建設国債と赤字国債はどう違うの?

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来年度予算に向けて、いろんな観測気球が飛ぶ季節になりました。今年の最大の焦点は防衛費。それを建設国債でまかなうべきだとか「防衛国債」を発行すべきだといった議論がありますが、基本的なことを整理しておきましょう。

Q. 建設国債って何ですか?

日本の財政の一般会計はすべて税金でまかなうことが原則で、国債で借金するときは国会の承認が必要です。これを特例公債といいますが、普通は赤字国債と呼ばれます。

しかしそのうち財政法4条で「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額(予算)の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と例外を定めており、これが建設国債と呼ばれています。

Q. 赤字国債との違いは何ですか?

ほとんど違いはありません。建設国債は予算案と一緒に政府が発行額を決めるのに対して、赤字国債には毎年、借金のための特別法に国会の承認が必要ですが、今のように自公政権が絶対多数だと国会を通るのは確実なので、どっちでも同じです。国債にこんな区別をしている国は他にありません。

Q. ではなぜ防衛費を建設国債で出すという話が出てるんですか?

防衛費をGDP2%にするかどうかをめぐって、財務省が「財源が足りない」というのに対して、自民党から「足りなければ国債を発行すればいい」という話が出ています。

でもこれでは国債が売れなくなったとき防衛費を減らさないといけないので、国有財産などを担保にする建設国債でまかなおうというわけです。

Q. 財源が足りなくなったらどうするんですか?

本当に財源が切迫して資金繰りが回らなくなったら、国有財産を売却する必要がありますが、そんなことは日本では起こりません。財源が足りなくなっても減らせないという意味では、年金や医療費などの社会保障支出も同じですが、毎年「社会保障関係費」として30兆円以上の赤字国債を発行しています。単なる気持ちの問題です。

Q. 国債が売れなくなったらどうなるんですか?

今のように日本銀行が国債を買ってくれるかぎり、国債が売れ残ることはありませんが、普通の銀行が国債を買わないと金利が上がります。でもこれは赤字国債と同じで、建設国債の金利が低いわけではありません。

Q. 金利が上がったらどうなるんですか?

日銀や市中銀行のもっている国債に評価損が出ます。日銀の保有資産は買ったときの価格で評価するので問題ありませんが、銀行のもっている国債は時価評価なので、債務超過(評価損が自己資本より大きい)になると、金融危機がおこるおそれがあります。

日銀は国債を買う代金を日銀当座預金で銀行から借りているので、金利が上がると逆ざや(支払い金利が国債金利より大きい)になる可能性があります。日銀当座預金は約550兆円あるので、金利が1%ついただけでも年間5.5兆円を現金ではらわないといけません。政府の支払い金利(国債費)も増えるので、借金がふくらんで財政危機になります。

Q. 防衛費を「防衛国債」で出すべきだという意見もありますが?

日本育英会の出資金は、建設国債でまかなっています。将来世代のための借り入れだという理由ですが、同じ意味で防衛費も将来世代の資産になるので、防衛費は「防衛国債」として別枠にすべきだというのが安倍元首相の持論でした。

でも今まで説明したように借金に色はついていないので、これは財源論としては意味がありません。別枠にしてもいいのですが、そうすると予算のおさえがきかなくなるので、財務省がいやがります。これも気持ちの問題です。

Q. どういう国債を出すかは無意味な問題でしょうか?

そうでもありません。今のように国際情勢が緊迫しているときに、財政事情で防衛費を増やせないのは困るので、防衛費に見合う分を永久に返さない永久国債として発行してはどうでしょうか。防衛費がGDPの2%なら10兆円程度ですから、これを日銀が買って永久に保有すれば、安定した財源になります。

Q. 財政規律がゆるむと、財政赤字がどんどんふくらむんじゃありませんか?

それは赤字国債でも同じことで、問題は民間の需要不足(貯蓄過剰)があるかどうかです。日本経済はこの20年以上ずっとゼロ金利で貯蓄過剰が消化できず、今でもGDP(国内総生産)の2~3%の需要不足があるといわれています。

これが今後も永久に続くなら、毎年10~15兆円の永久国債を出す財政余地があります。でも世界的にはインフレで金利は上がっており、イギリスのように政府が市場の信頼を失うと、通貨や債券や株式が暴落して大混乱になります。

日銀のゼロ金利政策も維持できるかどうかあやしくなり、長期的には高齢化で貯蓄が減っていくとみられているので、あまり多額の借金を固定するのは危険です。問題はそういうマクロ経済的なバランスではなく、防衛費が本当に将来世代の資産になるのかどうかという防衛政策の中身でしょう。

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