こんにちは、編集部 石川です。
毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、さいきん初めての本が出たまいしろさんと、以前からたくさんの本を執筆している西村さん。
テーマはもちろん、本づくりについてです。
まいしろさんが今回出した本はこちら。
デイリーポータルZの記事「ダビデ像はどれくらいマッチョなのかジムトレーナーに聞いてみる」 が元となった、美術作品を題材に筋トレの方法を教えてくれる本です。制作レポート記事「突然「筋トレ本」を出すことになった私の実録ドキュメンタリー」もあわせてどうぞ。
西村さんの近著はこちら。
国名の由来を教えてくれる図鑑です。他の著書もインタビュー中に何冊か紹介していきます!
本を作るのにかかる時間は1カ月~50年
石川:本ってどのぐらいかけて作るんですか?
まいしろ:私の場合は企画もらって構成を決めるまでに2カ月、イラストが多くてテキストが少ないタイプの本なので文章は2カ月…
石川:イラストも描いてるんですよね?
まいしろ:そうです。イラスト2~3カ月、最後やりとりで2ヶ月で、全部あわせて9カ月ぐらい。これが長いのか短いのかわからないです。一冊目だから。
西村:一概には言えないんじゃないかな。僕の出した県境の本は話をもらってから出るまで4〜5年ぐらいかかってる。
まいしろ:長くないですか。
西村:めちゃくちゃゆっくり書いちゃったんです。編集の方がすごくいい人で、「できるの待ちます!」って。
石川:仏だ。
西村:実際に県境の現地に行って書くという趣旨だったので、時間がかかったというのもあります。
石川:ほとんど描き下ろし?
西村:そう。この本を書くための取材で飯豊山に行ったんですけど。その前にデイリーに書いちゃったっていう。我慢できなくて。
※飯豊山……福島県、山形県、新潟県の三県境のある山。記事はこちら→標高2000メートルの盲腸県境と危険すぎる県境
一同:(笑)
まいしろ:それ許してくれるってほんと仏のような編集者ですね。
西村:デイリーで書いた記事をベースにした原稿も何本も入れるという形だったので。
石川:ギブアンドテイク?…になってるかな、これ。
西村:逆に短いのはボタンの本で、去年の秋に話をもらって出たのが6月。半年ちょっとですね。これは編集の人がめちゃくちゃ優秀で、取材先とかも全部アサインしてくれて。
石川:行って書くだけ、みたいな。
西村:レイアウトもぴしっと決めて文字数出してくれて、文章書くだけだったんですよ。
まいしろ:違うタイプの仏ですね。私はもともと6月に出るはずが、イラストの作業が無理すぎて秋になった。
石川:たっぷり3カ月延びたな。猶予はあるんですね。
西村:あればいいんですけどね。こんど出る『国の名前由来ずかん』は終盤で僕がコロナにかかっちゃって、10月予定が11月に伸びたんです。編集の人がほんとは11月は避けたかったんですって言うから理由を聞いたら、11月になるとクリスマス関連じゃない本は平置きしてもらえないんだって。
まいしろ:こわ!そういうのあるんだ!
西村:あんまり大きく扱ってもらえないので、って。
まいしろ:どれぐらいの期間になるかって、ライターと編集者双方のやる気次第ですよね。
西村:そうですね。話をもらってやりましょうって言ったまま音信不通になってるやつとかあるから。
石川:会議通らなかったとかじゃなくて?
西村:いや、私が書くだけっていう。
石川:音信不通っていうけど、それ西村さんが止めてるだけじゃないですか!
西村:いやお互いにね(笑)。レイアウトもデザインも決まっちゃって、ここだけ文字数埋めてくださいってポンっと出されるとやらざるを得なくなるんだけどな。
石川:ふわっとした状態で止まっちゃうと?
西村:難しいですよね。でも編集の方が、新書の場合はそういうのが多いって言ってました。いちばん時間がかかったのは50年ぐらいだって。
まいしろ:双方よく生きてたな。
西村:編集者も途中で変わるから申し送りになって。
石川:世代交代があるんだ。
西村:逆に今のオリンピックとかロシア情勢みたいなのは、編集者の人が企画を出して、執筆者をお願いして、対談みたいなのでガーッとまとめちゃえば1~2カ月でできるんじゃないですかね。
まいしろ:ちょっと前もコロナの本がすごい勢いで出たけど、あれは双方やる気だったということですよね。
西村:いま出せば売れるから。
石川:時事性があるとすぐ出さないといけない。
まいしろ:デイリーから出る本、あまり時事性がないから……。
ネットの記事は本でいうと工程序盤
石川:行程としてはどういう感じで作るんですか?
