TikTok で話題のヘアスタイリスト、世界各地の顧客から予約殺到:ビジネスが一夜にして激変

DIGIDAY

ロサンゼルスを拠点に活躍するヘアスタイリストのジャスティン・トヴェス・ヴィンシリオネ氏は、サンタモニカのアルタ・ビューティ(Ulta Beauty)のヘアサロンで働いていた今年4月、TikTokにヘアカットのチュートリアル動画を投稿することに決めた。当初はヘアスタイリスト仲間に向けたものだったが、TikTok上で話題になり始めた。8月には、バタフライカットの仕方を紹介した動画が人気を博し、再生回数は1700万回を超えた。そして、予約が殺到するようになる。

「スタイリストのためにステップ・バイ・ステップで教える動画を作ろうと考えていたが、非常に多くの消費者からも受け入れられた」と同氏。TikTokアカウントを始める前は、時間枠が空いて早く帰宅できる日もあった。「小さなサンタモニカ店に関して言えば、需要は穏やかで、ごった返すようなことも多くなかった」。だが、TikTokで90,000人近くのフォロワーを獲得すると、同氏のその月のスケジュールは埋まってしまった。TikTok動画を目にした新規顧客がアルタ・ビューティの店舗に押し寄せ、顧客の約半分は「TikTokから直接やってきた新規顧客」だと同氏は推測する。カリフォルニア州内からだけでなく、テキサス州、アリゾナ州、さらにはシカゴなど遠く離れた場所から、ヘアカットのためにやって来たという。

ヘアスタイリストとしての名声を獲得するには、かつては有名なクライアントを手掛けることが主な方法だったが、TikTokは新しいタイプのセレブリティ・ヘアスタイリストを生み出している。バイラルになり世に知られるようになったスタイリストたちは、ビジネスが一夜にして激変するのを目のあたりにしている。話題になったパーフェクトなスタイルを求め、若い顧客が国内外から押し寄せるのだ。

たとえば、シカゴを拠点とするセールスエンジニアのマナル・ファラズ氏は、インスタグラムのリールで「70年代のヘアカット」と検索した際にトヴェス・ヴィンシリオネ氏の動画を見つけた。そしてアルタ・ビューティのプラットフォームを介して同氏の1カ月先の予約を取り、シカゴから飛んで来た。トヴェス・ヴィンシリオネ氏はここ6カ月間で158,000人のフォロワーをインスタグラムで獲得しているが、TikTokで見つけたという新規顧客がほとんどだという。

「美容院でこのようなヘアカットを頼むと、『いや、これは不格好だから私はしない。私の作品にしたくない』と言われる」とファラズ氏。「ジャスティンにメッセージを送ったら、とても歓迎してくれた。私が望むことを聞いてくれそうだと感じた」。同氏はこのアポイントメントのためにロサンゼルスまで飛び、週末を過ごしたという。

90年代の人気ドラマ『フレンズ』の人気再燃で注目されるレイチェルのカーテンバングスや、ウルフカットなど、TikTokはここ2年でさまざまなトレンドヘアに影響を与えてきた。

「TikTokはトレンドを加速させている」と語るのは、オンタリオを拠点とする理容師のマイルズ・カルロス・ミラフローレス氏だ。同氏は今年7月からTikTokにヘアカットの動画を投稿し始め、現在は100万人のフォロワーがいる。「誰もが動画を見て、同じことをするようになる」。

ミラフローレス氏が注目を集めるようになったきっかけは、ストレートヘアに質感や立体感を生み出すスタイリング方法を収めた動画だった。これが300万ビューを獲得すると、「このヘアカットのために予約が入るようになった」という。ミシサガ(オンタリオ州)のアイデンティティ・バーバーショップ(Identity Barbershop)で働く同氏の顧客は、以前は地元の人たちだったが、現在はニューファンドランド、プリンス・エドワード島、カルガリー、モントリオール、マイアミ、ノース・カロライナ、クイーンズ(ニューヨーク)などカナダや米国の各地から新規顧客が訪れるようになった。今の顧客の6割はTikTokを介して知った人たちだと、同氏はみている。

