メディアバイヤーが耳を疑った、 Netflix 広告付きプランの内容とは:「スーパーボウルの提示価格よりも高額だ」

DIGIDAY

米動画配信大手Netflixが、腕利きの二人組を雇い、今後のグローバル広告販売のあり方をチェックしてもらうという。Netflixのこの方針は、絶好――あるいは最悪――のタイミングで明らかになった。これで、ようやくメディアバイヤーは待ちに待った情報を入手できる。情報がなければ、新しい注目の事業に広告主の予算をいくら配分すればいいのか考えることさえできない。

しかしながら、米DIGIDAYが話を聞いたバイヤーらは、Netflixの一部要望に対して驚きを隠さなかった。匿名を条件に話してくれたところによると、CPMが65ドル(約8400円)で、米国最大スポーツイベント「スーパーボウル」の2021年のCPMよりも高いという。さらに第三者機関による測定がなく、成長の期待度も非常に低い。

とはいえ、少なくとも写真共有アプリSnapchatを開発・販売するスナップ(Snap)から、デジタルとストリーミングで名を馳せた役員2名を陣営に加えたので、たとえ両名に対するバイヤーの評価が低くても、対策は講じたといえる。ちなみに、その2名とはワールドワイド広告担当プレジデントのジェレミ・ゴーマン氏と広告営業担当バイスプレジデントのピーター・ネイラー氏だ。両者とも直ちに任務に就く。

何よりも驚いたのは、広告付きプランの新しいサブスクリプションの開始が想定よりも早いことだ。ローンチは11月1日に予定されている。

どうするマイクロソフト

マイクロソフトは、広告販売のパートナーとしてアドテク企業ザンダー(Xandr)を2022年7月に買収しているものの、これまでのところ質問に対して明解な回答を示すことができておらず、バイヤー側の苛立ちは止まらない。というのも、どこも広告主から、Netflixのコンテンツで広告を出すように依頼されているからだ。

あるバイヤーは、ゴーマン氏とネイラー氏を雇ったということは、ゆくゆくはNetflixが外部広告販売事業を引き継ぎ、マイクロソフト/ザンダーのチームは後方支援業務の開発担当に格下げされる可能性があるのではないかと見ている。

確かに、マイクロソフトの広告販売事業がどの程度のものなのかは詳細がほとんど明らかではなく、動画販売で一強になるとは考えられていない。「マイクロソフトのチームはNetflixの期待を裏切り続けている」とあるバイヤーは話す。「彼らは『Netflixからそんな指摘を……受けたことはないと思う』というが、そもそもそれほど販売に力を注いでいる組織ではない。だから、情報を共有しないチームが加わるのであれば、それはまさにもろ刃の剣状態だ」。

たとえば11月1日が近づき、バイヤーたちはすでにマイクロソフトが今後具体的にどのような役割を担うのかあれこれ考え始めている。アドサーバーの統合やNetflixのインベントリの利用、さらには、ザンダーの資産を有効(しかも独占)活用し、ウォールドガーデンの類が生まれるのか、といった話も聞かれる。

なかには、マイクロソフトの役割は後方支援に限定されるのではないかと考えるバイヤーもいる。「AppNexusの時代、ザンダーはまさにその役割を担っていた。他社用のプラットフォームを構築していたのだから」と説明する。「マイクロソフトは残された時間を使って、何とか自分たちが広告配信プラットフォームとして適切だとNetflixを説得しなければならない。今回の役員契約の件で、それが明らかになったと私は思う。実際、動画広告販売のトップを雇ったのはマイクロソフトではなくNetflixなのだから」。

Netflixのピッチ詳細

ゴールマン氏とネイラー氏はスナップで2年間ともに業務に携わり、同社のセールス分野ではすでにそれなりの影響をおよぼしてきた。バイヤーらがこの1カ月で、それまでマイクロソフト/ザンダーが答えてこなかった詳細情報をかき集められたのも、そのルートのおかげだ。それではここで、これまでに得た情報を紹介しよう。

  • 広告付きプランは2022年11月1日にローンチ(おそらく、ディズニーが12月に開始する動画配信サービス、ディズニープラス[Disney+]の広告付きプランに対抗するため)
  • 「2022年末までの登録者50万人」が経営陣の希望的観測(Netflixの登録総件数が2億2200万件であることを考えると、極めて控えめな数字)
  • 開始時、第三者測定機関はパートナーに含まれず
  • Netflixは方針を完全に転換。バイヤーに「広告主のコスト上限は2000万ドル(約26億円)」と伝える方針から、交渉可能な基準額として2000万ドルを設定する方針へ
  • 提示CPMは65ドル(約8400円)

それがCPMの価格? 今のこの市場で?