まいしろ:編集の方と一緒に、こんな感じで進めました。
①記事を読んだ編集の方から連絡があって執筆が決定
②内容を決める。どんなこと書きたいとか、コラムも入れたいねとか話して、ざっくり構成まで作る。
③取材して記事をいっぱい書いて、都度、送る。
④ここまで一通り終わったら台割(だいわり)を見ながら調整。
⑤ページのレイアウトを決めて…
⑥イラストを描いて…
⑦ぜんぶ紙に印刷されたもの(ゲラ)が送られてきて赤ペンで校正。
⑧あとは気づいたらできてる
石川:③まではなんとなくわかるのでいきなり④いきますけど、台割っていうのは?
まいしろ:本の何ページ目に何を載せるかの割り振り表を作るんです。これが一番やったことがない作業でした。
西村:台割からまいしろさんが決めたんですか?
まいしろ:編集さんがベースを作ってくれて、一緒に詰めました。これが独特の作業で、たとえば上腕二頭筋のページが多すぎたとして、そこで単純に1ページ減らせるかっていうと、あとのページの見開きイラストがずれちゃったりする……
石川:あー、単純に1ページ減らせないんだ。
西村:台割はコツがあるんです。
まいしろ:最後のほうはだんだん疲れてきて、章の扉をなくせば全部うまくいくじゃん!とか思い始める。第一章と第二章一緒にする?みたいな。
石川:あはは、追い詰められてきた。
まいしろ:私はほとんど見てただけですけどね。
西村:台割は基本は編集が考えます。出版社ごとによって台割の作法が違うから。
まいしろ:台割が決まると、これに1ページ割くよとか、2ページ割くよというのが決まるんで、こんどはページのレイアウトを決めます。
石川:それが決まったらイラスト?
まいしろ:そうです。それで書く作業は終わりですね。そのあと全部刷ったものが自宅に送られてきて、それに赤ペンを入れて戻すというのを3回ぐらいやりました。
石川:ゲラチェックってやつだ。
まいしろ:その先は印刷とか配送とかいろいろあるんだと思うけど、私もわからないです。気づいたらできてるんですよ。
石川:それ聞くとwebってめちゃめちゃ前の方で終わってますね。書き終わったら載せるだけじゃないですか。③までしかない。
西村:印刷もしないし。
まいしろ:印刷が大変そうですよね。
西村:もう専門家の仕事なので、全くわからないですね。
まいしろ:私もよくわからないから、紙で届いたやつに「暗いです」って書いて。
西村:一応文句は言った。
まいしろ:暗いなと思って。それだけ返しました。判型とかもよくわからないですもん。全然意識してなくて、作ってる途中でふと、そもそもサイズいくつなんだろうって。
石川:あはは。あやふやすぎる。
高校時代の校長先生の本を書いた
石川:ネットと本の違いってなんですか。
西村:ネットは後から修正が効くからいいですよね。県境の本も間違ってるとこあるよってすごい指摘来るんですよ。でも増刷かからないと直せないんです。本は。
石川:刷っちゃったものはしょうがないですよね。
西村:刷っちゃったものはしゃーない。ごめんなさい。間違ってます。増刷の時は直しますっていう。
石川:指摘ってどうやって来るんですか?
西村:手紙だったり、あと本の中にはがきが入ってるじゃないですか。あれが送られてきます。ネットと本の違いって声の届き方ですね。
まいしろ:ネットならツイートするのはゼロ円なので、良いのも悪いのもたくさん反響あります。逆に親とか家族とか、そのへんの反応は全然本のほうがいいです。
石川:あ~。
西村:ネットの記事ってありがたみがないですもんね。
まいしろ:田舎の本屋に平積みされていると、親戚一同大喜びみたいな。恥ずかしい〜って思いながら。
西村:ネットとの違いってことではないかもしれないけど、著者として名前が出ない本がいっぱいあるんですよ。
石川:例えば?
西村:鳥取県の本とか。あと名古屋鉄道の本とか。あとフランス革命の本とか書きました。
石川:西村さん、フランス革命の本出してるんですか。
西村:フランスの歴史の本で、フランス革命のところを執筆しました。
まいしろ:名前が出るやつと出ないやつっていつ決まるんですか?
西村:名前が出ない仕事を持ってくる編プロ(編集プロダクション)がいて、そこから来る仕事は全部それですね。
まいしろ:来た瞬間わかるんですね。
西村:書くのは私なんですけど、監修が付くんですよ。Amazonとかで見ると監修の名前だけしか出ない。一番最初にほぼ一人で書いた鳥取県の本が、僕の名前は出ないで監修者の名前だけ出てるんですけど、偶然にもその監修者が高校の時の校長先生なんです。
まいしろ:え!?
石川:え!?
西村:この名前聞いたことあるなって、編集の人に話を聞いたらそうだった。俺が高校の時に校長先生をしていた人が監修になったっていう。
まいしろ:そんな再会あります?
西村:そんなんある?って思ったけど、あったんですよ。
石川:まさか将来こいつに本を書いてもらうことになるとは(笑)
本ができると「やった~」バブルに突入
石川:本って長いじゃないですか。書いてて途中で飽きませんか。
まいしろ:書くのには飽きないですけど、忙しい日々に飽きるのはめっちゃあります。Webは入稿終わったときのやった〜!ってのが短期的に来るじゃないですか。それがないので。
石川:ずっとやることがあるんだ。
西村:校了したらやった〜ってなりません?
まいしろ:それはなります。いったんやった~の時期に入ると常にやった〜になりました。
石川:常にやった〜の人、ちょっとやばいですね。
まいしろ:webって公開したら終了で、そのあと何もないじゃないですか。本って発売決定しました、Amazonの予約が始まりました、本屋で発売されました、近くの本屋で見かけました、宣伝やりました、広告出ました…って、その後のやったーポイントがめちゃ多い。ここ1ヶ月ぐらいずっとやった〜なんですよ。
石川:うわー、最高じゃないですか。
まいしろ:やった~バブルなんですよ。だからあとから一気には来るんですけど、執筆中は長期間来てくれないから。短距離のつもりで行ったらめっちゃマラソンだったわみたいな。
石川:なるほどね。
西村:うまい具合に進んでたらいいけど、執筆が止まってるやつとかがあると、ずっと頭の片隅にあるんですよ。あれ止まってるな〜って。風呂入りながらとか、シャワー浴びてるときも、あれ止まってるな〜っていうのがポーンと来たりとかして。
石川:ふとしたときに思い出すんですね。
西村:あれ、まだ書いてねーなって。
まいしろ:心のどこかにずっと片隅にあるんですよね。本の締切が。
西村:それ良くないですね。そういうのはちゃんと編集の人に言ったほうが良いですよね。
まいしろ:1ヶ月間休みますとか、土日は一切考えないとか決めないと、だんだん疲れてはくる。あと書く作業は毎回違うから飽きないけど、直しは飽きそう。同じのを何回もチェックするから。
西村:でもね〜。誤字脱字って、見るたびに見つけるじゃないですか。
まいしろ:送られてきたのを直して、もう一回送られてきた時に、自分でも何を直したか覚えてないから前のやつに戻しそうになるんですよ。
西村:わかる〜!最初に書いてた文章に戻ってる。
まいしろ:自分で直したのに。
石川:直して次までどのぐらいのスパンがあるんですか。
まいしろ:2〜3週間ぐらいでした、私は。
西村:あれはほんとは、自分が校正した紙のコピーを自分のほうでも持ってないといけない。で、戻ってきたらそれが直っているかどうかをまずチェックする。
まいしろ:理想ですね。
西村:校正紙は自分で持ってなきゃいけないんですよ。
まいしろ:気づかなかった。それ、
西村:校正紙はカメラで写真に撮っておくといいですよ。私はそうしますね。
赤入れは表参道のスタバで
西村:でも赤入れは「仕事してる!」って感じがするので、嫌いじゃないんですよ。
石川:充実感が高いんですね。
西村:スタバとかに持ってってわざとやった。
まいしろ:それ、私もやった!
石川:自分に酔うために?
西村:自分に酔うために。
まいしろ:せっかくだから。私わざわざ表参道でやりましたもん。安心した、みんなやるんですね。
石川:本作りの一番の旨味じゃないですか。
まいしろ:たしかに。Webではできないですから。スタバで赤ペンは。
西村:スタバでやるけど、肝心の誤字見つけるのが下手なんですよ。用語の統一とかも、ほんとわからないです。
石川:デイリーでは一切やってないことですからね。表記の統一とかも。
まいしろ:記事の最初と最後で全然違う表記ですもんね。
西村:漢字の閉じる開くとかも適当だし。
石川:それってwebとか紙とかの話じゃないからデイリーもやってもいいはずなんですけどね(笑)
西村:webは後からでも直せるからっていう甘えがね、よくないですね。この間の記事、あんまり公開後の修正が多いから、担当編集の古賀さんがちょっとキレてました。校了前にやりましょうねって怒られました。
石川:古賀さんから聞いたことある。
西村:たぶん俺、アップしてから修正多いと思うんです。
石川:他の人ほとんどないですよ。そんなの。
西村:気になっちゃうんですよ。
まいしろ:読んだら負けですよ!