3カ月先まで予約で埋まったミラフローレス氏は、ヘアカット料金を45カナダドル(約4,900円)から80カナダドル(約8,600円)に引き上げ、既存の顧客には以前の料金でカットできるコードを提供した。「常連客は予約を取ることすらできないので、(料金を上げることで)よりエクスクルーシブにする必要があった」。近いうちに料金を100カナダドル(約10,800円)に引き上げる計画もあるという。

「私は24歳の時点で新規顧客の受け入れを完全に停止するほど、新規顧客が大量に押し寄せた」と語るのは、セントルイスのヘアスタイリスト、シーリ・パークス氏。TikTokで360万人以上のフォロワーを持ち、カラフルなヘアカラーで有名だ。同氏のもとにも、全米各地やカナダ、英国から顧客が訪れる。TikTokによって「サロンの場所がどこであろうと、スタイリストとその仕事に膨大な数の人々がアクセスしやすくなった」と同氏は語る。

TikTokで有名になった多くのヘアスタイリストは、話題となって拡散したスタイルで名声を確立する。だが、TikTokインフルエンサーとの関係も、従来のセレブリティ・ヘアスタイリストの意味合いを大きく変えている。

ヘアスタイリストのグレン・エリス氏は、過去にヘレン・オーウェン氏などのインフルエンサーを手掛けたことで、多くの顧客が押し寄せたという。だが、クライアントのひとりであるティンクス氏が自身のTikTokでエリス氏のことを称賛したことが「非常に幅広い層の顧客をもたらした」という。

「パンデミック期間中にティンクス氏のヘアスタイリングを担当したことが、私のキャリアの躍進に貢献した」。

同氏の顧客もまた世界各国から集まっており、中にはタイからロサンゼルスまで、ヘアスタイリングの予約のためだけに訪れる人もいるという。

「TikTokはヘアスタイルのトレンドに大きな影響を与えている。その立役者はセレブリティよりもインフルエンサーで、今は彼らが新しいセレブといえる」と、ロサンゼルスのヘアサロン「ファン・ハウス(PhanHaus)」の共同所有者であるリン・ファン氏は語る。もう一人の共同所有者、マギー・ハンコック氏もTikTokによって「まったく新しいオーディエンスを開拓できた」と言い添える。

TikTokでの名声によって、スタイリストたちは他にもさまざまな機会に恵まれることとなる。トヴェス・ヴィンシリオネ氏はアカウントを立ち上げる前はアルタ・ビューティが選抜するスタイリスト集団「デザイン・チーム(Design Team)」のメンバーで、TikTokで有名になった後にはヘアケアブランド「オーセンティック ビューティ コンセプト(Authentic Beauty Concept)」のアンバサダーに任命された。いつか自分のサロンを開くことができそうだと同氏は語る。一方、ミラフローレス氏は自身の製品ラインを近々立ち上げる計画があり、TikTokインフルエンサーのヘアスタイリングを撮影するためカナダからロサンゼルスに行く予定だ。トヴェス・ヴィンシリオネ氏も、プロ向けの教育プラットフォーム「ビハインド・ザ・チェア(Behind The Chair)」と提携し、バタフライカットや他にも話題になったスタイルについて国内各地を飛び回って教えている。

サロンのプロにとって、Z世代のヘアスタイルのトレンドに遅れずについていくには、最新のカットを学び続ける必要がある。さもなければ、顧客は別のお店に乗り換えかねない。そして、それが他州や他国のお店ということもあり得るのだ。

「新規顧客に共通するのは、地元では望むサービスを受けられないと感じていること」と同氏。「だから彼らはソーシャルメディアに答えを求めるのだ」。

[原文:People are flying across the world for TikTok’s viral hairstylists

LIZ FLORA(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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