「光速の30%」という驚異的な速さで天の川銀河の超大質量ブラックホールを周回するガスの塊が発見される

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by European Southern Observatory

地球がある天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の周囲を、光速の30%という驚異的な速さで周回する高温のガスの塊が発見されました。このガスの塊は、水星の太陽周回軌道と似た距離をわずか70分ほどで周回しているとのことです。

Orbital motion near Sagittarius A* – Constraints from polarimetric ALMA observations | Astronomy & Astrophysics (A&A)
https://doi.org/10.1051/0004-6361/202244493

Astronomers detect hot gas bubble swirling around the Milky Way’s supermassive black hole | ESO
https://www.eso.org/public/news/eso2212/

A Weird Blob of Hot Gas Is Whizzing Around Sagittarius A* With ‘Mind-Blowing Velocity’ : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-weird-blob-of-hot-gas-is-whizzing-around-sagittarius-a-with-mind-blowing-velocity

Superhot blob of gas discovered orbiting Milky Way’s black hole at ‘mind-blowing’ velocity | Live Science
https://www.livescience.com/superfast-hot-blob-gas-sagittarius-a

いて座A*は天の川銀河の中心に位置し、太陽の400万倍もの質量を持つブラックホールです。2022年5月、世界中に設置された8つの電波望遠鏡を連携させて仮想望遠鏡を構築するプロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」により、いて座A*の画像が撮影されたことが発表されて話題を呼びました。

地球と同じ銀河に存在するブラックホールの画像が初めて撮影される – GIGAZINE


EHTのいて座A*画像化プロジェクトに参加した、マックス・プランク電波天文学研究所の天文物理学者であるMaciek Wielgus氏らの研究チームは、チリにあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ望遠鏡)の観測データを分析しました。すると2017年4月の観測データにおいて、いて座A*の周辺から発される異常な輝き(フレア)を検出したとのこと。

いて座A*におけるこの種のフレアは、過去にもX線望遠鏡や赤外線望遠鏡で観測されており、ブラックホール近傍を高速で周回するガスの塊(ホットスポット)に関連していると考えられていました。X線や赤外線ではなく電波観測でフレアの存在が確認されたのは、今回が初めてだそうです。

研究チームがフレアを放出したガスの塊について分析を行ったところ、水星の太陽周回軌道と似たサイズのブラックホール周回軌道を、わずか70分で周回していることが判明しました。Wielgus氏は、「私たちは、水星と同じようなサイズの軌道で『いて座A*』を周回するガスの熱いバブルを見ていると考えていますが、これはたったの約70分で1周しています。これは光速の30%という驚異的な速さです!」とコメントしています。


また、ガスの塊は強く偏ったあるいはねじれた光を放射していたほか、シンクロトロン放射の兆候も確認されたとのこと。これらは強い磁場の条件で発生するものであり、ガスの塊はブラックホールの周囲を渦巻いて物質を供給するmagnetically arrested disk(磁気的に停止した円盤/MAD)に埋め込まれていることが示唆されています。

通常、超大質量ブラックホールに近すぎる天体は圧倒的な重力に引っ張られてしまいますが、今回発見されたガスの塊は非常に速く動いているため、ブラックホールの近くで安定した軌道を維持しているとのこと。しかし、電波望遠鏡でフレアが観測できたのはガスの塊がエネルギーを失って冷え込み、より長い波長で観測可能になったからである可能性も示唆されており、最終的にガスの塊が減速してブラックホールに引き込まれるかもしれないそうです。

論文の共著者でオランダ・ラドバウド大学の天体物理学者であるMonika Mościbrodzka氏は、「私たちはこれらのフレアの磁気的起源を示す強い証拠を見つけ、観測からはプロセスの幾何学的形状についての手がかりを得ることもできました」とコメント。Wielgus氏は、「いつの日か、いて座A*で起こっていることを『知っている』と気分良く言えるようになることを望んでいます」と述べました。

by European Southern Observatory

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