売ってるかの確認は大きい本屋から攻める
石川:本が出た日は本屋さんに見に行くんですか。やっぱり。
まいしろ:行きました。なかったらショックだなと思って、絶対にありそうなでかい本屋から行きました。新宿紀伊国屋本店とか。
西村:ありました?
まいしろ:ありました。安心してだんだんちょっと小さいローカルチェーンに広げていきました。駅前まではあるけど、商店街の本屋はないなーとか。
石川:西村さん今も見に行きます?
西村:行かないですね。
まいしろ:そうなんだ。
西村:用事で本屋に行った時についでには見ます。平置きだったら嬉しいんですけど、棚差しになってると、もう棚差しか~って。そこは見ます。
まいしろ:あと在庫何冊か見ちゃう。
西村:県境の本、出版社から「倉庫にしまってるやつ処分しますね」って言われて。絶版なんですよね。つまり。
まいしろ:絶版って「もう刷らないよ」じゃなくて。在庫も捨てるんだ。
西村:なんで、買いました。余ってるやつ100冊。
石川:くれないんですか?処分する本でも。
西村:くれない。出版社にとって本って金融資産なので、いくら著者でもただであげたりしたらダメなんです。献本するのは何冊って。最初に決まってる。
まいしろ:契約書に書いてありますよね。
石川:『ふしぎな県境』はAmazonでプレミア付いてますよ。
西村:Amazonでいくらプレミアがついても、俺の儲けにはならないので…。
石川:西村さんが買い取ったやつをここに出せば良いんじゃないですか。
西村:(笑)。Amazonといえば、自分の本を買うっていうのはたまにやりますね。
石川:なんで?
西村:ないんですよ。ファミマのやつとかはもう手元になくて、必要になった時はAmazonで中古買いました。
まいしろ:中古買うんすか!新品じゃないんだ。
西村:だって高いじゃないですか。
まいしろ:発想がびっくりですよ。本人が中古買ってるの。
西村:あと、県境の本とかは実家に送るのに献本が間に合わなかったので、Amazonから実家に直接自分で買って送りました。
石川:ギフト発送で?
西村:ギフト発送で(笑)
紙の本と電子書籍のどっちを買うか問題
石川:電子書籍もあるじゃないですか。
まいしろ:作ってる時は忘れてました。普通に。友達に言われて気づいて、編集さんに聞いたら出ますって。
西村:そうなんですよ。作ってる時はあんまり電子のことはちょっとあまりなくて。頭に。ただ、ぬる絵地図は電子はないですね。
石川:電子は塗れないから。
西村:紙の本を作るにあたって、こだわるところっていうのはいろいろあるんです。三才ブックスの路線図の本は、ノドをバッと開いても本が壊れない製本にしてます。
※ノド…本を開いた時の、右ページと左ページのつなぎ目の部分
西村:ふつう本ってちょっとノドにイラストがかかってたら、同じ場所がじゃっかん両ページにあったりするじゃないですか。これはノドまで開いて平らにしてもちゃんと見える。
石川:はいはいはいはい。
西村:印刷方法をこだわってやってるので。できればぜひ紙の方を買ってほしいんですけど……電子があるなら電子でいいです。
まいしろ:声がちっさくなっていった。
西村:電子買うんだったら別にいいです。
石川:あはは。質問で、「電子書籍と紙の本は売れた時にどっちがお金がたくさん入るんですか」って。
西村:契約によるんじゃないかな。
石川:紙の印税って刷った分で決まるじゃないですか。契約によっていろいろあると思いますけど一般的にそうだとして、電子書籍はそうじゃなくて売れた分が収入になるわけですよね?
西村:たぶんそうだと思う。
石川:印税分は売れても売れなくても絶対にもらえるから、電子を買ってもらったほうが、紙の印税+電子の売上でお金がたくさん入るということにならないですか?
西村:でも紙がどんどん売れて重版かかったほうが良くないですか。
石川:そうかそうか。そこか。
まいしろ:月額でもらうかボーナスでもらうかの違い?
西村:そんな感じですよね。Kindleで売れた分だけ月に数千円とか入ってくるより、紙がドカンて売れて、重版かかった分だけ10万、20万ってたまに入ってくるほうがいいですよね。
石川:そっちの方が景気がいい。
西村:紙が出てるんだったら紙で買ってもらったほうがとりあえずはいいのかな。契約によるし絶対ではないと思うけど。
生放送「記事の森」やってます
この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。
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