【つらい】『耳をすませば・実写版』を観た結果 → 「もしも聖司が最低の男だったら」というパラレルワールドだった

ロケットニュース24

「ジブリ映画の中で何が一番好きか」という問いの答えは、ともすれば “自分がどういう人間であるか” を相手に伝える重大なテーマだ。ちなみに私は誰が何と言おうと『耳をすませば』一択! そんな『耳をすませば』の実写版が、本日(10月14日)より全国公開となった。

『耳をすませば』は同名の漫画を原作とした作品であり、今回の『実写版』と『ジブリ版』との間に直接的な関係はない。それは分かっちゃいるのだが、とはいえファンの大部分が『ジブリ版』でこの作品を知ったことは疑う余地もない事実だろう。

個人的に『ジブリ版』は映画史に残る最高のラストシーンを描いたと感じているため、本音を言えば続編など永遠に観たくはなかった。あまりに観たくなさすぎて、ある男に付き添いを頼んだほどである。

・俺たちのセイジ

万が一ご存知ない方のために補足しておくと、『ジブリ版・耳をすませば』は中学3年生の主人公・月島雫(つきしま しずく)と天沢聖司(あまさわ せいじ)の淡い恋模様を描いた作品。イタリアから戻った聖司が雫に「いつか結婚しよう」と告白したところで物語は幕を閉じる。

ちなみに私は『耳すま』好きが高じてアメリカのウエストバージニア(ジブリ版エンディング曲『カントリー・ロード』の舞台)まで足を運んだクチ。「実写版が嫌なら観なきゃええやん」という意見もあろうが、ファンを公言している以上は見届ける義務があると思っている。

公開初日、朝イチの上映回。映画館でたたずむ私の元へ、ゆっくりと歩み寄ってきたのは……



♪ カンティ〜ロ〜……



♪ フフフンフ〜ン……



セイジ「雫、おまたせ」


セイジ君…………!


・私が憂鬱な理由

天沢聖司(あまさわ せいじ)と名前が似ていることで知られる当サイトの中澤星児(なかざわ せいじ)記者。1人で映画館へ来る勇気がどうしても出なかった私は、彼と一緒に実写版を鑑賞することにしたのである。

と……その前に、私がこれほど実写版を観たくない理由を簡単に説明させてほしい。「アニメが最高すぎた」「聖司を演じられる役者はいない」といった件も当然なのだが、一番問題なのは実写版が「 “その先” を描く」ことをウリにしている点である。

原作とジブリ版で描かれているのは中学生時代まで。中学生といえば、その先どういう大人になるか全く分からない年代だ。このさき聖司がグレて不良になる可能性も、最終的に雫と杉村がくっつく可能性も、割とリアルに全然ありえると思う。

「この子達はどんな大人になるんだろう」と想像する醍醐味こそ、『耳すま』が名作たる所以だったハズ。それをパラレルワールドとはいえ、「結果こうなりました」と公式に発信するのはいささかナンセンスではないか? 実写化そのものを否定するわけではないが、原作にない “主人公の成人後” を創作するなど、もはや同人誌の範疇なのでは?

また「実際に雫や聖司のような中学生がいたら見てらんない」という問題も挙げられる。ジブリ版における彼らの挙動を現実に置き換えれば、軽度の中二病を患っていることが分かる……それでも微笑ましく見られちゃうのは、彼らが “シブリ絵” で表現されているからだ。

現実世界の日本を舞台にしている本作を、我々は少なからず “自分が中学生だったころ” に置き換えて見てきた。雫や聖司は、視聴者にとって「私もあれくらいイタかったなぁ」という気持ちを抱かせる象徴的な存在なのだ。しかし、実写でアレを突きつけられると……想像しただけで逃げ出したい気持ちになる。

他にも「現在と時代背景が合っていない可能性がある」「バロンの実写はヤバそう」「ジブリ版を意識しすぎているのでは?」など不安要素を言えばキリがないのだが、中でも最大にして避けようのない大問題……それは「どの結末を迎えても嫌だ」ということ。

劇場版のポスターには「夢にまっすぐな 君を好きなまま 大人になりました」「10年後の2人の物語」とハッキリ書かれており、少なくとも25歳前後まで、雫と聖司の間に恋愛関係が継続していることを示している。この段階ですでに「知りたくなかった」という感情が止まらない。


ところで皆さんはジブリ版ラストシーンの後、2人の関係はどうなると想像していただろう?

あくまで私の空想だが、普通に考えれば “2人は別れる” 可能性が高いと感じていた。誰しもが人生で、一度は「結婚するならこの人しかいない」という出会いを経験するもの。しかしほとんどの場合、その気持ちが永遠には続かないことを後に知るのだ。

ジブリ版ラストシーンの雫と聖司は、あの瞬間、確かに “永遠” を感じていた。ケガレを知らない彼らの姿がいじらしくも懐かしく、でも「もし本当に2人が結婚したら……」という希望は残る。『耳をすませば』の良さって、そういうことだと思うのだ。

だが「2人はマジで別れました」と言われたとなると、話は全然違ってくる。 “勢いで結婚を誓い合った中学生がのちに破局” ほど現実味を帯びた話もあまりない。かといって「2人はマジで結婚しました」と言われると、今度は現実味が光の速さで飛び去っていくような気になる。

そもそも “図書館に通いつめて小説を書く” という雫の習性は、どちらかといえばオタク寄りのもの。にも関わらず彼女は男子2人からほぼ同時に告られ、性格はよく、友達も多く、見知らぬオジイちゃんたちの伴奏で歌まで歌ってしまう。実は “ちょっとありえないくらいイケてる女子中学生” といえるのだ。

そんな選ばれしイケイケ女子中学生が、初恋の相手と純愛を実らせて結婚……? 親近感をおぼえていたはずの『耳をすませば』が、途端に「激レアさんの物語」に感じられてしまうことだろう。生きてるのがバカらしくなる人も続出するに違いない。


・たった1つのネタバレ

……以上のことから、私を不安な気持ちにさせ続けてきた『耳をすませば実写版』。制作されたこと自体がネタバレであるため、あまり多くを語ることは避けたい。以下、私の感想を一言にまとめたので、これから鑑賞予定の方はそっとタブを閉じていただけると幸いだ。


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雫に悪いところがあるとすれば「聖司みたいな最低男と10年も付き合ってしまったこと」。


なお同行した中澤記者に感想を求めたところ「聖司が最低だった」という趣旨の発言はなかったので、これは特に女性が抱く感想かもしれない。「理想の人は天沢聖司」を公言していただけに、この描かれ方はショックである。雫がいい子すぎてツライよ……!

劇中の聖司(成人後)は一体、雫の10年間を何だと思っておられるのか? そのあたりを誰かと語り合いたいという意味では、多くの人に観てほしい作品といえる。物語のつづきが気になっていた人にとっても、ある程度のところまで描かれているのでオススメだ。

しかし「原作やジブリ版とは完全なパラレルワールド」と割り切ることが難しい人は……やめとくのもアリかもしれない! 現場からは以上です!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

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