中国、海外にも自国警察署を設置か:「社会信用スコア」を海外まで拡大

アゴラ 言論プラットフォーム

中国共産党政権が海外に自国の警察署を設置、自国の反体制派活動家を監視しているというニュースが流れている。中国が海外に住む自国民を監視していること自体は新しいことではないが、その監視体制が強化されてきている点で注目される。

中国共産党第20回党大会で演説する習近平国家主席(英ガーディアン紙のスクリーンショットから、2022年10月22日)

BBCは26日、オランダのRTLニュースと非政府機関NGO「セーフガード・デフェンダース」の情報として、「オランダで少なくとも2カ所の不法な中国警察拠点がある。非公式な警察の拠点を設置することは違反だ。オランダ外務省は中国側に抗議した」と大きく報道した。

スペインに拠点を置く「セーフガード・デファンダース」は「中国の国境外で警察活動は野放しになっている」として、「中国は世界21カ国、54箇所に『海外警察サービスセンター』を設立している。それらのほとんどはヨーロッパにあって、スペイン9箇所、イタリア4箇所、英国では、ロンドン2箇所、グラスゴー1箇所が発見されている」という。

中国側がオランダの批判を否定し、「海外に住む中国人へのサービスセンターだ」という。例えば、運転免許の更新などを手助けするというのだ。それに対し、「セーフガード・デファンダース」は、「中国共産党政権を批判する海外居住国民を監視し、必要ならば強制的に帰国させる機関だ」という。海外拠点の中国警察関係者から嫌がらせの電話や脅迫を受けた海外居住中国人が少なくないという。

オランダ外務省報道官マキシム・ホーベンカンプ氏はBBCに対し、「オランダ政府は、中国政府との外交ルートを通じてこれらの活動について知らされてこなかった。それは違法行為だ」と語っている。

パスポートの更新やビザの申請などのサービスは、ウィーン条約の規定に基づき、通常、大使館または領事館によって処理される。中国が非難されているような警察の前哨基地は、ホスト国の領土保全を侵害する可能性すら出てくる。

中国の外交問題スポークスマン、王文彬氏は26日、「海外の警察署と呼ばれていたものは実際は海外の中国市民のためのサービスステーションだ。中国政府は他国の司法主権を完全に尊重している」と反論している。

このBBCの報道を読んでいて当方は2005年11月3日、シドニー中国総領事館の元領事で同年夏、オーストラリアに政治亡命した中国外交官の陳用林氏(当時、37歳)と会見したことを思い出した。同氏は「610公室」のメンバーだった。江沢民国家主席(当時)が1999年に創設した「610公室」は超法規的権限を有し、法輪功の根絶を最終目標としている。中国反体制派活動家たちは「610公室」を中国版ゲシュタポ(秘密国家警察)と呼んでいる(「江沢民前国家主席と『610公室』2011年7月13日参考)。

陳用林氏はオーストラリアにいる中国人社会を監視し、法輪功メンバーがいたらマークするのが任務だった。彼は自身の任務に疲れ、その職務に疑問を感じて亡命した。彼は決して例外ではない。海外駐在の中国外交官の中から今後、多くの外交官が自身の職務に懐疑的になり、政治亡命するケースが増えるのではないか、と予想していた。(「欧州駐在の悲しき中国外交官」2020年9月4日参考)

陳用林氏はシドニーに住む中国人、特に法輪功メンバーの動向を監視し、その情報を中国に送っていた。中国側がいう「海外サービスセンター」での業務は何かを説明した実例だ。

インタビューに答える陳用林氏(2005年11月3日、ウィーンにて撮影)

参考までに、同氏は当方とのインタビューの中で以下のように答えている。

――政治亡命の動機は

「一つは自由を求めてだ。14年間、外交官として生きてきたが、真の自由はなかった。いつも監視下にあったからだ。また、自分が政治亡命することで母国の民主化を促進させたいという願いがあった。駐シドニー総領事館では中国出身の同胞国民を監視することが私の任務だったが、それが耐えられなくなった。中国政府は政治亡命した私を『祖国の裏切り者』と批判するが、私は祖国から逃亡したのではなく、中国共産党から逃亡しただけだ」

――駐シドニー領事としての任務は具体的に何だったのか。

「オーストラリアに居住する中国人を監視し、反政府活動する中国人の言動を北京に報告することだ。私は気功集団『法輪功』信者の監視を担当してきた。ちなみに、中国秘密警察『610号』高官がシドニーを視察した時、同高官は『約3万人の法輪功信者が収容所に入れられている』と語っていた」

陳用林氏の証言は、BBCらが報じた「中国共産党政権が治安関係者を海外に派遣し、海外に住む国民を監視している」との報道内容を裏付けるとともに、習近平国家主席時代に入り、海外で自国の警察署を設置するなど、海外居住の反体制派中国人監視が一層、強化されだしてきたことが分かる。

中国共産党政権は2014年、「社会信用システム構築の計画概要(2014~2020年)」を発表した。それによれば、国民の個人情報をデータベース化し、国民の信用ランクを作成、中国共産党政権を批判した言動の有無、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化し、一定のスコアが溜まると「危険分子」「反体制分子」としてブラックリストに記載し、リストに掲載された国民は「社会信用スコア」の低い二等国民とみなされ、社会的優遇や保護を失うことになる、というわけだ。

共産党政権下で監視社会の出現を予言した英国の作家ジョージ・オーウェルの小説「1984年」を思い出す読者も多いだろう。中国では顔認証システムが搭載された監視カメラが既に機能しているから、「社会信用スコア」の低い危険人物がどこにいてもその所在は直ぐに判明する。その監視システムの対象が海外に住む中国人にまで広がられてきているわけだ。中国は今、国民のDNAを集めている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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