寒い冬を乗り切るには暖房の設定温度を上げるよりも正しく服を着こむ方がはるかに節約につながる

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2023年01月31日 21時00分
メモ



本格的な冬の到来によりエアコンなどの暖房器具の使用機会が増え、電気料金の値上がりを如実に実感している人も多いはず。そんな寒い冬を乗り切るには、断熱性能の高い家やエネルギー効率の高い暖房器具を使うよりも、正しく服を着こむ方が圧倒的に節約につながるとLow-tech Magazineがまとめています。

Insulation: first the body, then the home – LOW-TECH MAGAZINE
https://www.lowtechmagazine.com/2011/02/body-insulation-thermal-underwear.html

過去数十年にわたり、住宅の断熱性能と暖房器具のエネルギー効率は比較的に向上しており、これによりエネルギー消費量は大幅に削減されています。例えばアメリカの場合、人口の増加および快適性レベルの向上にもかかわらず、暖房器具のエネルギー消費量は1993年から2005年にかけて約19%も減少しており、同様の傾向は他の先進国でも見受けられるそうです。

それでも依然として暖房器具のエネルギー消費量は膨大で、そのほとんどが化石燃料に依存しています。また、断熱性能の高い最先端の住宅設備によりエネルギー消費量を抑えられるという主張もありますが、こういった主張の大半が「古い建物を解体し、新しい住宅を建てるのにかかるエネルギー消費量を考慮していない」とLow-tech Magazineは指摘しています。

加えて、最先端の断熱材を利用した住宅やエネルギー効率の高い暖房器具はそもそも高価であるため、誰でも手軽に揃えられるというものでもありません。


こういった問題に対処するための簡単な方法が、「暖房の設定温度を下げてより多くの服を着る」です。暖房の設定温度を下げることでどの程度エネルギー消費を節約できるかは、屋外の温度によって異なってきますが、温暖な気候であっても暖房の設定温度を1度下げるだけで約9~10%もエネルギー消費を節約することが可能であることが判明しています。

アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)は、冬の室温を摂氏21~23度に設定することを推奨しています。オランダの報告書によると、冬の平均室温は1984年時点では摂氏20度だったのが、1992年には摂氏21度に上昇したそうです。これらのデータは室温の上昇を証明するには十分ではないかもしれませんが、暖房器具の改善により多くの人にとっての快適レベルが年々上がっていることは想像に難くありません。

1993年から2005年にかけて、暖房器具のエネルギー消費量は20%程度削減されました。しかし、これは暖房器具の設定温度を2度ほど下げるのと同程度のエネルギー節約効果しかありません。暖房器具の設定温度を22度から18度に下げれば、エネルギー消費量を35%も節約することができるため、暖房器具の設定温度を下げて服を着こむことをLow-tech Magazineは推奨しているわけです。


そもそも、人体深部の体温は摂氏37度程度ありますが、皮膚温度は摂氏33~34度前後となります。皮膚温度が下がるのは環境温度が体温よりも低いためです。熱放出は呼吸や皮膚から行われますが、大半は皮膚からであり、これを防ぐために人間以外の動物の多くが毛や羽毛に覆われています。

皮膚からの放熱を防ぐために衣服の着用が必要となるわけですが、衣服事態は熱を発生させるわけではなく、あくまで体温が外へ逃げていくことを防ぐだけです。これは皮膚と衣服の間にある空気の層を温めることによって起こるものであり、空気は熱伝導率が比較的悪いため優れた断熱材になるとのこと。実際、家の断熱システムも基本的には同じように空気が利用されています。家と人間の断熱方法の違いとしては、人間の場合は体を動かせるように皮膚を包む衣服を軽くて動きやすいものにする必要がありますが、家の場合は動いたり快適さを求めたりする必要がないため、硬くてかさばる材料を使用することが可能です。

衣服の断熱特性は「clo」という単位で表すことが可能。これは標準的な国際単位ではないものの、1cloは0.155m²K/Wに相当し、スリーピースのビジネススーツ(シャツ・パンツ・ジャケット)と薄い下着を着用した状態に等しい断熱効果があります。なお、1cloは摂氏21度の環境で快適に過ごすことができる断熱特性を意味します。ヨーロッパでは「tog」という同様の断熱特性単位があり、1tog=0.645cloに相当。建築断熱材の「R」とも比較可能で、1clo=0.88Rです。

労働安全衛生百科事典によると、中立的な温度感覚を維持するために必要な断熱特性は、摂氏10度の室温で約「2.7clo」だそうで、室温が摂氏0度に下がると必要な断熱特性は「4clo」まで上昇するそうです。ASHREAによると、室温が1度変化するごとに、衣服の断熱特性も「0.18clo」程度変化するとのこと。


ASHREAによる衣服の種類毎の大まかなclo値は以下の通り。着用している衣服のclo値を単純合計することで、断熱特性を計算できます。

半袖Tシャツ:0.10clo
ノースリーブの下着:0.06clo
女性用のブルマー:0.20clo
半袖シャツ:0.15~0.25clo
長袖シャツ:0.20~0.30clo
ズボン:0.25~0.35clo
ロングスカート・ローブ:0.22~0.77clo
セーター:0.30clo
ブリーフ:0.05clo
靴下:0.04~0.10clo
長袖の下着:0.20~0.35clo
タイツ:0.20~0.35clo

なお、Low-tech Magazineは「あくまで一般的な経験則」としつつ、clo値は衣服の重量の0.15倍(単位はポンド)に相当するとしています。ただし、材料工学の発展により軽くてclo値の高い衣類も登場しているとLow-tech Magazine。日本で絶大な人気を誇るヒートテックなどの機能性インナーはまさに「軽くてclo値の高い衣類」のひとつです。機能性インナーなどのclo値を正確に文書化したものは存在しないものの、約2倍で概算しています。

他にも、体にピッタリフィットするロングTシャツやタイツは最適な「ポンピング係数」を持っています。ポンピング係数はclo値に加えて衣類の断熱性を定義するもう一つの要素で、着用者の動きによって生じる空気の動きを示す指標です。例えば、ポンチョやワイドパンツといったゆったりした衣服よりも、体にピッタリとフィットする下着の方がはるかにポンピング係数が優れているため、clo値が近い衣服でも実際の断熱効果は断然ポンピング係数が高い衣類の方が高くなるそうです。また、「単一の大きな空気の層」よりも「複数の薄い空気の層」をまとっている方が断熱効果が高くなるため、clo値の高い下着や衣類を着こむことで、高い断熱効果を期待することができます。


なお、アメリカ空軍のサバイバルブックによるとロングパンツ(0.25~0.35clo)を2枚重ねて履くと「1.5clo」となり、2倍以上のclo値に跳ね上がり断熱効果が一気に高まるそうです。

この他、室温以外にも体を動かさずにじっとしているのか、タイピングなどの軽い動作を行っているかなどによって、必要なclo値は変化してきます。例えば室温が摂氏10度の場合、体を動かしていない場合は「2.7clo」が必要になりますが、タイピングなどの軽い活動を行っている場合は必要なclo値が「1.7clo」程度に下がるそうです。Low-tech Magazineによると、熱生成が30ワット増えるごとに快適温度は約1.7度低下するそうです。

ただし、人が快適と感じる温度は性別や年齢だけでなく、個人によっても大きく異なってくるため必要なclo値はあくまで参考程度にするのが良さげ。それでも衣服を正しく着込むことによる断熱特性は無視できない効果があるため、節約には非常に効果的であるとLow-tech Magazineは記しています。

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