アリゲーターの死骸を深海に投げ込んでみた→すごい速度で貪り食われた!

GIZMODO

2020年1月22日の記事を編集して再掲載しています。

お腹が空いていたんだね…。珍しい食糧源が現れたとき、深海生物はどう反応するのかを調べる実験を行なったところ、その成果はとても興味深いものになりました。

昨年4月にも米Gizmodoで取り上げていたこのリサーチ。待ち望まれていたその結果が、ようやくオープンアクセスの科学ジャーナルPLOS Oneに掲載されました。同プロジェクトのおもしろい新事実を、ルイジアナ大学海洋科学研究所(LUMCON)のCraig McClain氏とClifton Nunnally氏率いる著者たちが詳述しています。

食料の乏しい深海にごちそうが舞い降りた

アリゲーターと深い海底だなんて縁のなさそうな組み合わせのように思えますが、爬虫類たちは新たな食糧源を探すためか、単にハリケーンのような異常気象に流されたせいか、岸から遠く離れることがあります。ですが、時にこのようなアリゲーターらは海にいる間に死んで、その死骸が海底へと沈んでしまうのです。

海底に住まう生き物からすれば海底の食糧は乏しく不十分なので、上からの貴重な贈り物ということになります。

「深海では日光が届かないため光合成はない」と、ルイジアナ大学ラファイエット校のMcClain Labの博士研究員で、この研究の共同著者であるRiver Dixon氏は米Gizmodoへのメールで語っていました。

「食物網の基盤形成する典型的な生物、つまり植物や海洋システムで植物プランクトンと呼ばれる植物のような有機体は存在しないということ。その代わり、浅い海から降り注がれる腐敗してゆく生物や排泄物、そして他の有機堆積物のカスの集合体であるマリンスノーが深海生物へのエサとして届きます」

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アリゲーターの死骸を貪るダイオウグソクムシ
Image: C. R. McClain et al., 2019.

アリゲーターの死骸を貪るダイオウグソクムシImage: C. R. McClain et al., 2019.しかしDixon氏が説明したように、このマリンスノーは海底の生息数を維持するには十分ではないため、「炭素の謎」を引き起こします。

「この不足している炭素の潜在的な出どころとして、クジラや大魚さらには樹木やケルプといった植物の調査に多大な労力が注がれました」とDixon氏は言います。「このところ、海洋環境を利用するアリゲーターやクロコダイルを見てきたので、私たちは大型爬虫類の死骸が深海の食物網にもたらす影響と、深海への潜在的な炭素の経路としての大型爬虫類の死骸を調べるためこの実験を行なうと決めました」とのこと。

3匹のアリゲーターを水深2,000mに置いてみた結果は?

実験では3匹のアリゲーター(アメリカアリゲーター)が、メキシコ湾北部の大陸斜面水深2,000mに沿って配置されました。実験に向かう際、アリゲーターの硬い皮は腐食動物たちにとっては食べにくく、死骸は長い間何もされないだろうとLUMCONチームは予想します。

しかし、彼らは間違っていました。この珍しい食糧源に深海のあらゆる生物たちがすぐさま食いつく姿が捉えられ、そのうえ全くの新種の生物も発見されたのです。

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このアリゲーターが海底に落とされてから51日後、残っていたのは骨だけでした。
Image: LUMCON

このアリゲーターが海底に落とされてから51日後、残っていたのは骨だけでした。Image: LUMCON1匹めのアリゲーターを放り込んだ場所ではダイオウグソクムシが死骸に殺到し、24時間もしないうちにその皮を突き破っていきました。フットボールほどの大きさのこの生物たちは、爬虫類の分厚い皮に悩まされなかったようで、ごちそうに大喜びで肉片を食いちぎるダイオウグソクムシの様子が動画に収められています。彼らは何年間も絶食できる生物です。

研究者たちは投げ込んでから51日後に2匹めのアリゲーターの元を訪れましたが、その頃には肉はすべて剥ぎ取られていました。最後の食事を求めて動き回っている1匹の端脚類を除けば、残っていたのは骸骨だけだったのです。曲がった背骨を含め骨々の向きは研究者らが置いていったままでしたが、頭部がひっくり返されていたのはおそらく腐食動物の活動のせいでしょう。

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茶色っぽいフワフワしたものは骨を食べる生物ホネクイハナムシ(ゾンビワーム)の新種
Image: LUMCON

骨を食べるホネクイハナムシ属の新種も発見

この落下場所にいた生物は端脚類だけではありませんでした。骨に付着していた茶色っぽいフワフワしたものは、ゾンビワームと称される骨を食べる生物ホネクイハナムシ属の新種だと後に確認されました。

「ホネクイハナムシはあらゆる脊椎動物の骨にある脂質を餌にします」とDixon氏。「採取した生物のDNAを既知のホネクイハナムシ属のDNAと比較した結果、それが新種であることを確認しました」

この発見はホネクイハナムシ属がメキシコ湾で発見された初の事例で、アリゲーターの骨を食していると記録された初の例でもあるため注目に値します。

「さらなる実験で、この新種のホネクイハナムシ属が爬虫類のスペシャリストなのか、湾内にいる脊椎動物の死骸において広く発見されるものなのか解明できるかもしれません」とDixon氏は付け加えています。

3匹目のアリゲーターは死体がなくなっていた!

3匹めのアリゲーターは状況が少し異なっていました。海に落としてから8日後に研究者らが落下地点に戻ってみたところ、そこにあるはずの死骸は消えていました。残っていたのは、かつては生物がそこにあったと示す海底の窪みとマーキングデバイスのみでした

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投げ込んでから8日後、アリゲーターは忽然と消えていました
Image: LUMCON

Dixon氏と同僚たちは、死骸がないことにショックを受けたと語っています。

「ROV潜水を進めており、私たちは船のデッキにある輸送コンテナにいて、海底のロボットから動画を映すTV画面の周りに集まっていました」と言います。

「1週間前にアリゲーターの死骸を設置した地点に近づくと、何も見えませんでした。この場所で合ってるよね?というように互いの顔を見合わせました。まさか完全に消えるなんてあり得ない。でも、その死骸に着けていたマーキングデバイスはまだそこにあったので設置場所に行ってみると、死骸でできた窪みがありました。場所は合っているとわかりましたが、面食らったのでその区域を調べ始めたんです」

やがてLUMCONの研究者らは引きずった跡を発見して、死骸に結び付けられていた錘とロープへと導かれました。Dixon氏曰く、元々の地点から9m離れていてロープは完全に噛み切られていたとか。アリゲーターの痕跡は何も残っていませんでした。

「それが何であれ、巨大な生物でしょう。死骸と錘の総重量は36kg以上で、その形状と長さのせいでかなり動かしにくいはずです」とDixon氏。「私たちの計算では、ロープを噛み切るのに要した強さは巨大なサメくらいであるはずです」

研究者らは、アリゲーターを丸ごと食べられるニシオンデンザメカグラザメの犯行ではないかと疑っています。

というわけで、深海に投げ込まれたアリゲーターは3匹ともそれぞれ異なる観測結果につながり、新種の発見と海底に住まう海の生物たちの適応力を見せつけることになったのでした。

Source: PLOS, YouTube

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