脂肪たっぷりの食事を選ばせているのは「舌ではなく腸」であるとの研究結果

GIGAZINE
2022年11月06日 20時00分



ダイエットや健康に気をつけていても、ついバターがたっぷりのスイーツやこってりした揚げ物に手が伸びてしまう人は多いはず。舌で脂肪分を感じられなくしたマウスを用いた研究により、脂肪分が多い食事への欲求は腸と脳のつながりに起因するものだということが分かりました。

Gut–brain circuits for fat preference | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-022-05266-z

Cravings for Fatty Foods Traced to Gut-Brain Connection | Columbia | Zuckerman Institute
https://zuckermaninstitute.columbia.edu/cravings-fatty-foods-traced-gut-brain-connection

「私たちは、脂肪と糖分の過剰摂取が肥満と代謝障害のまん延を引き起こす、前例のない時代に生きています」と語るのは、ハワード・ヒューズ医学研究所のMengtong Li氏です。この問題への解決策を探るべく、Li氏らの研究チームは一体何が人を脂肪の多い食事へと駆り立てるのかを調べる研究を行いました。

実験の中で研究チームは、大豆油などの脂肪分が溶け込んだ水と、舌には甘く感じられる一方で腸には影響を与えない人工甘味料のアセスルファムカリウムを入れた水を用意して、マウスに飲ませました。

この実験の結果、マウスは最初は甘い水を飲んでいたものの、数日後には脂肪が入った水の方を渇望するようになったとのこと。さらに、研究チームが遺伝子組み換え技術を用いて舌で味が分からないようにしたマウスを作成して同様の実験を行ったところ、舌で脂肪の味を感じられないマウスも脂肪が入った水を好むようになりました。


「マウスが脂肪を好むのは脂肪の味がするからではなく、脂肪を感知した腸が脳に刺激を送ってマウスに脂肪を選ばせているからだ」と推測した研究チームは次に、マウスに脂肪を与えながら脳の活動をモニタリングしてみました。すると、脳幹の孤束核尾側部(cNST)という部分の神経細胞が脂肪に反応して活性化していることが分かりました。このcNSTは、ハワード・ヒューズ医学研究所が以前行った別の研究で糖質の好みに影響を与えることが知られている領域だったため、「特に興味深い」と研究者は指摘しています。

さらに、研究チームは脳と腸をつなぐ迷走神経の中に腸に脂肪があると活性化する神経があることや、腸の表面にある2種類の細胞が脂肪に反応して迷走神経へと信号を送っていることも発見しました。

Li氏によると、2種類の細胞のうち片方は脂肪だけでなく糖やアミノ酸など、生きる上で必須となる栄養素の総合的なセンサーとして機能する細胞群だったとのこと。そして、もう1つは脂肪だけに反応して、脳が脂肪とそれ以外を区別するのに役立てられていました。

研究チームが、薬物を使ってこれらの細胞の働きをブロックすると、脂肪を摂取しても迷走神経に信号が送られなくなったとのこと。また、遺伝子組み換えによりマウスの脂肪に反応する迷走神経やcNSTの神経細胞を不活性化したところ、いずれのマウスも脂肪に対する欲求を失いました。


論文の共著者であるチャールズ・ズーカー氏は、今回の研究結果について「甘い、しょっぱい、脂肪の味など、舌は私たちが好きな味を脳に伝えます。しかし、私たちが何を欲するか、何を必要としているのかを脳に教えるのは腸なのです」と述べました。

また、研究チームは論文に「砂糖や脂肪が豊富な食品が引き起こすメカニズムの発見は、砂糖や脂肪がたっぷりな食べ物を切望してしまう食習慣を改善し、肥満や糖尿病、心血管疾患を含む病気への対抗に役立つ重要な戦略につながるでしょう」と記して、今回の発見は世界的な課題となりつつある生活習慣病を減少させる方法の発見に寄与するものだと位置づけました。

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