再建中のクレアーズ、衰退しつつあるモールから メタバース へ :「消費者とともに新しい場所に存在する必要がある」

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クレアーズ(Claire’s)は、ピアス穴あけサービス、明るい色のアクセサリー、そして北米のモールに必ずといっていいほど存在する普遍性で長いあいだ知られてきた。

しかし、顧客が別のチャネルで買い物をするようになった現在、同社はモールでのプレゼンスを見直しつつある。同社は衰退しつつあるモールでは店舗を縮小していく一方、ライフスタイルセンター、細長いストリップセンター、ハイストリートセンター、アウトレットセンターなどほかの地域ではフットプリントを拡大している。2019年に、北米におけるクレアーズの店舗の75%はモールに設置されていた。CEOを務めるライアン・ベロ氏が米モダンリテールに語ったところによれば、この割合は現在では60%だ。

クレアーズは現在も実店舗の小売に投資しており、2022年の末までに全世界で200店舗を開設する。しかし、同社の実店舗戦略は、「グローバルで強大なブランド」になるための、いくつもの方向性による計画のひとつにすぎないと、ベロ氏は語る。同社は過去数年間にわたってオンラインビジネスを拡大し、消費者向け商品部門を構築して、ロブロックス(Roblox)で仮想体験を立ち上げた。また同社は30の小売業者とのパートナーシップにより、食料品、玩具、デパートの部門にも事業を拡大した。

クレアーズの拡大戦略は、同社にとって激動の15年間を土台にしている。2007年に同社は株式非公開になり、31億ドル(約4310億円)の現金でアポロ・グローバル・マネージメント(Apollo Global Management)に買収された。2018年にはデラウェアで連法倒産法11章の倒産を申告し、19億ドル(約2640億円)の負債に言及した。そして2021年には、再び株式を公開する手続きを開始した

同社の再構築計画は報われはじめている。同社の売上はパンデミックのはじまったころに下落したが、現在は上昇し続けている。同社は2022年1月29日までの会計年度について、14億ドル(約1950億円)の暫定収益を報告した。これは同社のS-1によれば、前年の9億1000万ドル(約1260億円)より53%増加している。会計年度2021年の合計同一店舗売上は2020年の同時期と比べて18%増加し、2019年の同時期と比べても11%増加している。同社の会計年度2021年の前半における合計純損失は1億770万ドル(約150億円)で、前年の同時期よりも3.6%改善されている。

「衰退するモール」から別の場所に店舗を移す

クレアーズは長年にわたって郊外および都市部のモールの支柱だったが、同社は特定の場所が最適かどうかの評価を行っている。小売業者である同社は、自社店舗が置かれているモールのテナントの空室率、消費者のパターン、トラフィックの動向を長期的に監視すると、ベロ氏は語る。プレイサー・エーアイ(Placer.ai)によれば、6月の時点で、米国のモールへの訪問者数は依然としてパンデミック前の水準に達していなかった。

同社の店舗の3/4以上は、不動産アナリティクス企業のグリーンストリート(Green Street)によりAまたはBグレードと判定された、すなわち最高ランクのモールに存在する。このため、「当社は強力なモールに存在する強力な店舗の維持に引き続き注力していくが、衰退するモールから、消費者が現在買い物を行うライフサイクルセンターやストリップセンターへと予防的に場所を変更することも行う」とベロ氏は述べる。

「市場の消費者が買い物をする場所を小売ノードから別の小売ノードに変更するとき、当社はその消費者とともに新しい場所に存在する必要がある」と、同氏は付け加えている。

これは場合によって、ほかの小売業者のなかにプレゼンスを確立することになる。9月にクレアーズはウォルマート(Walmart)とのパートナーシップを拡大し、同社の商品を販売する店舗の数は2500に達した。また、米国全体のウォルマートの拠点には、360を超えるクレアーズの店舗内ストアが存在する。

また同社の商品は、CVS、アズダ(Asda)、テスコ(Tesco)、マタラン(Matalan)、ギャラリー・ラファイエット(Galleries Lafayette)、トイザらス(Toys “R” Us)、DSW、ハドソンズベイ(Hudson’s Bay)、アルバートソンズ(Albertson’s)により、北米と欧州のパートナー小売業者でも販売されている。同社は「自社のパートナーの店舗に置かれている在庫を保有し、宣伝し、管理する。また、売り場で営業する権利のために、売上に基づく可変の金額を支払う」と、同社はS-1で説明している。

クレアーズは、自社の商品をほかの小売業者の店舗に導入したあと、消費者から「すぐに反応が得られた」と語る。「当社のこのブランドについて、さまざまな消費者の区分にわたり、多くの異なるチャネルに拡大していく見通しが描けるのは非常に好ましいことだ」とベロ氏は述べている。

2022年1月29日の時点で、同社が自社運用している店舗が北米に1489店、欧州に878店存在し、フランチャイズ店舗は289店で、主に中東と南アフリカに設置されている。

デジタルとメタバースへの投資

クレアーズは、パンデミックの初期にeコマースが激増したとき、オンラインでのサービスを構築した。同社は最近になって、米国とカナダにおいて、オンラインで注文して、その日のうちに店舗内で受け取れるサービスを開始した。この9月に同社は、はじめてボックスによるサブスクリプションサービスとしてシードロップ(Cdrop)を開始した。そのとき、同社の最高マーケティング責任者を務めるクリスティン・パトリック氏は、シードロップが「最新のトレンドとクレアーズの人気商品を顧客に提供する機会」だと、米モダンリテールに語った。同社は現在、最初のボックスを期間限定して19ドル99セント(約2780円)で提供している。

