何を思う習近平氏:中露はG20でどの国を取り込むのか

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習近平氏が2年8か月ぶりに外遊します。9月15-16日にウズベキスタンで開催される上海協力機構首脳会議への出席に合わせ、その前日の14日に隣国、カザフスタンでプーチン大統領と会談することになっています。プーチン氏は外交活動をここにきて少し活発化させていますが、習氏はようやく始動という感じでしょうか?

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今回の直接会談は北京五輪の際の会談以来ですのでその間、電話会談はこなしているとしても「盟友」として相談事は山積しているはずです。一方で中国共産党大会が10月16日から開催され、自身の3期目の就任の決議がかかっていることもあり、今回の会談で何らかの「合意」や「同意」があったとしても表に出てこない可能性はあると思います。

また共産党大会終了後、11月にインドネシアのバリ島で開催されるG20にプーチン氏、習近平氏共に参加の意向を示しており、こちらの方が不気味であります。そのあたりをにらんだ一つの準備相談ではないかという気もします。

習近平氏を取り巻く環境は「晴れ」とは程遠く、今にも雨が降りそうな黒雲が覆うという状態ではないかと思います。「内憂外患」が最もふさわしい言葉でしょう。

特に国内経済があまりにも厳しく、ゼロコロナ対策による更なる制約で中国の実質経済成長率は4-6月で0.4%となり、政府目標の年間5.5%成長は厳しいと指摘されています。4-6月の低迷はコロナによる封鎖が主因でしたが、現時点で見れば活動は回復しつつあります。が、世界経済が来年に向けて景気後退期に入るのではないかとみられるその背景に「新常態」があり、未だにその霧の向こうにある「ポストコロナのニューノーマル」が見えない中、巨体の中国がその新常態にたやすく調整するのは困難であろうと推測できます。

表面的な産業再開や輸出業務の平常化はできるかもしれません。しかし、懸案の不動産問題は政府が4兆円を投じて仕掛り中の開発物件の完成を急がせるとしました。不動産最大手、恒大集団を潰さずにここまで維持してきたのはたぶん、やりかけの仕事を政府監視のもと最後までやらせる算段だからでしょう。同社は一種の清算会社の扱いですが、この場合、「精算」をしたのち、本当の「清算」をさせるのだろうとみています。まだ数年かかるのではないでしょうか?会社はもちろん、骨抜き状態です。

ただ、私の懸念は今回の不動産問題は供給側だけではなく、数年前に購入をコミットした顧客の経済的事情の変化もあるとみています。コロナ制約を通じて家計の状況は大きく変わっているはずで個人破産や契約破棄が相当増えてもおかしくありません。更に、16-24歳の若年層の都市部居住者の失業率が19.9%と統計発表以来最高になっています。かつて日本でも「大学は出たけれど」という映画がありましたが、この数字から見えるのは「中国の韓国化」です。政府発表の統計では真偽のほどが図れませんが、若年層が高失業率であり、仮に韓国ほど年長者を敬う儒教的雇用体系が進んでいないならばそれより上の年層の失業率も一定規模で上がっていると推測でき、どう見ても雇用が中国のネックになりかねないと思います。

国内の派閥争いも厳しい情勢でしょう。そもそも反習近平派としては今般の共産党大会の下地作りとなった8月の長老による北戴河会議が中国政局の「マジノライン」であったと思われます。が、習近平氏に神風が吹いたともいわれています。それがペロシ下院議長による台湾訪問で政争の議論が台湾問題にすり替えられて難局を乗り切ったともされます。これが現時点で習氏が三期目続投だろうと言われている背景の一理由です。

プーチン氏と14日に会談するということは既に共産党大会に向けた脂っこいところをクリアしたとみてよいのでしょう。故に次の布石を打つための会談になるわけです。

ではなにが議題になるのでしょうか?直接的な実務、貿易や体制の確認はともかく、世界と対峙するこの二つの国が今後、どう体制強化を図るかの大枠プラン作成だろうとみています。特にG20でどの国を取り込むのか、戦略を練るのでしょう。私が見るカギのなる国はインドとブラジルです。特にブラジルは10月2日に大統領選挙があり、現職で右派のボルソナロ氏の不利が伝えられており、左派のルラ氏が下馬評通り当選すれば中国は即座に取り込みに入ります。インドにはクアッドの実質崩壊を狙い、ロシア、中国両方からの甘いディールが持ち込まれるのは確実でしょう。

私は以前、ウクライナの停戦交渉に中国が一役買うこともあり得ると述べました。それは私の勝手な妄想ではなく、現実にゼレンスキー氏が習近平氏との会談を望んでいることが報じられており、交渉打開の方策案の一つなのです。もちろん、西側諸国はその発言に対して裏でゼレンスキー氏に厳しいプレシャーをかけているのは目に見えています。可能性は微妙ですが、G20にゼレンスキー氏が何らかの形で参加する検討もあるとされ、その場合の仲裁が習近平氏というのは絶対にないシナリオではありません。そのあたりのプラン作りは習氏もプーチン氏も長けているので布石づくりに余念がないはずです。

一方、バイデン氏はG20で習近平氏との会談を調整しています。ではバイデン氏はプーチン氏とは目も合わせないのか、停戦介入をしないのか、となればこれはこれでアメリカ世論からは意見が出るでしょう。G20の日程は11月15-16日。アメリカ中間選挙は11月8日ですからバイデン氏としては残り2年の自身の戦略として腹を決めなくていけない時期でもあるのです。

この秋の世界の政局はファクターが非常に多いと思いますがやはり、習近平氏がその中心にいることは間違いなさそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月13日の記事より転載させていただきました。

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