インターネットから子どもを保護しなかった企業幹部に懲役刑を科すオンライン安全法案修正にWikipedia運営団体や人権団体が反対を表明

GIGAZINE



未成年をインターネットの害から守ることをサービスプロバイダーに義務付ける「オンライン安全法案(Online Safety Bill)」が、2023年1月17日にイギリス議会庶民院で可決されました。このオンライン安全法案はネットサービスを提供するテクノロジー企業に対してコンテンツの削除や未成年のアクセス制限を義務付けるものですが、Wikipediaを運営するWikimedia財団や一部の人権団体がこの法案に異を唱えています。

Tech bosses could face jail after UK govt backs down over online harm | Reuters
https://www.reuters.com/world/uk/tech-bosses-could-face-jail-after-uk-government-backs-down-over-online-harm-2023-01-17/

TechScape: Finally, the UK’s online safety bill gets its day in Parliament – here’s what you need to know | Social media | The Guardian
https://www.theguardian.com/technology/2023/jan/17/online-safety-bill-meta-pinterest-snap-molly-russell

Wikipedia Says It Should Be Given An Exception In The Online Safety Bill / Digital Information World
https://www.digitalinformationworld.com/2023/01/wikipedia-says-it-should-be-given.html

オンライン安全法案は、ロンドンに住む14歳の少女が突如自殺を遂げた事件がきっかけになって作成されました。亡くなった少女のスマートフォンからは、少女がInstagramやPinterestで自殺や自傷行為に関連するムービーや画像を閲覧していた履歴が発見されたことから、少女の父親は「自殺や自傷行為をほのめかすような投稿によって精神を徐々に病んでしまい、娘が自殺に及んだ」と主張しました。

このオンライン安全法案は、ユーザーが作成したコンテンツを公開するサービスや検索エンジンを運営するすべてのテクノロジー企業を対象に、有害なコンテンツや活動から子どもを保護することを目的に作成されました。対象となるテクノロジー企業は、自傷行為に関連するコンテンツや性的なコンテンツなど、子どもがアクセスできるものの違法ではないコンテンツの閲覧でユーザーの年齢を確認することが義務付けられます。


さらに、2022年11月には法案の追加修正が行われ、また自社のサイトが子どもにもたらす危険性のリスク評価を公開することが義務付けられました。加えて、この法案に違反した企業の情報はイギリス情報通信庁(Ofcom)によって強制的に公開されるほか、企業の上級管理職に対して最大2年の懲役、あるいは最大1800万ポンド(約28億5000万円)または全世界売上高の最大10%の罰金といった刑事罰が設けられました。

イギリスのミシェル・ドネラン文化大臣は「11月の追加修正によって、企業の上級管理職はオンライン安全法案の強制力のある要件を無視することができなくなり、Ofcomによる訴追は子どもを適切に保護できなかった場合に責任追及を保証します」とコメントしています。また、「若者のオンライン上での安全を守る責任は、テクノロジー企業の肩にかかっています。ユーザーが有害なコンテンツから身を守るために、設定を変更したり、フィルターをかけたりする必要はないのです。シリコンバレーのソーシャルメディア企業とその幹部たちは、自分たちのプラットフォームにこのような保護機能を組み込まなければならないのです」と述べています。

しかし、この法案について、Wikimedia財団のGlobal Advocacy部門ヴァイスプレジデントであるレベッカ・マッキンノン氏は「イギリスのオンライン安全法案は、ボランティア主導のコンテンツモデレートやWikipediaのような公益につながるウェブサイトを脅かしています。また、年齢認証の義務化は最終的に子どもだけではなくすべての人をより大きな害にさらします」と述べ、反対を表明しています。

The UK #OnlineSafetyBill threatens volunteer-driven content moderation and public interest websites like Wikipedia. And its mandatory age verification “ultimately exposes everyone, including children to greater harm,” warns @rmack.https://t.co/cBwvE1G1G3

— Wikimedia Policy (@wikimediapolicy)


また、マッキンノン氏はイギリス公共放送のBBCに対して、「テクノロジー企業の幹部に厳しい刑事罰を科すことは、大企業だけではなくWikipediaなどの公益につながるウェブサイトにも影響を及ぼします。従業員が行う集中型のコンテンツモデレーションと、Wikipediaのように有志コミュニティが実施するコンテンツモデレーションを区別するべきです」と述べ、オンライン安全法案が表現の自由を制限しかねないとしています。

さらに、人権団体のOpen Tights Groupは、「テクノロジー企業の幹部を懲役刑で脅すと表現の自由が損なわれます」という声明を発表しました。

Threatening tech bosses with prison damages freedom of expression | Open Rights Group
https://www.openrightsgroup.org/press-releases/threatening-tech-bosses-with-prison-damages-freedom-of-expression/

Open Tights Groupは、刑事罰で脅してコンテンツ管理を行わせるオンライン安全法案について合法的なコンテンツも削除されるような過度のモデレーションを招き、表現の自由を脅かすものだと主張しています。さらに、合法的なコンテンツへのアクセスに年齢確認を強制することは、子どもと大人が合法的なコンテンツにアクセスする権利を保護しておらず、世界人権宣言第19条に明記される基本的人権に深刻なリスクをもたらすとしました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました