イーロン・マスク 氏、ライブ配信に出演も広告主の疑問や懸念は払拭されず

DIGIDAY

2019年10月29日、イーロン・マスク氏はTwitterで「私は広告が嫌いだ」とつぶやいた。あの印象的なツイートから3年。いまやマスク氏はTwitterを買収し、新経営者として、同社の広告事業を売り込む役割を期待されている。

買収完了から2週間後の11月9日、マスク氏は広告主の懸念に応えるべく、Twitterスペース(Twitter Spaces)で午後から音声ライブ配信された「Elon Q&A: Advertising & Future」に参加した。Twitterのグローバル広告販売責任者であるロビン・ウィーラー氏が司会を務めたこのパネルディスカッションは1時間に及び、視聴者は10万人以上にのぼった。マスク氏は誤情報やヘイトスピーチの問題を緩和すると約束したが、それでも一部のマーケターの反応は厳しく、「マスク氏はロケットや自動運転車には詳しいだろうが、オンライン広告についてはまだまだ勉強不足だ」と指摘する者もいた。

この日、マスク氏はTwitter広告商品の改善提案を示し、動画とクリエイター向け機能強化案の概要を語った。しかし、同氏が言及した機能の多くはすでに存在しており、数年前からデジタル広告戦略の一環として採用されている。たとえば、広告を「(ECサイトで見かけるような)記事にできるだけ近い内容にする」取り組みや、「おすすめのツイート」のフィードに広告を掲載する方法などだ。同氏は「自分が好きなものを好きなときに買える方法をユーザーに提供できることはすばらしい」と、パーソナライズドマーケティングの効用を認めている。

「Twitterは、広告主にとって短期的にも長期的にも需要の喚起につながる、役立つ存在になる必要がある」とマスク氏は述べている。「(中略)けっきょく、両方の観点が大事で、短期的には売上の拡大、長期的には需要の維持が求められる」

マスク氏によれば、Twitterは広告に適したプラットフォームとしてブランドに安心してもらえるはずで、もし問題があるとわかれば、対策を講じるつもりだという。しかし、パネルディスカッションを視聴したマーケターたちからは否定的な声が上がった。「マスク氏の計画には具体性がまったくない」と言い切る人もいれば、マスク氏の口調に「覇気が感じられなかった」という感想を抱いた人や、「ライブ配信で無能ぶりを露呈していて衝撃的だった」とコメントした人もいた。

燻るブランドセーフティなどのへの懸念

広告分野においてTwitterは多くの課題に直面している。11月第1週、広告販売部門を率いるサラ・パーソネッテ氏が辞任を表明し、幹部の交代で広告事業の方向性がどうなるかと関係者に不安を抱かせた。コンステレーション・リサーチ(Constellation Research)のアナリスト、リズ・ミラー氏は、広告主が2023年度の予算編成中のいまが業界にとって重要な鍵を握ると指摘する。とくに現在、景気の先行き不透明感が高まりつつあるだけになおさらだという。

「会社を船にたとえると、Twitter号にいまもっとも必要なのは、荒波のなかで人々を落ち着かせて気持ちをやわらげ、現実の課題に的確に答える、説得力のある情報発信だ」とミラー氏は主張する。「広告主の予算管理者やメディアプランナーはいま、成長の機会と顧客とのエンゲージメントを高める投資を真剣に検討している。だからこそ、よけいな混乱を招くべきではない。さて、Twitter号を立て直すのは誰だろう?」

マスク氏によるTwitter買収完了から2週間のうちに、ゼネラルモーターズ(General Motors)、ファイザー(Pfizer)など大手広告主が、Twitterのブランドセーフティなどの問題への懸念から、ペイドメディア出稿を当面見合わせる決定をした。広告分析専門のメディアレーダー(MediaRadar)が11月第1週に発表したデータによると、Twitterの広告主数は5月(Twitter買収提案発表直後)の3900社から、8月には2300社に減少している。その後、マスク氏による買収撤回の意向が報道された9月、広告主数はふたたび増加に転じた(増加の理由については、クリスマス商戦に向けた需要拡大という見方や、買収不成立の可能性が高まり広告主が戻ってきたのではないかとする見方がある)。

あるメディア代理店大手の経営幹部によれば、Twitterではいま「状況が毎日めまぐるしく変化」しており、マスク氏の場合、広告主各社に向けたメッセージと、それ以外のメッセージや行動のあいだに一貫性がみられないうえ、Twitterのもつ影響力を十分に認識していないようだという。

