、よりケミカルなはずのゼロコーラのほうが滋味深いという結果となった。

古賀:これはたしかに冬の在宅勤務にぴったりだ。からだがぽかぽかしてきた気がするね。

3yk:何も考えず飲み続けられますね。

「コーラのお湯割り」飲むならこんなときに
冬の在宅勤務中、無心で飲む

次から、いよいよ投稿でいただいた飲み物を試していこう。

3yk:冬の夜におばあちゃんと一緒につくって飲んでたっていう一文がいいですよね 

林:吉本ばななみたいな世界観ですね

手作りではないけれど、昔ながらのしょっぱい梅干しを入手しました
一口飲んで、めでたい……とため息が漏れる一同

林:初詣の神社で並んでいるときに配ってくれたら嬉しいなあ。これで寿命が5年延びるぞって言われたい。

古賀:これは冬の季語になり得ますよ。

味としては梅の気配がするお湯なのだが、梅って果実だったんだ!と気づかせるフルーティーさが「いいもの感」を演出している。

3yk:底に溜まってる、砂糖がまぶさった梅干しがまたいいですよ

石川:これは確かに、しょっぱい梅干しが正解ですね。お湯に味が負けていない。

「祖母がつくった梅干しに砂糖とお湯を注いで飲む」飲むならこんなときに
初詣の行列に並び、体が冷えてきた頃に神社の人が配ってくれる

3yk:次は一転して、怠惰な方向からの投稿です。

林:小腹が空いたときにケチャップを舐めるわんぱくっぷり、最高ですね

いざ実食。
……全然ありがたみはないね……!!

石川:匂いはトマトじゃなくてケチャップですね。何か色々と足りていない、ギリギリのトマトスープ

ピザと合わせて飲んだらいいのでは?という意見も出たが、おそらくピザを食べた後にお湯を飲んでも同じ味になるだろう

古賀:私は結構好きかもしれないですね。これだけだと足りないけど、この先にピザとかオムライスが来るぞ来るぞっていう、予感、ワクワクがある。

林:オムライス屋の行列に並んでいるときに出されたら、完全に準備万端になるね

3yk:家族で外食行くときに、意見が割れることあるじゃないですか。「俺はオムライスより寿司が食べたい」って。そういうときに飲ませたらいいんじゃないですか。

古賀:「まあまずはこれ飲んでから考えてみてよ」って。

林:これ飲んだあとでも寿司食べたいって思えたら、たいしたもんですよ

「トマトケチャップのお湯割り」飲むならこんなときに
家族で外食、「オムライスより寿司がいい」と仲間割れになったとき

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気がついたら冷蔵庫の隅でカピカピになっている紅しょうが。
小さな好奇心から生まれたお気に入りの飲み物は冷蔵庫の救世主になるだろうか。
鮮やかな蛍光色

古賀:うおっ味が強い!!!今までのなによりも味が濃い!!

紅しょうがは生姜の梅酢漬けだから、味の構成的には梅干しのお湯割りと同じはず。しかし飲んでみると酢、塩っ気のインパクトが強く、ジャンクさに振り切れている。

古賀:薄めて砂糖を足したらコンビニに売ってるねり梅の味だ!

石川:意外とジンジャーエールにはならないんですね

コップに入っていた生姜を茶柱だ!とよろこぶ林さん。かじるといいアクセントになるそうだ

石川:毎朝一杯飲むっていう健康方法がありそうですね

林:紅生姜っていうのが、親戚のおじさんっぽいですね。酒ばっか飲むのやめて、体のことも考えてんのよって。

「紅生姜のお湯割り」飲むならこんなときに
酒飲みの親戚のおじさんに「毎朝一杯、俺が考案した健康法」とすすめられたとき

林:さすがにシンプルすぎませんか? 

古賀:レシピを削いで削いで削いで最後に残ったものが「水と酢

3yk:意識が高いラーメン屋みたいですね

古賀さん「うお!すっぺえすっぺえ!一旦解散だこりゃ!」
林さん「フフ、理科実験室のにおいだ……」

林:なんかしらの工場見学で飲まされる味ですよ。
子どもたちにぶへーっって言わせて、ここから発酵させて2ヶ月、おいしくたのがこちら!って驚かせる、踏み台の味。

3yk:まだ工程の途中だったんだ!

投稿者さんがたどり着いた原点への回帰を、工程途中のものだなんていう私たち。いったいあと何周人生をまわしたら追いつけるのだろう。

「お水にお酢を入れたもの」飲むならこんなときに
工場見学で味見させてもらった、大事な工程を踏む前のものとして

この記事の公開後物議をかもしたパック豆腐水。
企画に対するコメント数と同じくらい「飲まないでしょ」と言われたがはたして理解は得られるのか…

林:これは……豆腐だね

古賀:めちゃくちゃ体に良いよってデータがあれば…飲むかな……

林:湯豆腐の汁って、すぐポン酢汁になっちゃうじゃないですか。そのときに割下として豆腐水が足されたら嬉しいと思う

石川:蕎麦湯的なポジションだ

「パック豆腐の水」飲むならこんなときに
湯豆腐の汁がポン酢汁になっちゃったときの割下として

石川さん「要するに大根の100%ジュースですね」

古賀:さんま食べたあとの皿にこの汁があるよね!!!

