イスラエル成功の公式:日本が外交力を有する国家となれなかったわけ

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カナダのトロント大学心理学教授、ジョーダン・ピーターソンさんのポットキャストのサブスクライバー数は600万人近い人気で、特に、若い年齢層が多いことで定評がある。リベラルな意見が飛び交っているソーシャルメディアの中で、ピーターソン教授は宗教や倫理を重視し、大学内のジェンダフリー討論でもはっきりと反対の意見を主張する知識人だ。人生の生き方について悩む青年たちにとって、教授は良きアドバイサーであったり、父親のような存在に映るらしい。

オンラインで会談するピーターソン教授とネタニヤフ氏(ユーチューバーのピーターソン教授のポットキャストからスクリーンショット)

サッカー界のスター、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド選手が先日、ピーターソン教授を招いてアドバイスを受けた、というニュースが報じられた。著名な心理学教授とサッカーのスター選手の組み合わせにちょっと驚いたが、あとで事情を知ると、ロナウドは当時、子供を失った直後でいろいろと悩んでいたという。その時、ピーターソン教授の名前を聞いてアドバイスをもらったというのだ。

[ジョーダン・ピーターソン, 中山 宥]の人生というカオスのための解毒剤 生き抜くための12のルールそのピーターソン教授が数日前、イスラエルの次期首相ベンヤミン・ネタニヤフ氏と会談している。オンラインで約1時間半の長時間会談だった。

タイトルは「イスラエル人はパレスチナで居住する権利を有するか」だ。ネタニヤフ氏は、「ユダヤ民族は3500年の歴史を有する。ユダヤ民族は1948年、昔から住んできた地域に戻って建国を始めた。決して占領とか植民地化ではない。ユダヤ人が戻ってくるまでその地域には国家といえるアラブ民族は存在していなかった。米国の作家マーク・トウェインはその紀行文の中でも、『アラブのその地には何もなかった』と証言している。そこにユダヤ人は戻ってきて国造りを始めたのだ。そして現在、イスラエルは経済力と軍事力を有する国家として発展してきたのだ」と説明する。

現在、エジプト、ヨルダンの他、アラブ4カ国(UAE、バーレーン、スーダン、モロッコ)がイスラエルと国交関係を樹立した。ネタニヤフ氏は、「イスラエルが経済力を誇り、軍事力も持つ強国として発展してきたからだ」と説明した。すなわち、「経済力」と「軍事力」を有することで国際社会で一定の「外交力」を獲得できるというわけだ。「経済力」(Economic Power)+「軍事力」(Military Power)=「外交力」(Diplomatic Power)という公式を文字通り展開してきたわけだ。もちろん、イスラエルの発展の背後には、米国の経済的、軍事的支援があったことはいうまでもない。

ネタニヤフ氏は、「アラブとの平和は軍事力だけでは十分ではなく、経済力が不可欠だ。自由経済と先端科学技術の発展だ。その結果、これまで宿敵同士だったアラブとイスラエル間で交流が始まった。今後はアラブの盟主サウジアラビアとの国交が大きな課題となる。アラブ諸国とイスラエルが連携してイランの核開発を阻止しなければならない」と主張している。

ネタニヤフ氏の話を聞いていて、日本のことを考えた。中国が世界第2の経済大国に成長する前、日本はトップの米国を脅かすほどのナンバー2の経済大国だった。日本は当時、国連安保理常任理事国入りを目指していたが、実現できなかった。日本は経済力はあったが、軍事力はなかったからだ。戦後から続く平和憲法のもと米軍依存の軍事力だけで、国内では自衛隊は軍隊か否かといった議論がテーマとなっていたぐらいだ。それゆえに、だ。

日本にとって不幸だったことは、独自の軍事力の必要性が国民の間で次第にコンセンサスが生まれてきた頃、その経済力に陰りが見えてきたことだ。その結果、日本は国際社会で独自の「外交力」を発揮できずに今日まできた。その点、イスラエルは1948年に建国した後、短期間で「経済力」を発展させる一方、「軍事力」を強化した。そしてイスラエルを取り巻くアラブ諸国はイスラエルをもはや無視できなくなってきたわけだ。「E」+「M」=「D」はイスラエルの成功の公式だ。

ピーターソン教授はネタニヤフ氏との会談では多くの時間を聞き手となっていたが、良き聞き手は会談の成功には欠かせられないものだ。岸田文雄首相は一度、ピーターソン教授と会談し、日本の今後の行方について話し合ったらどうだろうか。首相の「新しい資本主義」という命題に欠けているものは何かのヒントを得ることができるかもしれない。

なお、ピーターソン教授はその著者の中で、「世界を批判する前に、自分の部屋を先ず整理・掃除すべきだ」という趣旨の内容を書いている。同教授のアドバイスは常に実務的で現実的だ。

stellalevi/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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