「つくる」人たちがユルく集う隠れ家 ~ 浅草橋「技研ベース」【甲斐祐樹の Work From ____ :第12回】

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 「技研ベース」は、東京都台東区の浅草橋駅から徒歩1分の場所にあるコワーキングスペース。2019年9月にオープンし、9月11日で3周年を迎える。

JR浅草橋駅西口から徒歩1分の「技研ベース」。写真はランチタイムのもので、「カリー・ギーク 技研ベース支店」が営業中

オフィスの飲み会から生まれた技研ベース

 技研ベースの誕生は、運営者である渡邉昇氏が以前のオフィスで開催していた飲み会に端を発する。当時のオフィスでは、渡邉氏が所属するコミュニティ「Tokyo Motion Control Network」の仲間と起業した「株式会社 for Our Kids」の定例打ち合わせを毎週水曜日に開催していた。

技研ベースを運営する渡邉氏(右)と、カリー・ギークの佐藤氏(左)

 定例打ち合わせ後にオフィスで飲み会をしていると、Tokyo Motion Control Networkなど、ものづくりを楽しむ知り合いが集まるようになっており、回を重ねるごとに「打ち合わせよりも飲み会がメインになってきた」(渡邉氏)。毎週水曜夜の飲み会参加に対して制限はなく、気軽に参加できるため次第に参加者が増え、オフィスが手狭になってきていたことに加えて「周囲から近所迷惑と怒られていたので、いっそのことみんなが集まれる場所を作ろうと考えた」という。

 こうして渡邉氏は、新たなコミュニティの拠点となる「技研ベース」を作るためのクラウドファンディングをCAMPFIREで実施し、当初目標額の30万円に対して4倍以上となる約123万円を集めて目標を達成。技研ベースの内装デザインは、兄弟で空間デザインを手掛ける「岩沢兄弟」がプロデュース。内装は支援者によるDIYで行い、有志の支援も受けて、2019年9月11日に技研ベースがオープンした。

床や壁の塗装、電気工事や机と椅子作りまでコミュニティが実施

 技研ベースの運営は渡邉氏の「合同会社ワタナベ技研」が行うが、渡邉氏自身は株式会社 for Our Kidsとして入居するという利用者の1人でもある。技研ベースはコミュニティのメンバーが集まる場所として設立した場所であり、自分だけのオフィスとして使うには大きすぎる、というのがその理由だという。

意識高い話はご遠慮。「ユルく集う」がモットー

 コミュニティから生まれた技研ベースのこだわりは、「ユルく集う」こと。毎週水曜日に開催する「水曜サロン」は、会員以外も参加できるオープンなイベントである一方、「名刺交換の禁止」「意識高い話はご遠慮」というルールが定められており、組織や肩書きではない個人で参加する場所として位置付けられている。

酒やつまみを持ち寄り、技術や趣味の話で盛り上がる

 渡邉氏は、技研ベースを「水曜サロンのようなイベントのために運営している」場所だという。コワーキングスペースという位置付けではあるものの、主たる目的は水曜サロンを開催するための場所であり、空いた時間にコワーキングスペースを運営している、というのが実情だ。

 運営者がコミュニティの交流や活動を支援するのではなく、入居者や参加者が自発的に交流するのが技研ベース流。こうしたコミュニティ中心の運営によって入居者や利用者も順調に増加。また、入居者やイベントの利用者の出会いから採用や仕事が生まれることもあるという。「開発に関する人や会社を探しマッチングすることは以前からあったが、最近ではエンジニアが技研ベースで出会った会社に転職したり、技研ベースに来ているフリーランスでチームを組んで案件を受けたりという事例も増えている」(渡邉氏)。

利用者主催のイベントでさらに広がるコミュニティ

 技研ベースを利用したイベントは水曜サロン以外も活発に行なわれており、中でも最近活発なのが、AI研究者である清水亮氏が開催する「技研バー」。金曜夜と土曜の夕方から清水氏がバーテンダーとして店に立ち、酒や食べ物を振る舞うほか、フリーマーケットや流しそうめんといったイベントも開催している。

週末に開催されている「技研バー」は清水氏がバーテンダーを務める

 「水曜サロンに参加していたら面白くていつのまにか入居していた」と語る清水氏も、技研ベースのコミュニティに魅せられた1人だ。「平日の昼間は他の会社のCTOやCEOといったCが付くような人が普通に働いて、そんな人たちと隣で働ける環境は面白い」と技研ベースの魅力を語る。

 最近では清水氏が開催する技研バーをきっかけに技研ベースを訪問する人も増えているという。「居酒屋でお客さん同志が仲良くなることはあるけれど、同じ業界の言葉が通じる人とバーで知り合って話すという体験はなかなかない。そんなエンジニアやスタートアップが集まって新しいことが生まれる技研ベースがすごく面白いし、それにハマって毎週来る人もいるのでやってよかったなと思っている」。

南房総に新たな場所を準備中。「エンジニアのフォースプレイスに」

 今後の展開として渡邉氏が考えているのが、南房総の千倉町で準備を進めている新たな拠点だ。海に近い里山の高台で、眼下に畑や海が見える一軒家を購入し、食とエネルギーの自給自足にユルく楽しみながら挑戦するという。

 IoT機器やロボットを導入し、野菜を育て収穫したり、ピザ釜を自作し収穫した野菜を使いピザ作りなど体験できる場所を準備中だという。技研ベースのような毎日・毎週訪れるスペースではなく、数カ月に一度、会員が家族なども連れて泊まりがけで訪れるような利用形態をイメージしている。

準備中の新拠点から見える景色

 新たな拠点を考えたきっかけは、技研ベースの店先で育てていた野菜たち。「技研ベースの外でししとうや落花生を育て収穫、みんなで食べるという自給自足的なことをしていたらとても幸せで、それを定常的にできないかと考えた」(渡邉氏)。

 渡邉氏は「技研ベースがエンジニアにとってのサードプレイスなら、(現在準備中の)千倉はその先の『フォースプレイス』のようなものだと考えている」と新拠点のコンセプトを語り、「IT系エンジニアが泥にまみれて野菜を作り、その作った野菜を食べながら美味しい酒を飲む。夕焼けの海を見ながらこれができれば最高に幸せ。そういうことをやるのにとてもいい場所が見つかった」と期待を寄せた。

この連載について

ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。連載「甲斐祐樹の Work From ____」では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。

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