世界経済は物価高を乗り越えられるのか:日本も蚊帳の外ではない

アゴラ 言論プラットフォーム

9月8日の欧州中央銀行政策会議での利上げ幅が注目されています。0.5% VS 0.75%です。仮に0.75%の引き上げとなれば過去最高の上げ幅となりますが、経済が不振になっている今、景気への打撃も大きいとされます。「諸刃の刃」であり、ラガルド総裁の苦渋の選択、そして市場がそれをどう受け止めるのか注目されます。特に為替市場に於いてユーロがドルに対してこの1年で2割ほど安くなっており、現在は0.9900の攻防ともいわれています。ユーロ安を防ぐには0.75%の利上げは必須です。

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もう一つの切り口はガス供給の安定化です。ロシアのガスプロム社が再度供給を一時止めると通告しています。こじ付け理由のようなものですが、このような形で安定供給がなされないとなれば今年の冬の不安は一層高まることになります。北アフリカから南欧ルートでの新たなガス供給ルートの開発も進むようですが、今年の冬に間に合うような代物ではありません。よって天然ガスの価格は史上最高値水準を当面維持するか上昇のバイアスがかかります。

同じ資源でも原油は一旦ピーク打ちとなり、現在90㌦前後と3割ほど下がった水準になっています。それを受けてOPECプラスが昨日決定したのは10月の減産です。9月分の増産は中東訪問をしたバイデン大統領への敬意とギフトでしたが、10月分は8月水準にほぼ戻すというものです。理由は経済の先行きが不透明になり、原油需要も落ちる可能性があるうえ、仮にイラン産の原油が出回れば供給過多になりかねないというものです。OPECプラスとしては現状の相場を維持したいという意思がアリアリと見て取れます。

この違いは何か、といえばより市民生活に密着している天然ガスと経済活動全般に影響する原油の違いが如実に表れているということです。これをどう消化するかは欧州中央銀行の胸中を察するしかないですが、仮に欧州が過去に例がない幅の利上げを行えばコントロールの効かないガス価格の高騰に対して経済活動をより減速させることになり、リセッションは免れなくなります。

一方、英国のトラス新首相は減税をすぐに打ち出す、としています。物価高が10%を超えた英国に於いて広く一般庶民の日常生活を支えるには減税の方が直接的効果は高いですが、何をどう減税するのか次第では市民がその果実をいつ手にできるのかわからないという問題が生じるでしょう。

アメリカ、サンフランシスコあたりではリモートワークが進んだ結果、街中の飲食店の経営が厳しく、特に月曜日と金曜日が不振であると報じられています。普通、金曜日は飲食店にとって書き入れ時でしたが、リモートワークの出勤日の多くが火曜から木曜に集中するため、とあります。アメリカではホスピタリティ系のビジネスは人手不足と報じられていますが、それは忙しすぎて回らないというのではなく、店を維持するためのスタッフが足りないのが本音のところもありそうで、これがもう一歩進めば閉店という選択肢は当然出てくると思います。

あくまでも肌感覚ですが、コロナからの解放に浸った夏が終わり、急速に現実に引き戻されているというのが正直なところです。スーパーでもあれっと思うほど価格が上がっているのは肉やサラダ油だけではありません。野菜や魚もモノによっては不作、不漁という訳でもないのに2倍程度になっているものも多く、便乗値上げと思われるケースもあります。

日本も蚊帳の外ではありません。これだけ円安が進めば輸入原料の価格は大きく跳ね上がっているものの企業努力と低金利で持ちこたえているというのが真相でしょう。ところが日銀の低金利政策の主軸であるイールドカーブコントロールという防波堤も時折波がそこを超える状態にあります。長期金利を0.25%までに抑えるという堤防に対して市場が算出する妥当な長期金利は0.6%を超える水準とされます。

今、恐れられているのはこの堤防が崩れる時、あるいは堤防の水門を開くときがくるのではないか、という点です。その場合、国債は暴落(金利は上昇)となり、金融市場は混乱を引き起こし、国債運用をする金融機関や住宅ローン金利などあらゆる方面が瞬く間に浸水することになります。これは避けたいというのが黒田日銀総裁の強い意志でありますが、地球の中で日本だけが違う世界にいるということ自体がおかしいわけで時代の変化を見て取りながら巧みな操作を期待したいところです。

他に中国の経済不振を含め、地球全体ではポストコロナの新常態に世の中がまだ対応しきれていない中で資源高、人件費高、物価高、金利高…と歪が起きているとみています。世界の中央銀行も利上げ一本の欧米に対して日中の低金利政策の維持という違いも見て取れます。答えを求めて模索するというのが妥当な表現なのでしょうか?先読みがしにくいというのが正直なところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月6日の記事より転載させていただきました。

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