「マスク氏は、Twitterというグローバル規模の公開フォーラムを運営するという意識が薄いと思う。ただ、SNSに比べると広告事業の運営はやや単純かもしれない」。

「Twitterが悪い方向に進んだ場合、私が責任をとる」

パネルディスカッションでは、こんな質問も飛び出した。自動車業界の広告主にとって、マスク氏がテスラ(Tesla)のCEOであることは問題にならないか? 自動車ブランドのデータ保護や、Twitter広告で不利な扱いを受ける可能性に対する懸念からの質問だろうが、マスク氏は、「Twitterは自動車業界の広告主の関心を喚起するため、できるかぎり公平でなくてはならない」と答えた。

また、マスク氏は広告主企業のCEO、そしてとくにCMO(最高マーケティング責任者)が「Twitterのシステムをもっと活用すべきだ」と述べた(ちなみに、マーケターたちは初期段階からTwitterを利用している)。マスク氏のツイートの一部は米SEC(証券取引委員会)の調査対象となっているが、複数の大企業を経営するこの億万長者は「人々にもっと冒険心をもつようすすめたい」と述べた。

「冒険心あふれる情報発信こそ、テスラ、スペースX(Space X)、そして自分自身のためにTwitter上でやってきたことで、これまでのところうまくいっている」とマスク氏はいう。「ただし、テスラがとくに有利になるような投稿は絶対にしないつもりだ」

マスク氏は、広告主からのフィードバックを歓迎する意向を示し、自分が投稿したツイートの内容に異論がある人は返信で反論してほしいと訴えた。しかし、反論を試みた人々のアカウントの一部はすでにブロックされている。11月第1週、モバイル・マーケティング・アソシエーション(Mobile Marketing Association)会長兼最高執行責任者のルー・パスカリス氏は、アカウントを一時的に停止されて投稿ができなくなった。Twitterのコンテンツ監視チーム解雇の結果、「ブランドセーフティがそこなわれる恐れがある」とパスカリス氏がツイートし、マスク氏に疑問を投げかけた直後のことだ。

「買収完了後Twitterへの広告出稿を停止しているブランドに対し、いいたいことはあるか」とウィーラー氏に訊かれ、「いったん立ち止まって、事態がどう進展するか見きわめたいという広告主の考えは理解できる」とマスク氏は回答。また、「Twitterのコンテンツにはすでに改善がみられるという主張に異議がある人は意見を聞かせてほしい」と視聴者に呼びかけたが、それに応えて声を上げる者は現れなかった。

「Twitterにおいて物事が悪い方向に進んだ場合、それは私のせいであり、私が責任をとる」とマスク氏。「しかし、まずは関係者の意見を聞きたい。そのうえでしかるべき意思決定をしたいと考えている。もし経営幹部や私が下した決定が人々に受け入れられず、広告主とユーザーにTwitter離れが起きたとしたら、我々は失敗したことになる」と述べた。

コンテンツ監視、アカウント認証、ヘイトスピーチについても議論

パネルディスカッションでは、Twitterのコンテンツ監視方針と徹底の取り組みについても質問が出た。マスク氏によれば、買収完了後も方針は変わっていないという。しかし、同社が実施した大規模解雇の一環で、コンテンツ監視チームのスタッフが何人解雇されたかについては言及がなかった。マスク氏は、「広告の隣にヘイトスピーチが掲載されるのはもちろん望ましくない」とつけ加えた。

「自社の広告のすぐ隣に極端にネガティブな情報や不適切なコンテンツが表示されるのを嫌う企業がいるのは当然だ」とマスク氏はいう。「(中略)我々は、劣悪なコンテンツが広告に隣接して表示されないよう鋭意努力する。そんな状態は誰のためにもならないからだ」。

ディスカッションではもうひとつ、議論の的となっているトピックが取り上げられた。アカウントが本人のものであることを示す「認証済みバッジ」が取得できる月額8ドル(約1120円)のプラン「Twitter Blue」だ。これは個人だけでなくブランドも対象となり、マスク氏は「ユーザーの扱いにおいて公平を期すため」と説明する一方で、「どうしても支払いたくないという人がいれば、私が代わりに支払うつもりだ」と述べた。

また、マスク氏は「ブランドセーフティ」の定義についても持論を語り、「長期的にブランドの評判が守られる」状況が必要だとして、ブランドが掲載する広告の隣にヘイトスピーチなどの不適切なコンテンツが表示されないよう、対策を徹底することもブランドセーフティの担保に含まれるとつけ加えた。

「もし私が広告主企業のCEOかCMOだったら、こんなふうに考えるだろう。『短期的に売上を伸ばせる施策を打ちたいが、長期的にみて当社の評判をそこなう恐れのある活動はしたくない』と。したがって、Twitterとしては短期と長期、両方の観点から(広告ニーズに)対応する必要がある」。

[原文:Elon Musk’s Twitter town hall does little to assuage advertiser questions and concerns

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました