画像生成AIの著作権問題について海外や日本ではどのように解釈されているのか?

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Stable DiffusionやMidjourney、DALL・Eなどの画像生成AIは膨大な写真やイラストで構成されたデータセットで学習することで、画像を自動生成することが可能になっています。しかし、このデータセットに含まれる画像の著作権についての議論が、AI技術の進歩に追い付いていないのが現状です。そんな画像生成AIの著作権問題について、IT系ニュースサイトのThe Vergeがまとめています。

The scary truth about AI copyright is nobody knows what will happen next – The Verge
https://www.theverge.com/23444685/generative-ai-copyright-infringement-legal-fair-use-training-data

Q:AIモデルが作成したものを著作権で保護できるのか?
アメリカ著作権局は、機械だけで生成された著作物に対する著作権保護を認めていません。

「AIが作った芸術作品に著作権はない」とアメリカ著作権局がAIの著作権を拒否 – GIGAZINE


しかし、制作者が人間による入力があったことを証明できる場合は、著作権が発生する可能性があるとのこと。2022年9月、アメリカ著作権局は画像生成AIのMidjourneyを使って書かれたマンガの著作権登録を認めました。このマンガはキャラクターやセリフ、コマ割りなど、従来のマンガの形式で描かれた18ページの作品です。

AIの作ったアートに初めて著作権登録が認められる – GIGAZINE


この作品を制作したアーティストのKristina Kashtanova氏は、「アメリカ著作権局から、このマンガの作成過程に実質的な人間の関与があったことを示すために、制作プロセスの詳細を提供するように」と要請があったと語っています

AIと知的財産を専門とするサセックス大学の法学者であるAndres Guadamuz氏は、AIの助けを借りて生成された作品に著作権を付与するというケースは継続的な問題になると述べています。例えば「ゴッホの猫」とだけ入力して生成した絵は、アメリカでは著作権を取得するには十分な関与があったとは見なされないだろう、とGuadamuz氏。しかし、プロンプトを入力して複数の画像を生成し、設定を調整してシード値も探るなど、設定をもっと掘り下げていけば、その作品は著作権で保護されることになります。

2022年9月にはMidjourneyで描いた絵が美術品評会で1位を取ったというニュースが話題となりました。この作品は、何週間もかけてプロンプトを選別し、実際に完成した作品を手作業で編集してできあがったと作者自らが語っていることから、人間の関与が十分あったことがうかがえます。

画像生成AI「Midjourney」の描いた絵が美術品評会で1位を取ってしまい人間のアーティストが激怒 – GIGAZINE


Stable Diffusionを開発するStablity AIが本社を構えるイギリスではコンピューターのみが生成した作品にも著作権保護が認められており、著作者は「作品の創造に必要な手配を行った人間」と定義されています。この著作者がAIモデルの開発者なのか、それともAIモデルの設定を行った人なのかは解釈が分かれますが、AIによる作品そのものが著作権保護の対象になっていることは間違いありません。

ただし、Guadamuz氏は「アメリカ著作権局は裁判所ではありません。著作権侵害で誰かを訴えるには著作権局への登録が必要ですが、それが法的強制力を持つかどうかは裁判所が判断することです」と述べています。

Q:AIモデルの学習に著作権で保護されたデータを使用できるか?
ほとんどのAIモデルは、テキストやコード、画像など、インターネットから収集した膨大な量のコンテンツで学習しています。例えばStable Diffusionは、個人ブログにアップロードされている写真やイラスト、DevianArtのようなイラストサイト、ShutterstockやGetty Imageなどのストック画像サイトまで、何百ものサイトから収集した何億枚もの画像で構成されたデータセットで学習しています。AI研究団体やスタートアップ企業は、こうしたデータセットに画像を使用することは「フェアユース」に該当するとして正当化しています。

このことについては、「データセットの作成を大学や非営利団体に任せることで、AI企業は法的責任から逃げている」という批判もあります。

「AI学習用のデータセット作成を大学や非営利団体に任せることで企業は法的責任から逃げている」という批判 – GIGAZINE


ヴァンダービルト大学法科大学院で知的財産法を専門とするDaniel Gervais教授は、フェアユースかどうかを判断するには「その用途の目的は何か」「市場に与える影響は何か」という2点が非常に重要であり、さらにその作品と競合することで原作者の生活を脅かさないかという点も重視されると述べています。

Gervais氏は、著作権で保護されたデータでAIモデルを学習することはフェアユースの対象となる可能性が「比較的高い」と解釈しています。しかし、コンテンツの生成がフェアユースの対象になるかどうかは別の話だとしています。つまり、他人のデータを使ってAIモデルを学習させることは可能であっても、そのモデルを使って作品を生成することは著作権侵害にあたる可能性があるというわけです。

例えば、膨大なデータセットで学習したAIモデルで画像を生成する場合、その画像は基本的にデータセットの画像をそのまま出力するものではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合って出力されます。そのため、その生成結果が既存の市場を直接脅かすものになる可能性は極めて低いといえます。しかし、特定のアーティストの絵で学習したモデルで、そのアーティストの画風をコピーした絵を生成した場合は著作権侵害で訴えられる可能性があるとThe Vergeは解説しています。


Gervais氏は「AIにスティーブン・キングの小説を10冊学習させて、『スティーブン・キングの小説を作れ』と指示すれば、その作品はスティーブン・キングと直接競合することになります。それはフェアユースと言えるでしょうか? おそらくならないでしょう」と述べています。

画像生成AI・Womboの開発スタッフであるRyan Khurana氏は、「著作権で保護された作品を利用したプロンプトで意図的に出力することは、あらゆる主要企業の利用規約に違反しています」とコメント。Khurana氏によれば、AI企業の多くが「著作権で保護された作品を含むデータセットで学習すること」と「そのデータセットで学習したAIで画像を生成すること」で、フェアユースの適用に差があることを認識しているそうです。また、「各企業は学習用データセットを制限するよりも、著作権侵害目的でAIモデルを使わない方法を考案しようとしています」と語っています。

なお、Gervais氏は、芸術家のアンディ・ウォーホルがミュージシャンのプリンスの写真を作品に使ったことを起因とする係争の行方によっては、フェアユースに対する法的解釈が大きく変わるかもしれないと述べています。

フェアユースと文化の発展について議論されているアンディ・ウォーホル事件とは? – GIGAZINE

by Andy Warhol: 32 Campbell’s Soup Cans

Q:アーティストとAI企業はどうすれば和解できるのか?
仮にAIモデルの学習がフェアユースにあたると判明しても、問題は解決しません。自分の作品がAI学習に使われたアーティストの怒りは収まらないうえに、フェアユースの解釈がどんなAIにも必ず当てはまるものだとはいえないからです。

最も簡単な解決方法は、データをライセンス化し、アーティストに報酬を支払うことです。AIモデルのデータセットを制作した企業を訴えている弁護士のMatthew Butterick氏はThe Vergeに対して「2000年代初頭に存在したNapstarは完全に違法なものでしたが、今はSpotifyやiTunesなどが存在します。これらのシステムはどうやって生まれたのでしょうか?企業がライセンス契約を結び、合法的にコンテンツを持ち込むことで、すべての関係者が対等な関係となり、機能したのです。同じようなことがAIにも起きると考えています」と述べています。

Khurana氏も「音楽はさまざまなライセンスや権利保有者などが関わっており、著作権のルールが圧倒的に複雑です。AIを取り巻く法的問題を考慮すると、生成AI業界全体が音楽と同様のライセンス体制を持つように進化していくと考えられます」とコメントしています。

AIのデータセットにライセンス契約を採用する取り組みは実際に行われており、Shutterstockは画像生成AIのDALL・Eを開発するOpenAIと提携し、学習元となった素材の著作者に報奨金を支払う仕組みを構築すると発表しています。

画像生成AI「DALL・E」を開発する「OpenAI」と写真素材・ストックフォト最大手の1つ「Shutterstock」が提携し今後数か月以内に画像生成機能をユーザーに提供&学習元素材の作者に報奨金を支払う仕組みの構築へ – GIGAZINE


しかし、学習用のデータセットがあまりにも膨大であるため、データセットに収録されている画像や映像、音声ファイル、テキストをすべてライセンス化するのは現実的ではありません。著作物の利用についてまとめた論文「Fair Learning」の著者であるMark Lemley氏とBryan Casey氏は「いかなる著作権主張も認めるということは、著作権者に報酬を与えるのではなく、利用を一切認めないと言っているに等しいといえます」と主張しています。

日本におけるAI学習と生成物の法的解釈については、STORIA法律事務所の柿沼太一弁護士が以下の見解を発表しています。

Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権 | STORIA法律事務所
https://storialaw.jp/blog/8820

Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権(その2) | STORIA法律事務所
https://storialaw.jp/blog/8883

「私が描いたイラストをAI学習に使うのは禁止にします」と表明することで実際にイラストが学習に利用されることを禁止できるのかについて、柿沼弁護士は以下のように解説しています。

結論からいうと、そのような一方的な表明がなされただけでは「契約」が成立したことにはならないと思われます。「契約」が成立するためには契約当事者双方の意思が合致することが必要とされているためです。
したがって「この画像をAI学習のために利用することを禁止する」という内容の契約が成立するためには単なる「表明」だけでは足りず、そのような内容を含んだ利用規約に明確に同意する必要があります(たとえば、利用規約に同意した後に初めて画像にアクセスできるなど)。
もっとも、実は、仮に利用規約を踏ませるなどして有効に「契約」が成立したとしても、その効果は限定的です。なぜなら「契約」はあくまで「契約」を締結した当事者間でしか効力を持たないからです。

なお、柿沼弁護士は2018年に経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」、「ものづくりスタートアップのための契約書ガイドライン」検討会メンバーとしてガイドライン策定に(PDFファイル)参加しています。

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