一番人気はアボカド・パクチー!ドイツおにぎりの変わった具たち

デイリーポータルZ

日本人が大好きなおにぎり。急いでいる時や、ちょっと小腹が空いた時でも片手で食べれる、便利でおいしくて最高に優れた食べ物だ。

実はドイツでもずいぶん前からコンビニおにぎりが売られているのだが、かぼちゃとかアボカドとか、日本人が間違っても思いつかないような変わった具が使われている。

誰だ、こんなおにぎりを考えた人は。ドイツのおにぎりメーカーに話を聞いてきた。

ドイツの不思議なおにぎり

おにぎりはおいしい。これほどコンパクトで便利でうまいものがこの世にあるだろうか。初めておにぎりを作った人にデザイン賞をあげたいくらいだ。

日本食がまだ世界であまり知られていなかった時代は、黒い海苔が気持ち悪がられたり、変な目で見られたりしたが、食のグローバル化とともに海外でもおにぎりの知名度が上がり、人気の食べ物となってきた。

実は私が住むドイツでも、もうずいぶん前からオーガニックスーパーなどでおにぎりが売られている。

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例えばこんな街中のスーパーでは
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テイクアウト用のスープやサラダと一緒におにぎりがずらっと並んでいる。
パッケージも日本のコンビニおにぎりと同じだ。​

前からちょっと気にはなっていたが、おにぎりは自分で作れるのでなかなか買う気にはならなかった。値段も2.99ユーロ(約420円)と日本と比べると高いが、周りの友人が食べているのは見たことがあった。

だがこのおにぎりたち、よくよく見ると中の具がとても変わっているのだ。

左から、カボチャ&ごま、和風ピーナッツ、アボカド・パクチー・ライム。

おにぎりにアボカド・パクチー・ライムだと?!だ、誰だ、こんな具を考えたのは!

日本人が間違っても思いつかない具 

日本人がびっくりする、ファンキーな具のおにぎり。それを作っているのが、ベルリンのおにぎり会社 RiCE UP Onigiri だ。

この不思議なおにぎりについて、創業者の一人であるアレフさんと電話で話を聞くことができた。

ライスアップの創業者、アレフさん(左)とトーステンさん(右)。(写真提供:RiCE UP Onigiri)
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ドイツでおにぎりを売り出そうと思ったきっかけはなんだったんですか。

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私は20年ほどテレビカメラマンをやっていたんですが、仕事で日本を訪れた時に初めてコンビニおにぎりに出会いました。
撮影の合間にパパッと食べる上に、おいしいおにぎり。ドイツで仕事の合間に食べるといったら、フライドポテトなどの不健康な選択肢しかなかったので、なんて便利でおいしい食べ物なんだと感激しました。 

ドイツにもおにぎりがあったらいいのに、と思いながらカメラマンの仕事を続けていたアレフさんは、後の共同創業者のトーステンさんと出会い、2011年にライスアップ社を設立したそう。

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昔、駅のキオスクでおにぎりを売っているのを見かけたことがあるんですが。

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ライスアップの一号店ですね。当時は一日に80〜100個ほどのおにぎりを販売していました。まあ、一番売れていたのはコーヒーだったんですけどね。

ホームのキオスクでおにぎりを売るアレフさん。(写真提供:RiCE UP Onigiri)
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その後はもう一店舗オープンしたり、キッチンカーでイベントに出向いたりもしましたが、今ではライスアップの直売店は閉め、全国のオーガニックスーパーなどでおにぎりを取り扱ってもらっています。

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そうそう、先日スーパーでカボチャのおにぎりを見かけました。おにぎりにカボチャって、日本人からすると衝撃的なんですが、具はどうやって開発しているんですか。

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日本人にとっては変わった具ですよね。ライスアップとしては日本食にあまり馴染みのないドイツ人におにぎりを食べてもらうのが目的なので、ドイツ人の口に合う具を考えるようにしています。

創業当初はハワイの日本食レストランで経験を積んだシェフと一緒におにぎりを作っていましたが、当時も今も具のアイディアは私たちが自ら考えています。

初期のラタトゥイユ&山羊のチーズおにぎり。他にもクリームチーズ・ハチミツ・イチジク、アスパラ&ペコリーノ、牛肉チリトマトなど、さまざまな具を試したそう。(写真提供:RiCE UP Onigiri)
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直売店を経営していた頃は、週替わりのおにぎりを作ってお客さんの反応を見ながら具を開発していきました。

やはり聞いたことがない具が入っているとなかなか手に取ってもらえないので、必然的にドイツ人が好みそうな具を開発するようになりました。

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なるほど、そこまでハードルを下げないと買ってもらえないということですね。

ツナマヨなんか人気がありそうですが、どうですか。

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ツナマヨは日本でも人気ですよね。ただ世界でマグロの乱獲が問題になっているので、うちではツナは使わないことにしています。

