マウスに薬物を投与する人の「性別」が実験結果に影響していることが判明

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研究者は何かしらの実験を行う際、調べたいこと以外の要因が実験結果に影響しないよう慎重に実験手法を検討していますが、時には予期せぬ要因で結果が左右されてしまうことがあります。新たにアメリカ・メリーランド大学の研究チームは、「マウスに薬物を投与する人の『性別』が実験結果に影響していた」ことを発見しました。

Experimenters’ sex modulates mouse behaviors and neural responses to ketamine via corticotropin releasing factor | Nature Neuroscience
https://dx.doi.org/10.1038/s41593-022-01146-x

2022 News – Effects of Drugs in Mice can Depend on the Sex of the Human Experimenter | University of Maryland School of Medicine
https://www.medschool.umaryland.edu/news/2022/Effects-of-Drugs-in-Mice-can-Depend-on-the-Sex-of-the-Human-Experimenter.html

Scientists Discover That a Surprising Factor Improved The Effects of Ketamine in Mice : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-discover-that-a-surprising-factor-improved-the-effects-of-ketamine-in-mice

メリーランド大学医学部の精神医学教授であるTodd Gould氏の研究チームは、即効性の抗うつ薬として注目されているケタミンの動物実験を行った際、「マウスにケタミンを投与したのが男性の実験者だった場合は治療効果が一貫して現れるが、女性の場合はうまく効果が現れないことがある」という奇妙な現象を発見しました。研究チームは実験者の性別が実験結果に影響する現象について、その他の研究所にも問い合わせてみたものの、この現象を体系的に文書化している研究チームはなかったとのこと。


そこで研究チームは、一体なぜケタミンを投与する実験者の性別が結果に影響を及ぼすのかについて調査しました。まず、男性と女性の「匂い」に着目してマウスのストレステストを行ったところ、マウスは男性の匂いよりも女性の匂いを好むことが判明。また、男性実験者の匂いが染みついた衣服の存在が、マウスに不安・痛み・うつ病の兆候を引き起こすことが明らかになりました。Gould氏は、「マウスの嗅覚とフェロモンに対する感受性は人間と比べて鋭いため、男性を含む多くの匂いに対し、女性と異なる反応を示すことは驚きではありません」と述べています。

次に、研究チームは男性と女性の実験者を均等に混合した盲検無作為化試験を行い、やはり実験者が男性の場合はケタミンの抗うつ作用が強く、女性の場合は弱くなることを確認しました。また、ケタミンとは異なるタイプの抗うつ薬であるデシプラミンは実験者の性別で効果が変わらず、投与する方法を変えても結果に影響はなかったとのこと。実験者の性別がケタミンの性質そのものを変えることはないので、一連の結果は「マウスの体内でケタミンがどのように働くか」に関わるものだと研究チームは考えました。

マウスにおけるケタミンの作用に影響する可能性がある複数の要因について調査したところ、研究チームは副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)ニューロンの活性化が、実験者の性別がケタミンの効果を左右する原因であることを突き止めました。女性の実験者が、ケタミンと一緒にCRFをマウスに投与したところ、男性の実験者と同様にケタミンの治療効果が現れたと報告されています。

2014年の研究では、実験室内のマウスやラットは男性研究者の存在にストレスを感じ、ストレス反応性の鎮痛効果が誘発されることがわかっています。今回の研究結果も、男性実験者の匂いがマウスにストレスを与えてCRFニューロンおよびCRF回路を活性化し、ストレス応答を高めることでケタミンの作用がより強くなることを示唆するものです。


今回の研究は、動物実験の結果を左右する隠れた要因を明らかにするだけではなく、実際にケタミンを用いた治療に応用できる可能性があります。Gould氏は、「マウスで得られた知見から、脳内の特定のストレス回路を活性化することが、ケタミン治療を改善する可能性が示唆されました」とコメント。ケタミンと脳領域の活性化を組み合わせることで、強力な抗うつ効果を得られるかもしれないと主張しています。

また、論文の筆頭著者であるPolymnia Georgiou氏は、「CRFの量が多い人もいれば少ない人もいますが、ケタミンを用いた抗うつ治療にうまく反応しない人でも、ケタミンの効果を誘発するようなCRFに関連する化学物質を投与できれば、効果が出るかもしれないと考えています。あるいは、通常ケタミンの抗うつ効果は1~3日程度しか持続しませんが、CRFを投与することで効果をより長く持続させられるかもしれません」と述べました。

これに対し、科学系メディアのScience Alertは、動物を使用した実験結果の多くは人間に適用できないため、人間でもケタミンとCRFの関連を確かめる実験が必要だと指摘しています。

なお、Georgiou氏らは、実験者の性別は動物実験の結果をゆがめる唯一の要因ではなく、ケージの状態・全体的なストレス・概日リズム・実験者の食事といった要因も実験結果に影響すると警告しました。

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