実績のないインベントリに対してCPMに65ドル(約8400円)――あるバイヤーによれば、この金額は昨年2021年に開催されたスーパーボウルの提示価格(ほぼ56ドル[約7300円])よりも高い。これにはさすがのバイヤーも驚いた。

また大手動画バイヤーは(オフレコが条件で回答)、現在のバラ売り市場はさまざまな理由で弱気なので、これほど高額な料金をふっかけるのはタイミングとしてよくないのではないかとも話している。

「残念ながら、わが社では大口の保留案件がかなりキャンセルされている。なかには、いくつか額の大きな案件もある」とバイヤー氏は話してくれた。「キャンセルの理由はそれぞれだ。経済的な理由もあれば、薬品発売の遅延が理由の場合もある。商品コストや事業の問題、なかには工場焼失という特異な事例も。どの広告主もそれぞれ独自の問題を抱えているようだ。経済的打撃が大きく数字に反映されるのは第4四半期だ」。

つまりそれは、第3四半期では、市場で取り扱われるインベントリが当初の想定よりも多くなるということで、そうなれば、結果的に価格はさらに下がる。パフォーマンスマーケターでさえ、バラ売り市場が軟調であると感じている――そう話すのは、独立系エージェンシーのマーカス・トーマス(Marcus Thomas)で最高メディア責任者を務めるラファエル・リビラ氏だ。

「当社のパフォーマンス系広告主の場合、2021年から2022年でCPMは平均4%の下落。しかし、先月2022年8月だけで見ると、コストの下落は11%になり、これではKPIが大きな影響を受けるのは容易に想像できる」とリビラ氏。「ブランド認知の向上を狙う同社の広告主の場合、2021年から2022年ではCPMが平均32%下落している。なお、2022年8月の下落は14%前後だ」。

だからといって、大々的に報じられたNetflixとマイクロソフトの歩みが止まることはなかった。米DIGIDAYでは以前、Netflixとマイクロソフトの経営陣が、プログラマティック広告の専門家をはじめとする、エージェンシーのキーパーソンを招いて「秘密」の会合を開催しているニュースを報道した。ゴーマン氏とネイラー氏、両氏の取組みは、依然としてバイヤー側が求める詳細情報をしっかりと提供するに至っておらず、特に今回の案件の自動化に関してはまだ回答が得られていない。

エージェンシーのある幹部は2022年8月中旬、広告業界にラブコールを送る今回のような行為を「混沌」と評している。どのような広告プレースメントが提供されるのか詳細情報が(たとえあったとしても)ほとんど提供されないからだ。

さらに、測定の第三者機関が少なくとも今回の新しい広告付きプランでは導入されないというニュースは、バイヤーからは歓迎されていない。彼らにしてみれば、魅力的な話であっても、基本的に何の保証もないインベントリを信じるわけにはいかないのだ。

市場は変化している

あるバイヤーが、ゴーマン氏とネイラー氏の両名が加わったところで何の役にも立たない、彼らはこの2年間、プレミアム動画広告販売市場の現場におらず、その間、市場を取り巻く状況は大きく変化してきたのだから、と指摘している。とはいえ、両名とも、スナップ在籍期間にはすばらしい業績を残している。たとえばネイラー氏は、スナップ在籍中、動画配信サービスのHuluをバイヤーや広告主に売り込んだ実績が広く評価されている。

とはいえ重要なのは、バイヤーの懸念をよそに、広告主がNetflixに広告を出したがっている点だ。「なるようになる」と楽観的に話すバイヤーもいる。いったん市場にでれば、Netflixはきっと価格に関して柔軟に対応するはずだというのだ。

「Netflixに広告を出したいと考えている」とそのバイヤーはさらに話す。「もっと妥当な数字を出してくれていれば、すべてがうまくいったはずなのに。いずれにせよ、このままではどうにもならない」。

[原文:Finally, some details on Netflix’s ad-supported offering — but buyers are stunned at what they’re hearing

Michael Bürgi & Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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