どうする沖縄政策、自民党の苦悩:台湾の次は沖縄と言いかねない中国

アゴラ 言論プラットフォーム

注目された沖縄知事選は現職の玉城デニー氏が大勝でした。玉城氏が34万票、自民公認の左喜真淳氏を27.5万票、自民敗北の一因とされた元衆議院議員、下地幹郎氏は5.4千票です。仮に左喜真氏と下地氏を足しても33万票弱ですのでいずれにせよ、玉城氏の得票数には追いつかなかったことになります。

玉城デニー氏SNSより

自民が敗北したもう一つの理由は旧統一教会問題や国葬問題が影を落としたということになっています。これは否定できない事実だと思います。現政権に対する支持率は最新の世論調査は朝日新聞がこの週末に行ったものですが、これによると前回の47%から41%に下落です。5月に59%の支持率でピークを付けた後、一貫して下げに転じています。世論調査は調査機関によるばらつきがあるもののトレンド分析に絞れば信ぴょう性があります。岸田政権に対する世論の反発は必ずしも沖縄だけではなく、日本各地に広がっていますが、この低落状況の中で玉城氏の勝利は想定通りだったといってよいのでしょう。

そもそも沖縄で自民党が勝てる素地があったのか、であります。沖縄保守派エースで前回も知事選を戦った左喜真氏は旧統一教会とずぶずぶの関係があった方で19年には台湾で開催された合同結婚式に参列しその画像をSNSで公開していたことが分かっています。自民党の地盤を揺るがすような旧統一教会問題に揺れる中、これでは自民党自身、左喜真氏を強くプッシュする状況にありません。いつもなら自民党幹部が大挙して応援演説に向かいますが、今回はあまり聞かれなかったと思います。

一方、玉城氏が盤石かといえば前回の39.7万票を取ったことを考えれば5.7万票も落としたことは玉城氏にとってはもろ手を挙げて喜べる状態でもないかもしれません。

沖縄はとても難しく、背景も複雑です。一筋縄にはいかないし、本土から見る沖縄と現地沖縄の人との政治、社会に関する考え方は水と油に近いところもあります。ましてやこのブログで短絡的な発言も許されるものでもないでしょう。米軍基地問題や辺野古移転問題だけを捉え、沖縄を保守派と革新派という簡単な括りで考えるべきではありません。本土や政権の力添えを得ながら沖縄をより経済社会文化的に発展させ、様々な社会問題を解決し繁栄ある沖縄にしたいと思う側と沖縄の自然と歴史ある文化をきちっと守り通し、異種である米軍を排除することで沖縄らしさを取り戻したいという側の政治的対立軸とは別にもう一つの沖縄が持つ社会土壌を無視できないと思います。

日本は島国として異種(=外国人)をなかなか受け入れない国家ですが沖縄は更に小さな自分たちの世界観を持ち、日本政府を異種としてなかなか受け入れないそんな構図ではないかと思います。もしも日本政府が黒船襲来の如く、沖縄に本土との一体化を強権をもって迫れば地元の人はより頑なになるでしょう。悪い言い方ですが、幕末から維新のドラマが現在進行形で起きていると例えれば理解しやすいのかもしれません。

沖縄の人にとって本土からの観光客はウェルカムなのです。お金を落としてくれるからです。これはコロナ前に日本全体が訪日外国人の急増で潤ったのとまったく同じですが、本土の人が沖縄に上から目線で強い影響を与えるのは勘弁ということです。

事実、沖縄ではいわゆるローカル新聞2社(琉球新報と沖縄タイムズ)に情報源が偏っており、ナショナルペーパーとされる主要新聞はホテルや観光客向けで地元の人はあまり見ないとされます。理由の一つは沖縄の地政学的な背景とかつては琉球王国という別の独立国として1879年まで存在していた自負でしょう。故に本土のニュースは遠い国の世界の話に映ると思います。

450年も続いた琉球王国時代には日本の影響もありましたが、中国との冊封関係もあったこともあり、一種の二股外交的なところがありました。これがかつて中国に「沖縄も中国の領土」と言わせしめた理由の一つであります。冊封関係とは中国において一種の上下関係であってそれが明治時代まで続いたこと、そして日清戦争で勝利したことで琉球処分という一種の併合に近い領有権の確定が行われた点に於いて中国としては「戦争で失った権利であって回復は可能」ぐらいに思っているはずです。

これは怖いのです。今、台湾問題が焦点の一つとなっていますが、中国がそれで図に乗れば次は沖縄と言いかねないのです。その点に於いて米軍が沖縄に駐留し、沖縄を守るという意味で基地がそこに存在しなくは困る理由は大いに存在します。かつて民主党の鳩山氏が「基地は県外に」といったのは全く持ってそのあたりの背景をすっ飛ばした「キチガイ論理」です。

もちろん沖縄が再び領土争いの場と化すことは誰も望んでいません。平和と安全を願う気持ちは沖縄の人も本土の人も同じです。ただ、怖いのは仮に中国が秋波を沖縄に送った際、県民投票で中国になびかないとは断言できないのです。それはあの戦争の恐怖心がまだ生々しく残っており、台湾問題が力による闘争となればなるほど沖縄は委縮するだろうと思うのです。

今、国内を統治するのはどの国も非常に苦心しています。旧ソ連、英国、スペイン、あるいは最近のアメリカだけではなく、地域統治に関する持論を訴えるボイスは拡大の一途です。もちろん、たやすい道のりではありません。では北海道はなぜ、そこまで問題が生じなかったのか、といえば本土との一体化が進んだ結果だと思います。それは政府というより民間主導の影響が大きく、あえて言うなら新幹線の開通で心理的結びつきは相当深まったと思います。残念ながら沖縄と本土は橋や構造物で結合することはできないのですが、ここは民間の力に依存しながら10年かけて心を心に橋を架けるプロジェクトを進めるしかないと思います。

自民党、ひいては政府が行う沖縄政策はアメとムチであって沖縄の人にはちっとも面白くないオファーではないかという気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月12日の記事より転載させていただきました。

タイトルとURLをコピーしました