私たちは創業当初からオーガニックのおにぎりを作っているんですが、最近では特にヴィーガンおにぎりが人気ですね。ゆくゆくは鮭もやめて、野菜中心のおにぎりだけ作っていこうかと話しています。

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ドイツのベジタリアン・ビーガン人口は高いですからね。

現在お店に出ているおにぎりは7種類ですか。

現在店頭に並んでいるおにぎりたち。
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実はつい先日、8種類目のキムチおにぎりをリリースしたばかりなんですよ。キムチ自体も私たちが作っています。

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キムチおにぎり!それは日本でも受けそうですね。

今のラインナップの中で一番人気はなんですか。

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ダントツの一位はアボカド・パクチー・ライムですね。

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アボカド・パクチー・ライム!もはやメキシコ料理みたいな具材ですね。

アレフさんのお気に入りはどれですか。

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鮭とピリ辛すももです。

すももと言っても梅干しのように塩漬けにしたものではなく、甘辛く味付けしたジャムなんですよ。ぜひ一度食べてみてください。
ちなみに、うちの子供たちの大好物はピーナッツです。

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鮭とすもものジャム!想像しにくいけど新鮮なコンビネーションですね。ところでおにぎりのパッケージも独自で開発したんですか?

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いえ、おにぎりシートは日本から輸入しています。炊飯器や洗米機、おにぎり成形機なんかも全て日本から取り寄せました。

おにぎりの製造はベルリンで行っていて、毎週11,000個のおにぎりを全国のお店に届けているそう。(写真提供:RiCE UP Onigiri)
日本製のシートに包まれるおにぎりたち。(写真提供:RiCE UP Onigiri)
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おにぎりシートの開け方はちゃんと書いてあるんですが、それでも「米と海苔の間にプラスチックのシートが挟まっているんだが、製造ミスではないか」というメールや電話が今でもよく来ます。

おにぎりの開け方をいちいち説明するのも大変そうだ。
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ドイツでおにぎりビジネスをしていて大変なことはありますか。

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おにぎりがスーパーで取り扱われるようになってから、賞味期限を延ばさなくてはいけなくなったのも一つの課題です。創業当初は1〜2日以内に売っていたおにぎりですが、スーパーに卸す場合は賞味期限が6日ないと取り扱ってくれないので、その対応が大変ですね。

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おお、米にうるさい日本人としては6日の賞味期限は想像し難いですね……。

逆に、やりがいを感じるのはどんな時ですか。

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おにぎりは今でも多くの人にとって真新しい食べ物なので、おにぎりがどんな食べ物であるか常に説明し続けなければいけません。
でも普段日本食を食べない人におにぎりを手に取ってもらって、食べてもらうのはとてもやりがいがあります。
おにぎりは便利でおいしい食べ物なので、ドイツでもっと広まってほしいと思っています。

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アレフさん、ドイツへのおにぎり伝道者みたいですね。おにぎりへの愛を感じます! 

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意外と米に合う変わり種具材たち

さて、アレフさんに話を聞いたことだし、この不思議な具のおにぎりたちを実際に食べてみよう。

まずは一番無難そうな「鮭&西洋わさび」だ。

パッケージのデザインがおしゃれだ。
いくら米食いの私でもいっぺんに8個は食べれないので、おにぎりを半分に切って具だけ食べて、米は後で食べることにする。前代未聞の食べ方だ。
鮭&西洋わさびおにぎりの断面。以前は本わさびを使っていたが、オーガニックのわさびが手に入らなくなったため、西洋わさびに切り替えたのだそう。
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うーん、何か物足りないような気がする。

日本人として受け入れやすい具だが、鮭の味付けが薄いので食べながら飽きてしまいそうな気がする。期待していたのでちょっと残念だ。 

鮭&西洋わさび

  •  最も日本のおにぎりっぽい具
  • わさびがマイルド。わさびが苦手な人でも食べれる
  • 全体的に味が薄い。もう少し塩味が効いてたほうがおいしいと思う

味の評価 ★★☆☆☆ 

次も比較的無難そうな具で行ってみよう。

新登場のキムチおにぎりだ。
マヨネーズのようなソースとキムチがたっぷり入っている。
あ、これはイケる!

うん、おいしい。これは日本人でも抵抗なく食べれる味だ。チーズなんか入れちゃっても絶対うまいと思う。 

キムチ

  • 白菜がシャキシャキしてて良い
  • ドイツ人向けなのか、キムチはあまり辛くない。でもなかなかイケる
  • マヨっぽいソースもクリーミーでおいしい

味の評価 ★★★★☆ 

では次は変わり種おにぎりを食べてみよう。

かぼちゃ&ゴマおにぎりだ。
以前記事で紹介したホッカイドウかぼちゃに加えて、しいたけと黒ごまが入っている。かぼちゃはゴロッと入っているのかと思ったら、ペースト状になっていた。
おにぎりにかぼちゃ、不思議だけどちゃんとおにぎりの具になってる。

