物価高の中、年末商戦の行方は?:スタグフレーションは不可避

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昨日、ある顧客から早々とクリスマスのギフトを頂きました。いくら何でも早すぎるのですが、頂いてみればもうそういう時期なのかと思いました。ウォールマートなど一部リテーラーは前倒しで既に年末商戦を開始しています。11日は「独身の日」ですが、最近は中国のみならず、日本でもこれにあやかろうという動きがあり、たぶん、日本でも多くの「独身の日セール」の広告を見かけることでしょう。

アメリカの感謝祭は11月24日。最近ではクリスマスより感謝祭に向けたセールの方が盛り上がるとされます。理由の一つには感謝祭は宗教的な枠組みにあまり囚われないこととクリスマスセールは売れ残りイメージがあるからでしょう。カナダではクリスマス後にボクシングディーセールと称して年末までの残り数日で更に大バーゲンするのですが、明らかに在庫処分市で売り場は「宴のあと」の状態です。若い人はともかく、ある程度の年齢から上の方は避ける傾向にあります。

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さて、今年の年末商戦は経済の肌感覚を占う上で例年に比べてより重要な指針になるとみています。理由は巣ごもりから外に出た一般消費者がインフレと戦う中、財布にどれだけの余力があるのか次第では来年初頭の経済動向が占えるからです。

北米の貨物船。現在、どの港も待ち時間はほとんどなく入港し、荷下ろしが出来ます。1年前は港で2-3週間待ちが当たり前だったのに夏前から徐々に解消に向かいます。併せて北米航路の貨物運賃も大きく下落し、ピーク時の6割安程度になっています。私どもも10日ほど前に船便が来たのですが、極めてスムーズな通関ですし、通関後に仮置きされる倉庫は以前と比べのんびりしたムードで「繁忙状態」からは程遠い状況です。今の時期はリテーラーの年末商戦用の商品の最後の到着時期なのですが、この状態から推測するには販売会社は在庫を相当抱えているとみています。

日本の企業決算発表でふと目に留まったのがバルミューダの99.8%減益発表。同社は2-3万円のトースターなどデザインと独自の機能性を重視し、一般家電と差別化したものを次々発売してきたのですが、在庫評価損などが重く響いて形だけ黒字にした決算となりました。実質的には大赤字のはずです。同社製品はギフトというより個人のお客さんが自分のテイストに合わせて買うターゲットマーケティングです。よって巣ごもりの時期にはピッタリだったのですが、社会環境が変わると真逆の結果になることを改めて示しました。

アメリカの9月の貯蓄率は3.1%と近年では最低水準です。また、クレジットカードの債務率は9月で6.4%と高い水準です。個人債務の問題は金利が急上昇しているため、住宅ローン、自動車ローンなどの一般債務の利払い負担が増えるなかでクレジットカードローンは誰でも最も気楽にアプローチできるローンとしてその指標の行方は時として重要度を増します。クレカの金利が15%を超えている中、家計が破綻するケースも年明けから見えてくるとみています。

私の友人は今年住宅を購入し、何を思ったかフロート金利にしてしまいます。ただ毎月の支払額が変わらないプランなので家計への負担は変わらないけれど本来元本返済に当たる部分がほとんどなくなり、大半が利払いだと嘆いていました。つまりこの金利水準が続けば何年たっても元本はほとんど減らず、20年後も残債が残るということです。

北米は物価も高いのですが、家計へのダメージがボディブローのように効いてくるのはこれからで多くの専門家やアナリストが警鐘しているように来年春は相当厳しい寒風が吹くのではないかと思います。つまり春の遠来は先送りになる、ということです。

北米が高金利だったのは80年代までで90年代半ば以降、経済は成熟し、商品の流通も安定することで先進国ほど経済成長率は下がり、金利も当然ながら下がるという時期を30年以上享受してきたのです。もちろん、若い人は高金利の時代など知りません。が、今、起きていることは経済成長はボツボツ、給与もボツボツ上昇、だけど物価はスカイロケットで金利がそれを追従するというアンバランスの中にいます。つまり世にいうスタグフレーションの公算が高いのですが、当局はそれを認めたがらないでしょう。

臭いものにふたをするだけでは隙間から臭いは漏れてくると私は思います。つまり、金融政策のみならず、経済を持ち上げる政府レベルの対策なくしては苦戦する可能性は否定できません。そしてねじれたアメリカの政治力学がそれにどう立ち向かうのでしょうか?どう見てもたやすくない気がいたします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月10日の記事より転載させていただきました。

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