林:居酒屋の取り分け用の小皿でさ、焼き魚とか厚焼き玉子と、大根おろしとって食べて、これで次にサイコロステーキ載せたらうまい!っていうときの汁ですよ。「あ、皿変えなくていいです」って言うやつ。

飲み物としては……大根汁とビールのちゃんぽんで飲み会になり得るか?と一瞬希望が見えるも、どうも遠くの方に食べ物のイメージがちらつく。

そのあと我慢できずに食べた、大根おろしの本体側のなんとおいしいこと!シャリシャリとした舌触りと清涼感がいつも以上に嬉しくて、大根汁にはブースト的役割があるようだ。

「大根おろしにうっすら醤油」飲むならこんなときに
本体を食べる前の、助走として

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3yk:あれこれ飲んでるのに、なんだかおなか減ってきちゃいましたね

古賀:さっきからずっと食べ物の残像が見えるばかりなんですよね。実体がない。 

林:何の口でもなかったのに、飲んだ途端ぼやあ…って食べ物の輪郭が浮かんでくるんですよね。マグリットみたいだね。

ルネ・マグリット《大家族》(1963年)宇都宮美術館webサイトより

林:やった、これは完全に実体がありますね!

石川:わびしさから抜け出しましたね

トマトジュースと混ぜたからってゼロカロリーにはならないね?という無粋なツッコミは置いておいて……
未だかつてない濃厚さ

古賀:フルーツトマトみたいな、良い甘いトマトの味になったね。ふるさと納税で売ってそう!

林:ヤクルトの存在感はあまりないですね、最後にちょっとだけ振り返る。

古賀:美味しいトマトジュースもらったのよ~って瓶で出せるよ、お客様に。

「トマトジュースにヤクルト」飲むならこんなときに
友人が来たときに「ふるさと納税で買ったの」と言う

古賀:また割るのか~~

3yk:なんでそんなにお湯で割りたがるんだろう

石川:思うに、「味を薄めたい」「量を増やしたい」「手軽にあたためたい」の3つがありそうですね。

石川:これはあたためたいのかな。ヤクルトを単体であたためるのは大変でしょうしね。

林:これ、懐かしい飴の味がしませんか

古賀:チェルシーの緑の箱じゃないですか?!ヨーグルト味!

林:それだ!

3yk「チェルシー、子どものころ食べてたなあ……」ほっとするあたたかさも相まってすっかり気分は小学生時代にタイムスリップだ

「ヤクルトのお湯割り」飲むならこんなときに
風邪を引いて学校を休んだ日、NHKを見るにも飽きてぼんやり啜る

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石川:お茶漬けにホットミルク……全然想像できないですね……

3yk:あたたかい牛乳って、なぜかそれだけで恐ろしくないですか

古賀:わかるよ、底知れなさがありますよね

恐る恐る温かい牛乳を注ぐ
昆布出汁がシーフード感につながるのか、クラムチャウダーのような香りがする

古賀:……ん!おいしい。おいしいね、これ!

石川:これはもう料理ですね スープ風でなくてスープそのもの!

古賀:夕飯に出せるよ。パスタに絡ませても良い。いいこと知ったな~!

「お茶漬けの素にホットミルク」飲むならこんなときに
よそで食べたことないけど、我が家では大人気の味

お茶漬けに続き味噌汁。こちらは既につくられた味噌汁をさらに牛乳で割るというアイデアだ。

林:二日酔いに効きそうですね

3yk:割り方は体調によるっていうのが面白い

林:牛乳は体力を使うのかな

あっ……うーん?首を傾げる石川さん

3yk:思ったより乳臭さがありますね……お茶漬けのときは気にならなかったのに

林:ちょっとひとんちっぽさがありますね、郷土料理らしさというか。

3yk:郷土料理わかります、寒いところにありそう

林:蟹とか具が増えたらおいしそうですよ

古賀:わたし割と好きかも、いけるひと!

うちんちの夕飯で出すんで、「これがひとんちか〜」って言ってください!

「味噌汁の牛乳割」飲むならこんなときに
寒い地方に住むおばあちゃんちで出てくる郷土料理

最後はあまりにも暮らしぶりが伝わるナイスな投稿。

林:日常ですね、最高 

3yk:このささやかさを共有してくださって、ありがとうございます

まだもう一枚食パンいけるかな……と悩めるいちごジャムの瓶
ま、そろそろ新しい味に変えたいし!今甘いもの飲みたい気分だし!
シェイクしているあいだ、林さんがおやつの出来上がりを待つ子どもみたいな表情をしていた
ごろごろ果肉が見え隠れするフルーツ牛乳のできあがり!

石川:あ~これはおいしい、とろっとしてフルーチェ感がありますね

古賀:思ったほど甘くないですね、ほどよい

3yk:この素朴さは酸味がないからかな、レモンを入れたら垢抜けそう

古賀:逆に今のこのぼんやりした感じがいいね

林:昭和のおやつ、花柄ポットの味だ

3yk:ヤングドーナッツといっしょに食べたいですね

「ジャムの瓶に牛乳注いだやつ」飲むならこんなときに

昭和の鍵っ子が発明した、ヤングドーナツに合う最強の飲みもの

ドリンク持ち寄りピクニックをしよう

集まった飲み物を実際に飲んでみたら、人の素の部分にさわらせてもらったような気持ちになった。

話したことも会ったこともないひとたちが集まる機会があったら、それぞれの推し飲みものをポットに詰めてピクニックをしよう。あっという間に仲良くなれそうだ。

AIに描いてもらった「台所で薬代わりのコーラをお湯で薄めるおばあちゃん」

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