かぼちゃのおにぎりかあ〜と思っていたが、思いの外おにぎりの具として馴染んでいた。ふんふん、考えることが面白いな。 

かぼちゃ&ゴマ

  • かぼちゃとしいたけを醤油で煮詰めた感じ。ちょっとピリッとする
  • 日本のかぼちゃと違ってそれほど甘くはない
  • しいたけが苦手なのだが、しいたけの主張が弱かったので食べれた

味の評価 ★★★☆☆ 

次はアレフさんイチ押しの「鮭&ピリ辛すもも」おにぎりだ。

パッケージ上で鮭とすももが泳いでいる。
「すももジャム」と聞いていたのでもっとべチョッとしているかと思ったが、鮭に混ぜ込まれている感じだった。

アレフさんからジャムが入っていると聞いていたので、どんな恐ろしいおにぎりかと思ったら、思いの外おいしかった。少し違和感はあるが、思ったよりイケるじゃないか。 

鮭&ピリ辛すもも

  • すももジャムが意外と鮭と合う
  • 確かに梅干しとは全く別物
  • ちょっと甘くてスパイシー

味の評価 ★★★☆☆ 

そしてずっと謎だった「和風ピーナッツ」も試してみることに。

おにぎりにピーナッツかあ。一体どうなってるんだろう。
中には砕かれたピーナッツが入っていた。

一体どのあたりが和風なんだろう。恐る恐る食べてみる。

あ、これうまい!

これ、日本にもある味だ!なんだっけ。ああ、ピーナッツ味噌だ!

材料を見てみたら確かに味噌が入っていた。これはなかなかおいしい。うちでも真似させてもらうかもしれない。

和風ピーナッツ

  • ピーナッツ味噌だ!
  • シャリシャリと歯応えが良い
  • ピーナッツの甘味と味噌が良く合う

味の評価 ★★★★☆ 

お次は人気ナンバーワンのアボカドおにぎりを食べてみよう。

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アボカド、パクチー、ライム。全て原産地がドイツでない食材ばかりなのにダントツの一位というのだから不思議である。
中は予想通りきれいな黄緑色。
これはワカモレだな。

うーん。可もなく不可もなく、というところだろうか。ワカモレは好きだが、やっぱりナチョスとかの方が合うんじゃないか。 

アボカド・パクチー・ライム

  • こりゃワカモレだ
  • ライムがさっぱりしていて具自体はおいしい
  • パクチーの味があまりしない
  • タコスが食べたくなる

味の評価 ★★★☆☆ 

あと残り2種類。次は同じく黄緑色の「枝豆&西洋わさび」。

これはなんとなくハードルが低そうなおにぎりだ。
枝豆のみじん切りが入っていた。

うーん。枝豆はおにぎりに結構あうと思うのだが、ちょっとパンチが足りない気がした。パルメザンチーズを入れたらもっとうまくなるのではと思う。

なんでもチーズを入れればうまくなると思っている人。

枝豆&西洋わさび

  • 見た目がきれい
  • わさび風味のグリーンピースのおつまみの味がする
  • もうちょっと塩味が効いてても良いと思う

味の評価 ★★★☆☆ 

そして最後の変わり種は「ヴィーガン照り焼きスモークサーモン」だ。

サーモンだけどヴィーガン。一体どういうことなんだ。

ヴィーガンスモークサーモンとは、植物由来の食材をスモークサーモンに真似て作った物である。生まれて初めて食べる食材だ。

ライスアップ社の場合は、薄く切ったにんじんを醤油やみりんに漬けてスモークしているらしい。

でもにんじんはにんじんだよね〜と思いながら試食。

ん?
あれ、にんじんなのにサーモンの味!

これは意外だ。食べているのはにんじんなはずなのに、スモークサーモン風味が口いっぱいに広がる。不思議だけど、嫌いじゃないぞ。

ヴィーガン照り焼きスモークサーモン

  • にんじんなのにスモークサーモンの味がする不思議
  • スモーキーでちょっと和風な味付けがおいしい
  • 味付けがしっかりしていて白米に合う

味の評価 ★★★★☆ 

 

おにぎりは偉大

アレフさんたちによって、先入観にとらわれずに作られたおにぎりたち。初めて目にしたときは正直言って「こんなのおにぎりじゃない!」と思い、あまり認めたくなかった。

海外に住んでいた小学生時代、同級生の前でおにぎりを出したときに「気持ち悪い」と言われた時の苦い思い出がまだ心の片隅に残っていて、それに対する反感というか、簡単に受け入れたくない気持ちがあったのだと思う。

でもアレフさんと話していて、おにぎりが本当に好きなんだということがわかった。そうか、おにぎりが好きな人は、好きな具を入れて食べれば良いんだ。おにぎりの具はこうじゃなくちゃいけない!というルールはないよな、と思えるようになってきた。

具を抜かれたおにぎりたちはチャーハンにしていただきました。

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