また同社は最近、顧客がピアスの穴あけをオンラインで予約できるようにした。スターターキットを購入すると穴あけは無料で行える。同社ウェブサイトによると、スターターキットの最低価格は28ドル99セント(約4030円)だが、高価なものは251ドル99セント(約3万5000円)に達する。同社はピアスの穴あけを40年以上にわたって行い、昨年は400万人を超える顧客の耳に穴あけを行ったと、ベロ氏は述べている。

ピアスの穴あけは「当社の行うすべての業務の核となる部分だ」とパトリック氏は、10月の米モダンリテールとの対談で語った。「しかし、もし当社がほかのサービスを行うなら、当社は消費者に先導してもらう」。このために同社はロイヤルティプログラムに手を染め、昨年から開始して、今では1400万人のメンバーを抱えている。「これらのメンバーにとって重要なのは何だろうか? ネイルアート? 髪についての教育? スタイリング? 消費者の準備ができれば、当社はさまざまな部分に手を広げられると、私は考えている」。

同社には、ロイヤルティプログラムのなかにフォーカスグループが存在し、店舗やオンラインで買い物客からフィードバックを収集する。顧客との対話に基づいて、同社は先月ロブロックスに展開し、「シマービル(ShimmerVille)」というデジタルワールドを立ち上げた。この「シマービル」ではプレイヤーが(ピアス技術者も含む)仕事を持ち、6つの場所を訪問して、アバターにクレアーズのアパレルやアクセサリーを着せることができる。また同社は「シマービル」を自社のロイヤルティプログラムとリンクし、ゲーム内のキャラクターを実際のマーチャンダイズに変換しようとしている。

「シマービル」は同社が若い層、主にZ世代やアルファ世代の消費者にアピールするための戦略の一部だ。「これらの消費者がストリーミングを見ているなら、当社はそれを行う必要がある」と、パトリック氏は述べる。「消費者がメタバースにいるなら、当社は必ずそこにいるだろう。消費者が新しい有機的なソーシャルプラットフォームで遊んでいるなら、当社はおそらく最初にその空間に移動するだろう」。

「継続的な再構築のプロセス」

クレアーズが倒産を宣告してからまだ5年も経っていないが、同社の好転は「本当のサクセスストーリー」だと、グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏は米モダンリテールに語った。「これは、瀕死の状態だった小売業者が復活し、そのビジネスが非常に成功して、さらに確固とした将来も持つようになったという、非常に興味深いケーススタディだと、私は考えている」。

この多くは、「範囲について適切な決定を行い、常にトレンドの先端を維持すること」によるものだと、同氏は述べている。「同社が現在、非常にうまく行っていることのひとつは、トレンドに敏感な多くの人々を使って新製品、新デザイン、新色、若い消費者にとって興味深いあらゆる種類のものを識別することだ。そして、同社はそれらの商品を非常に迅速に生産し、ごく短期間で店舗に並べることができる」。

またクレアーズは、ジョジョ・シワ氏など人気のあるセレブリティと提携し、ミラベルと魔法だらけの家(Encanto)、ハローキティ(Hello Kitty)、プシーン(Pusheen)などのフランチャイズのマーチャンダイズを提供することで、若い消費者の注目を集めた。同社の公式YouTubeチャンネルは23万8000人が登録しており、TikTokのチャンネルのフォロワー数は15万1400人だ。

サンダース氏は次のように述べている。「同社はブランドについて良好なイメージを作り上げた。そして、そのブランドが今日の若い買い物客の一部から注目を集めるようにした。これらが、同社の客足を増やすのに大いに役立っている」。

しかし、これらの若い消費者たちが年をとるにつれ、クレアーズは再度調整を行う必要があるだろうと、同氏は強調する。「同社にとってこれは、継続的な再構築のプロセスのようなものだ。新たに出現する新しい層の消費者にとって有意義なものであり続けるため、どのようにビジネスを進化させるべきかを真剣に考えていくサイクルを何度も行うことになる」と、同氏は述べている。「同社は、以前に業績が振るわず倒産したときから教訓を得ただろう。現在、同社の経営陣は、ビジネスを再構築して情勢の変化のなかで常に最先端を維持するための準備ができていると、私は考えている」。

2021年の小売全体の売上が15%成長したのと比べて、今年の同時期は4%から6%しか成長しないとデロイト(Deloitte)が予測するなかで、ホリデーシーズンに向けて、この適応はあらゆる企業にとって鍵となる。クレアーズは、今回のホリデーシーズンは全世界の買い物客の予算が厳しいかもしれないことを認識している。しかし、同ブランドはそのような事態に対応できるよう構築されており、提供する商品について楽観的だと、ベロ氏は強調している。

同氏は次のように述べている。「価格の観点から、当社の商品は厳しい経済環境でも、非常に好調な経済環境でも、完璧に買い求めやすいものだ。当社は常にイノベーションを続け、新商品を市場に送り出し、当社の消費者が商品を買い求めやすいように気を付けている。消費者が価値を非常に重視していることはたしかだ。そして、当社はその価値を何十年にもわたって提供してきた」。

[原文:From the mall to the metaverse: How Claire’s is reinventing itself]

JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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