地下鉄の出入口はなぜ強風か(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

地下鉄の出入口は風がつよい。

いままでぼくはそれを、気圧の違いのせいなのだろうとばくぜんと考えていた。東京ドームの入口のように、つねに吹いている風だろうと。

でもある日、友人が意外なことを言った。「電車を降りてから急いで出口に向かうと、強風に会わなくて済むよ。」

なにそれ。なんでだろう。そもそも、あの風はどういう仕組みで吹いているんだろう?

2007年3月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

風が吹くしくみ仮説

友人にそう言われて、ぼくははっとした。そうか、あの風は電車が起こしているのか。

だとすると、その理屈はたぶんこうだ。

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1.電車がホームに入ってくるとき。
電車が線路上の空気を押してくるために、風は中から外へ吹き出す。
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2.電車がホームから出ていくとき。
いままで電車のあった場所が急に空になるので、まわりの空気がそこを埋めようとする。風は外から中へ吹き込む。

たぶんそういうことなんだろう。少なくとも無理はないように思う。

でもそうすると、電車が入ってくるときと出て行くときで、風の向きが逆になることになる。そんなのは今まで意識したことがない。

確かめよう

この考えは正しいのか。正しくないとしても、そもそもあの風はどんなふうに吹いているのか。どうしても確かめたい。

そのためには、まずは風速を計る機械が必要だろう。以前マイナスイオンを計測したときにもお世話になったニチワさんに問い合わせ、風速計を借りてきた。

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今回お世話になる風速計。名づけて風速太郎。

これを持って、実際に地下鉄の駅に確かめに行ってこよう。

千代田線の根津駅で調べてみた

そこで、友人との話の発端になった東京メトロ千代田線の根津駅へ行ってみることにした。

この駅を利用したことがある方ならお分かりのように、ここはつねに風が強い。構内にも強風注意の案内が目立つ。

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根津駅の出口。手に持った風速計で調べる。
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強風注意の案内は他にも数箇所あった。

調べ方はこう。

1.風速の表示部分をデジカメで録画し、電車がホームに入ってくる手前からの時刻ごとの風速を記録する。

2.風向きは、ビニールのひもを用意して風に流すことで見る。

利用客のじゃまにならないよう、混雑しない時間帯を選んでじっさいに調べてみた。

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1.まずは電車がいない時の状態。ほぼ無風。やはり年中吹いているわけではないのだ。
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2.電車がホームに入ってきたところ。中から外へ風が吹き出す。風速は3m/s。そよ風よりはちょっと強い。
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3.電車が出発してから約1分後。猛烈な風が中へ吹き込む。風速は約8m/s。

ほぼ予想どおり

結果をグラフにまとめてみた。

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時刻(秒)と風速(m/s)のグラフ。外向きの風速はマイナスで表しています。

だいたい予想に近かったが、意外な部分もあった。まとめると次のとおり。

・電車がいないときは、ほぼ無風。
・電車が近づくと、風が外へ吹き出す。
・電車が出ていくと、風が吹き込む。ただし時差が1分もあり、風は2分近くもつづく。

他の駅はどうか

根津駅に限らず、風のつよい駅は他にもあるはずだ。知人や当サイトの関係者にそういう駅を教えてもらい、どういう構造の駅で風が強くなりやすいのか、共通点をさぐってみることにした。

りんかい線大井町駅へ

当サイト編集部の橋田さんにきいてみたところ、りんかい線の大井町駅が風が強いですとのこと。ニフティが大森にある関係で、となりの大井町駅をよく使うのかもしれない。

吹き荒れる強風を期待しつつ、調べにいってみた。

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はじめて訪れる大井町駅。ここが竜の巣なのか。
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階段の降り口付近にスタンバイし、調査開始。

根津駅での経験から、風がつよくなるのは出入口のように通路が細くなる場所だということがわかっている。

大井町駅構内はひろくゆったりとしていて、なかなかそういう場所がない。それでも階段付近の若干せまくなっているところをさがし、計ってみた。

さあ、結果はどうだろう。

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風速は、約1メートル。

1メートル。

30分ほどいろんな場所で計ってみたけれど、どこも最大で約1m/sの風だった。「風向は煙がなびくのでわかるが風見には感じない」(気象庁風力階級「陸上の様子」より)という感じである。すくなくとも強風ではない。

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橋田さんのうそつき・・。

きっと計る場所や時間帯が良くなかったのだろう。その辺りのことをちゃんと聞いておかなかったのがいけないのだ。(橋田さんはいい人で、うそつきではありません。念のため。)

入谷駅は強風だった!

つぎに、「地下鉄 強風 注意」で検索して表示された、日比谷線入谷駅に行ってみた。

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東京メトロ日比谷線の入谷駅。

駅のホームに降りた瞬間から、すでに何かが違うのが分かった。

この駅は吹きそうだぞ、という匂いのようなもの。自分でもよく分からない自信があった。

はたして出入り口に立ってみると・・。

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自信が確信に変わった瞬間。

入谷駅出口の最大風速は約9m/s。

持っている傘は確実に裏返るだろう。風力階級によると「葉のある潅木が揺れ始める。池や沼の水面に波頭が立つ」とある。かえって分かりにくくなってしまったが、まあそういうことなのだ。

風が吹きやすい駅とは

根津、そして入谷駅の共通点から、強風の吹きやすい駅の輪郭がおぼろげに見えてきた。

たぶんこういうことだろう。

1.上下線が別のトンネルに分かれている

根津も入谷も、上下線のホームは別々のトンネルに分かれている。

もしも真ん中に共通のホームを持つ駅なら、空気は反対側の線路との間でやりとりできる。でも根津や入谷の場合、空気は人間の出入り口を通るしかない。

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参考:根津駅のホーム

2.ホームが地上にすぐつながっている

ホームと地上との間に売店があるようなひろい空間があれば、そこがいわば空気のタンクになる。地上から空気を供給する必要が減り、風も弱まるにちがいない。

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参考:入谷駅の出入口階段

その他、出入り口の数がすくなければ、ひとつあたりの風量も増えるだろう。ようするに風の出入り口が狭く、すくないほど風は強くなる。

なんだかあたりまえの結論になってしまった。

友人の話は本当だった

2ページめのグラフからもわかるとおり、電車を降りてから50秒以内に出口の階段をのぼりきれば、強風のピークに間に合うことになる。

もちろん駅の構造等によってこのタイムラグや風速は変化するだろうけど、約1分というのは、ふだんふつうに電車を降りてから出口を出るまでの時間にだいたい一致する。だからこそ、地下鉄にはつねに風が吹いているものだと思い込んでいたのだろう。

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「面白い服だねー」

というわけで、女性でスカートがめくれるのがいやだったりする場合は、50秒以内に出口をでるか、あるいは逆に改札で3分待ってから出れば大丈夫です。とはいえ、急いで階段で転んだりしないように、お気をつけください。

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