電機大手、上期業績出そろう–増収の影で製品値上げ、国内生産など各社対応に明暗

CNET Japan

 電機大手各社の2022年度上期(2022年4~9月)の連結業績が出そろった。為替影響がプラスに働いたこともあり、日立製作所、ソニーグループが売上高で過去最高を記録するなど、電機大手8社(日立製作所、ソニーグループ、パナソニックグループ、東芝、三菱電機、富士通、NEC、シャープ)は、すべてが増収となり、エアコン大手のダイキン工業も過去最高の業績を達成し、2022年2回目となる通期見通しの上方修正を発表してみせた。その一方、電機大手各社では、原材料価格の高騰や物流費の高騰などが利益を圧迫するといった状況が見られた。

製品値上げの効果、ダイキンは相殺、シャープは限定的

 家電事業については、第1四半期の中国・上海のロックダウンの影響がなくなり、国内家電市場は回復基調に戻るプラス材料はあったが、第2四半期には急激な円安が進行。海外生産にシフトしている企業が多いため、円安は調達価格、輸入価格の上昇に直結。各社の利益を圧迫することになった。さらに、エネルギーコストの上昇や、インフレによる景気減速、原材料価格の高騰、一部部品の供給不足の継続、物流費の高止まりなど、厳しい事業環境のなかでの舵取りを迫られ、製品の値上げが相次ぐ状況下での決算となった。
 
 注目したいのは、製品値上げの効果が着実に表れているという点だ。

 パナソニックグループは、為替影響や原材料、物流費の高騰など、外部環境の悪化に対して、国内外の価格改定や合理化などでほぼカバーし、家電事業を担当しているくらしアプライアンス社では対策効果が出ていることを強調する。

 また、ダイキン工業では、上期に原材料や物流の高騰で940億円減としたのに対して、売価施策で940億円増としており、値上げによって、原価の上昇を相殺していることを示す。

 国内事業比率が15%に留まっているダイキンの空調事業は、北米では2年間で5回以上の価格改定を実施するなど、いち早く値上げ施策を展開。それが功を奏したといえる。

 ダイキン 代表取締役社長兼CEOの十河政則氏は、「ダイキンが推進したのは、単純な売価政策ではなく、戦略的売価政策である。差別化商品の開発スピードの向上、営業力と販売力の強化、提案力の強化やサービス力、工事力の強化も同時に行い、ダイキンであれば、安心で安全で、いいものが購入できるという総合力で、売価をあげた。それが成果につながっている」とする。

 その一方で、シャープは、国内事業が中心となっていることもあり、国内市場の特性を捉えて、新製品の切り替え時に価格を改訂するという方法を用いた。そのため、すべての製品に値上げ効果が出るのが遅れた。

 シャープでは、「為替影響によるマイナスを、コストダウンや売価上昇、経費削減で多少は打ち返したが、成果は限定的であった」とコメント。為替影響は、第2四半期だけで営業利益に約70億円のマイナス影響となったが、これをマイナス20億円まで戻すに留まっている。

国内生産回帰については各社の施策が異なる

 第1四半期に見られた上海ロックダウンの影響からの回復においても、各社で差が見られている。ソニーグループは、「第1四半期の上海でのロックダウンなどによるサプライチェーンの混乱からいち早く脱し、安定した供給を回復している」としたが、三菱電機では、「第2四半期には、上海ロックダウンの影響や電子部品の需給状況に改善の動きが見られたものの、第1四半期の上海ロックダウンの影響は取り返せていない」とする。

 上海ロックダウンからの回復力にも各社の違いが生まれ、それが業績にも影響している。

 今回の決算発表のなかで関心が高まったのが、国内生産への回帰や強化である。これも各社によって施策が異なる。

 日立製作所では、第1四半期の上海ロックダウンの影響で、冷蔵庫や洗濯機の制御を行う回路を搭載した基板の生産に遅れが出て、かなりの機会損失が発生したことを明らかにしている。そこで第2四半期には、基板生産の一部を日本でも行うように改善。下期は計画通りの生産が行えるようにしているという。

 日立製作所では、「同様のことが発生した際のコンティンジェンシープランを策定しており、短期の視点では、日本での代替生産ができないかといったことを検討。中長期の視点ではサプライチェーン全体の問題として検討を開始している。中国、台湾のリスクを念頭に、フレンドサプライチェーン、フレンドシェアリング、フレンドソーシングの導入も考えざるを得ないだろう」とする。また、「これまでのグローバリゼーションは、価格一辺倒であり、安いところで買えるものはどんどんやっていこうというものだったが、状況が変わり、潮目が変わっている。価格も大事だが、同等か、それ以上に、サプライチェーンの安定性や継続性、サステナビリティが大切になってくる」と指摘。さらに、「汎用品は中国で作っても大丈夫だが、重要な部品の生産や、本体の製品は同盟国に拠点を戻す、あるいは日本の国内に回帰することも検討しなくてはならない。ASEANは、中国との関係が深いため、すべてをASEANでやることも考えにくい。中国との関係が薄いところに移していくことも、全体のプランとして検討している」とする。

 ソニーグループも、「為替の変動だけで、生産拠点を決めることはない。サプライチェーンの状況や、地政学リスクに対する捉え方が決め手になる。柔軟に動かせることは重要であるため、自動化やDX化などにより、製造の標準化を推進することで、どこでも作れることに近づきたい」とする。

 また、シャープでは、大型白物家電の生産については、国内回帰は考えていないとするものの、調理家電では、日本国内のEMSで生産することでメリットが生まれるのであれば前向きに検討する考えを示す。「日本で新たな生産拠点に投資をすることは考えていないが、EMSの活用は検討したい。だが、EMSを活用するにしても、新製品に切り替えるタイミングになり、年明け以降になる」とする。

 海外生産を行っているバルミューダは、「日本で生産する際にも、部品の多くを海外から輸入するため、ひとつひとつの部品に円安の影響が出る。いくつかの会社と国内生産について話し合いをしたが、現状ではスタートしようという状況にはなっていない」と、慎重な姿勢を示す。

 一方で、ダイキン工業では、エアコンの国内生産への回帰を検討していることを明かす。

 「まずは、部品の国内調達への切り替えを進めている。製品自体についても、海外で生産しているものを国内に持ってくる検討を開始している。具体的には、ルームエアコンのボリュームゾーン製品を中国から日本に移し、海外と同等のコストで作れないかと検討しており、新工場の検討も行っている。現在、空調機器の生産拠点は、すべて関西にあるため、関東圏に工場を持つことも、人材確保の点でプラスに働くだろう」との考えを示す。

 さらに、「円安という観点だけでなく、地政学的リスクへの対応もある。たとえば、空気清浄機はすべてを中国で生産したことから、すでに、滋賀製作所で空気清浄機の一部生産を開始している」などと述べ、「国内生産の場合には、労務費が高くなるが、コストの追求するために、モジュール化や組立の自動化など、開発設計と生産技術と生産現場が一体となり、開発段階から、製品構造を変える必要がある」などと述べた。

 このように国内生産についても、各社がそれぞれの立場で検討を開始しているが、意思決定の速度や、国内生産に対する考え方はさまざまだ。厳しい経営環境のなかでは、各社の取り組みは大きく異なる。各社のアプローチの違いが、ぞれぞれの業績にどう影響するのかが注目される。

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