【山田祥平のRe:config.sys】TVの立場とモニターの立場

PC Watch

 HDMI 1.0が発表されたのは2002年12月9日。今年、2022年は20周年にあたる。一般消費者向けのデジタルインターフェイスとして、映像をスクリーンに映し出すために誰もが知る規格として、これからも愛用され続けるだろう、きっと、たぶん。

TVとモニターの違いとは

 TVとモニターの境界線が曖昧になっているそうだ。20周年の節目に来日し、記者会見を開催したHDMI Licensing Administrator CEOのロブ・トバイアス氏はそう説明した。ゲームに必要な機能を備えた小型のTVがゲーム用のデスクトップとして使えるようになり、その一方で、HDMI 2.1a対応でゲームやストリーミングアプリに対応したPC用のモニターが次々に発売されている。ゲーマーにとってはサイズと価格の選択肢が増えた。つまり、TVもモニターも変わってきているというのだ。

 もはや、TVとモニターを区別する要素はチューナーの有無しかないと言ってもいいだろう。そのチューナーの定義も曖昧だ。Andoroid TVやFire TV、そしてwebOSなどのアプリによるVODは言うまでもなくチューナーそのものではないのか。

 さらに、細かい違いがあるとすれば、スクリーン面の光沢/非光沢といったところか。これもTVは光沢処理を施した画面がほとんどだという程度のことで、PC用モニターにも光沢のものはある。特に、ノートパソコンのタッチ対応スクリーンなどはほとんどが光沢だし、スマホやタブレットはよほどのことがない限り光沢だ。

 かつて、TV全盛期のPC用モニターは、VGAの時代にあっても480i解像度の一般のアナログTVと比べて高い付加価値を持っていた。解像度、リフレッシュレートともにだ。だが、TV放送がアナログからデジタルになり、液晶モニターが一般的になってきたあたりから、TVとPC用モニターの境目は希薄なものになっていく。

 もちろん、絵作りの考え方/ポリシーは異なる。ただ、表示コンテンツが似通ったものになりつつある以上、これからはますます同じ方向に収束していくことになりそうだ。このことは、電波に載って届くコンテンツの割合が減っていくということでもある。また、TVでPC作業をするシーンも珍しくなっていく。

4Kは必要でも8Kはオーバースペックって本当か

 トバイアス氏の説明によれば、2023年のEU 27カ国エネルギー効率指数要件が、TVの電力消費量を制限するそうで、このままでは、すべての8K TVと一部の大型4K TVがEU地域で販売できなくなるそうだ。ほかの諸国でも同様の制限を検討中だとのことで、一部のメーカーは、低電力で画面を暗くしたEUモードの実装を考えているともいう。

 今や4Kは当たり前になり、8Kという解像度への対応はオーバースペックか必然なのかが議論されるときなわけだが、放送コンテンツを無視するなら、8K解像度への対応は重要だ。だからこそ、HDMIもウルトラハイスピードケーブルとして非圧縮8K/60Hz対応48GbpsなどHDMI 2.1a完全準拠のケーブルなどを認証する。

 それもこれも、対応するコンテンツがあってこそのものだ。いわゆる地デジにコンテンツを頼る限り状況は変わらない。今のままで十分だ。地デジの4K対応はまだまだ先で、それまでは、モニターの性能を活かせるコンテンツは電波以外の方法で手に入れるしかないし、そこがうまくまわれば、その先、電波に未来はやってこない可能性も高い。

 モニターがTVにとって代わり、そのスクリーンを占有するコンテンツが電波で運ばれてきたもの以外である時間が長い時代は当面続くだろう。つまり、現象面でいえば、TVは死んでモニターが残る。

TVをモニターライクにするあの手この手

 LGエレクトロニクス・ジャパンがwebOSを搭載したスマートモニターを発表した。webOSは、LGがTV向けのOSとして採用している。だが、この製品にはチューナーは内蔵されていない。TVに実装されたAndroid TVなどでは、TVチューナーがアプリの1つとして提供されているが、この製品にはそれもない。そもそもアンテナ入力端子がない。あくまでもモニターであってTVではないのだ。

 LGとしては、在宅勤務の増加によってホームオフィスが定着したこと、そして、おうち時間の増加によるホームエンタテイメントに対するニーズ拡大と4Kコンテンツの一般化などをユーザー側のトレンド/ニーズとして挙げる。

 同社によれば、今日本の市場において、4Kに対応しているTVは42型超のものだけで、それより下のサイズはHDやフルHD止まりとなっていて、4Kコンテンツをネイティブ表示できない。また、先に挙げたように、TVのほとんどは光沢パネルで反射や写りこみが目立つこと、そして、画面を適切な位置に調整するのが難しいことなどの不便さを持つ。

 個人的にも納得できる。Windowsのネイティブ解像度が96ppiで、23型/100%表示が前提なら、46型の4K TVで100%表示させて使いたいと思うのだが、その使いにくさを懸念して導入をあきらめた。コストパフォーマンスは最高だと思うのにだ。

 だったらモニターはどうかというと、VODサービスにダイレクトに接続することはできなかったり、リモコンがついていなかったりといった不便さを抱えている。個人的にはそれで困らないのだが、そうでない人の方が多いようだ。

 その両方のいいとこ取りをした機器として、パーソナルデバイスを提案するのが、今回のスマートモニターだ。31.5型の4Kモニターで、色域はDCI-P3 90%、HDR10に対応、USB Type-Cによる入力や電源の供給もでき、eARC対応HDMI端子も装備、有線LANポートもある。当然スピーカーも内蔵し、モニター単体で、AirPlay 2、Miracast、Bluetoothなどもサポートするなど、あらゆるコンテンツをいろんなバリエーションで楽しめるようになっている。個人的には電源アダプタが外付けということだけが残念だ。

 NHKの受信料と無縁に映像コンテンツを楽しめることからチューナーレスTVが話題になったことがあった。チューナーレスならモニターじゃないかというつっこみもあるだろうけど、そういうことだ。ネット対応TVなら受信料を払う必要はないというわけだ。

 コンテンツは自分で調達したものを、それこそHDMIケーブルでデバイスを接続して再生すればいい。PCなどをつないで映画やアニメを楽しめばいい。今は、それが一歩進み、LGの製品のようにOSを搭載してスタンドアロンでVODを楽しめるようにしたりする。

 プロジェクタもAndroid TV対応のものが多くなってきている。かつてのプロジェクタはHDMIなどで再生デバイスを接続しない限りは何も映すものがない状態だったが、今はスタンドアロンでコンテンツが楽しめる。XiaomiのMi Smart Projector 2のようなコンパクトな製品なんかはとてもいい。気軽に大画面でコンテンツを楽しめる。

 今、ぼくの居住スペースで120型相当の空白スペースを確保できるのは天井だけだが、こうしたプロジェクタを上を向けて投影すれば、そこに映画などを上映して楽しむのもカンタンだ。

 そういえば先日、AmazonのEcho show 15も、Fire TV対応を果たした。15.6型フルHDの画面を持つスマートディスプレイだが、スキルによってFire TVに対応したため、リモコンを使えばFire TVそのものとして使えるようになった。

 大きくなる一方の家庭用TVのトレンドとして、トバイアス氏はヤマダ電機を例に挙げ、販売しているTVの約半数が50型以上だと説明する。実は、最も人気が高いのは65型で、このサイズがパネル業界で最大のコストパフォーマンスなのだそうだ。

 一般消費者にとって、こうして大型画面を手に入れるのは簡単になったが、小ぶりの画面でパーソナルにコンテンツを楽しむのがなかなか難しい時代になっている。ノートPC程度のスクリーンで気軽に映像コンテンツを楽しみたいことも少なくないはずだ。Echo show 15は、スマートディスプレイとしては大型で、家族間のコミュニケーションに使う伝言板的存在として登場したわけだが、Fire TV対応によって、映像コンテンツを楽しむためのパーソナルデバイスとして生まれ変わってしまった。

 いろんな事情が各種のデバイスの位置付けを変えていく。機器と機器を結ぶデジタルインターフェイスとしてのHDMIだが、はてさて、これからも、コンテンツを楽しむためには機器をケーブルで接続しなければならない時代が続くのか。TVとモニターの違いは、チューナーの有無ではなくなりつつもある。この先、HDMIのようなデジタルインターフェイスは、どこに向かっていくのだろう。

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