不況に備え、新戦略を模索する新興ブランドたち:「D2C専業からの脱却」から「原料調達の確保」まで

DIGIDAY

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景気後退が確実なものとなったわけではないが、ブランドは今後数カ月について、最悪のシナリオに備え始めている。記録的なインフレ率と不安定なマーケットの状態を背景に、新興ブランドは米国が景気後退に陥った場合の新しいビジネス戦略を考え始めている。

一部の消費財ブランドは、資金を使いきるまでのランウェイ(猶予期間)を延ばし、資金集めが厳しくなった時期を生き延びられるだけのキャッシュフローを確保しようと、財政を強化している。別のスタートアップにとっては、景気後退への備えとは、ますますコスト高となるD2C専業モデルから脱却するために小売販売を加速させることを意味している。また、原材料の価格が上昇を続けているなか、将来的に合理的な価格で製造できるよう、既存および新規の生産契約を締結している企業も存在する。

全体として、ブランドは最悪の事態に備え、最善を尽くしながら今後の成長を見据えている。

有力な取引先との契約

男性用化粧品ブランドのブラボーシエラ(Bravo Sierra)は8月、大手小売チェーンのウォルマート(Walmart)での製品発売を支援するシリーズBを1700万ドル(約23億2000万円)で完了し、ウォルマートの4500の店舗に展開することとなった。この販路の拡大が、今後の景気後退を生き延びるために役立つと期待されている。

共同創業者のジャスティン・ギルバート氏とベンジャミン・バーネット氏は、買い物客がドラッグストアや大型小売店で使う予算を切り詰める時期でも、衛生用品とパーソナルケア商品はほとんどの人にとって不可欠なままだと米モダンリテールに語っている。

「誰もしようとしない時期に、あえて私たちは資金調達することにした」とギルバート氏は述べている。「以前の投資家と新しい投資家のどちらも、過去6カ月、コロナと市場の暴落にもかかわらず約束を果たしたことを理解してくれたので、資金の調達ができた」。

ブラボーシエラは、D2Cブランドとして2019年に創業された。大型店での展開に先立ち、このブランドは世界中のアメリカ陸軍および空軍基地での小売を通じて存在感を高めることで、大きく成長してきた。

しかし、経済情勢の変化に伴い、今年、ブランドは急速に「キーアカウント」を拡大したとギルバート氏とバーネット氏は述べている。これには、公式Amazonストアのほか、大手小売チェーンのターゲット(Target)やアルタビューティー(Ulta Beauty)、そして今回のウォルマートなど、オフラインとオンラインの両方のチャネルが含まれる。「これによって、生活や買い物の場にいる米国人に、直接リーチできる」と、バーネット氏はいう。また、このブランドは手頃な価格帯とアメリカ製であることを成長戦略として売りにしており、それが商品棚のスペースを勝ち取るために役立っている。「そして数カ月前に、当面のあいだは値上げしないとお客様に約束した」とバーネット氏は述べている。

未来の製造を守る

スナックブランドのパーテイクフーズ(Partake Foods)も、景気後退に備えて流通経路を広げている。そして今、さらに、サプライヤーとの長期的なパートナーシップも確立しようとしている。

2016年にクッキーのブランドとして創業した同社は昨年、スーパーマーケットチェーンのトレーダージョーズ(Trader Joe’s)で販売を開始した。創業者のデニス・ウッドワード氏は、今後の不況に備え、同社のアレルギーに配慮したレシピに「不可欠な主要原材料」を供給するサプライヤーと年間契約を結んだと語った。

パーテイクでは、ベーキングミックス、パンケーキミックス、ワッフルミックスなどの製品カテゴリーを追加するときに、ブランドの公約を果たせるよう製品開発と原材料調達に注意していると、ウッドワード氏は強調している。パーテイクの製品には、米国における8大アレルゲンである落花生、ナッツ、卵、小麦、乳、大豆、魚、甲殻類が含まれていない。「原材料は計画プロセスの大きな部分を占めるので、常に事前に考慮している」。

多くの創業者が将来の製造の強化を考えている。これは、自社の製品が必需品であることで「不況に強い」といわれているブランドにおいても同様だ。

粉ミルク不足が続くなか、大きく成長した乳児用調粉ミルクブランドのボビー(Bobbie)は8月22日、小児科医主導のイノベーションハブを発表した。この新しいベンチャー事業であるボビーラボ(BobbieLabs)は、ボビーがSKUを増やし、新しい流通チャネルを展開するのにあたり、FDAに準拠したオーガニック製品の開発を支援する。同ブランドは7月、全国のターゲットで販売を開始するが、同社によると、これは過去1年間にわたる計画だったという。

共同創業者でCEOのローラ・モディ氏は、全般的に乳児用粉ミルクは「不況に強い」と思われていると、米モダンリテールにメールで述べている。しかし、今年の粉ミルク不足は、このカテゴリーの革新と多様化に投資すべき時がきたことを示しているという。「危機は収まりつつあり、調査研究部門のボビーラボと協力して、科学的な研究と革新を推進し、近い将来に新製品を出せるだろうと楽しみにしている」とモディ氏はいう。

キャッシュフローを重視するブランド

「現金は王様(現金第一)」ということわざの通り、小規模なスタートアップがキャッシュフローの改善を第一に考えるのは驚くべきことではない。

消化器系健康サプリメントを販売するD2Cブランドのアリー(Arrae)は現在、特にキャッシュフローに注目しているブランドのひとつである。

アリーの共同創業者、ニッシュ・サマントレー氏は、現在のマクロ経済の状況を考えると、アリーには少なくとも12~16カ月のランウェイが必要だと述べている。これは主に、現状では資金調達が「かつてなく困難」であるためだという。D2Cの領域で顧客獲得コストが上昇しているだけでなく、全体的に資本の調達がかなり難しくなっていると、サマントレー氏は語る。

「金利の上昇が予想されるため、負債を確保するためのコストは上がり続ける」とサマントレー氏は述べている。そのため、同社は既存の借入先と交渉し、有利な金利を確保している。「メーカーにも、運転資金を確保してランウェイを可能な限り長くできるよう、支払い条件の優遇を依頼している」。

この景気後退のなかの光明として、サマントレー氏は、BNPL(後払い)サービスのような融資ツールのおかげで、顧客の支出額がまだ比較的堅調であることを挙げている。「引き続きコアプロダクトに集中し、リピート率、ウェブサイトのコンバージョン、キャッシュフロー管理など、事業のベースを改善する」とサマントレー氏は述べている。

「実のところ、今も楽観的で将来を楽しみにしている」とサマントレー氏は語り、この困難な時期において、さまざまなビジネスの強みが試されるだろうと付け加えた。同氏は「創業者は、この状況によって、より一層支出を統制せざるを得なくなった」と結論づけている。

[原文:How young brands are shoring up their businesses ahead of a potential recession]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Image via Partake Foods/Bobbie/Arrae

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