サードパーティCookie なしのターゲティング時代に備えるには:3つのソリューションの現状を読み解く

DIGIDAY

サードパーティCookieなしのオンライン広告時代にどう備えるべきか――この難問の答えはまだ出ていない。Googleのおかげで、ChromeブラウザでのサードパーティCookieサポート終了時期の見通しが立たないという事実にその一因がある。

Googleが2022年7月に発表したサードパーティCookieサポート終了の再延期は、業界に時間の猶予を与えたというより混乱をもたらした。Cookieを使わないオーディエンスターゲティングという課題に直面するマーケターたちにとってはなおさらだ。広告配信におけるCookie代替技術の開発で、競争は今後ますます激化すると予想される。

Cookie代替とひと口に言ってもさまざまで、多くのベンダーが技術開発に取り組んでいるが、オーディエンスターゲティング目的のソリューションはおおまかにいって次の3種類に分けられる。

ワントゥワン識別子

Cookie代替としてまず「ワントゥワン識別子(One-to-one identifiers)」があげられるが、このカテゴリーに分類されるのは、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)が開発したUnified ID 2.0や、ライブランプ(LiveRamp)、ID5といった企業が提唱するIDソリューションだ。プライバシー保護規則に準拠する形でサードパーティCookieと同等の機能を実現しようとするもので、たとえば、メールアドレスをもとに作成されるIDのデータ変換にハッシュ化または暗号化を用いた代替ソリューションが含まれる。

これらのソリューションの主な課題はセキュリティ(復号化や符号体系)ではなく、利用者の同意にある。たとえばUnified ID 2.0の場合、広告IDとして運用するには、パブリッシャー各社に実装されたターゲティング/プロファイリング用システムにメールアドレスを送信する機能の連携ができていることが前提だ。とくにヨーロッパでは、同意取得のための複雑な仕組みが必須で、離脱率などのインサイトが入手できるユーザーポータル等の整備も検討しなくてはならない。加えて、パブリッシャー側も各購読者からID導入の同意を得る必要があるが、サイトへのログインについてすべての購読者を納得させるほどの影響力をもつパブリッシャーはそう多くない。

アドテクベンダーの多くがこれらの要件を満たせる可能性はあると考えており、Cookie代替技術の開発とマーケティングに多額の資金を投入しつづけている。たとえばDSP大手のメディアマス(MediaMath)は8月23日、自社プラットフォームで利用可能なIDとして、長年のライバルであるザ・トレード・デスクが開発したUnified ID 2.0を新たに追加したと発表した。ただしいまのところ、この代替ソリューションの採用企業数はまだ十分とはいえない状態だ。

「当社のプラットフォームは、すでにライブランプ、ID5、パラブル(Parrable)、ロテーム(Lotame)、ライブインテント(LiveIntent)ほか、多くのIDソリューションに対応している」と、メディアマスの最高パートナーシップ責任者、シルヴァン・ルボルニュ氏は語る。「クライアントがターゲットとする市場やデータセット、キャンペーンの目標に応じて、最適なソリューションの提供を目指す当社としては、Unified ID 2.0をサポート対象に加えることは理にかなった決断だった。有意の測定指標や分析結果のデータを抽出するには、Unified ID 2.0を採用するパブリッシャーの増加が鍵となる。世帯を対象とした広告効果測定など、克服すべき課題はあるが、ザ・トレード・デスクがそれらの課題にどう対処するか、今後の展開に期待している」。

デバイス・マネージド・オーディエンス

次に、「デバイス・マネージド・オーディエンス(Device-managed audiences)」。このカテゴリーに属するのはGoogleが提唱するTopicsやFLEDGEのように、ウェブブラウザのAPIを通じてデータをやりとりするツールだ。たとえばFLEDGEでは、ユーザーが広告主のサイトにアクセスすると、広告主が定義したインタレストグループがユーザーのブラウザに関連づけられる。インタレストグループをコントロールするのは広告主でもアドテクベンダーでもなく、ユーザーが使うデバイスのブラウザで、この仕組みがリマーケティングを可能にする。同様の設計思想で開発されたTopicsは、Chromeブラウザの閲覧履歴をもとにユーザーの興味・関心事にかかわるデータを自動収集し、ほかの広告事業会社と共有するが、関連のプロセスはプライバシー保護に配慮している。

まとめると、この種のソリューションは前提として、ターゲティングと計測の機能をブラウザ側に移管する。その方法だと扱うデータ量が少なくてすみ、プロセスが統制管理され、結果としてデータ共有に制限をかけられる――少なくとも理論的にはそうだ。いつものように、細かいところに目に見えない落とし穴がひそんでいるかもしれないが。

ひとつ明らかなのは、現在テストが進行中のFLEDGE最新版では、Googleが主導権を握って取り組みを進めていることで、それ自体は特に驚きではない。しかし、この状態を打開しないかぎり、最終的なソリューションへの歩みは遅れるだろう。実際、FLEDGEのトライアルに参加していないSSPも数多く存在し、なぜそういう状況になったか、理由は想像するに難くない。

問題は、FLEDGEなどのソリューションに対して皮肉な見方をする業界関係者が多いことで、その認識は簡単に変わりそうにない。なぜなら、関係者からすれば、Googleがこう言っているかのように感じられるからだ。「もし御社がコンテクスチュアルターゲティングと広範囲のオーディエンスセグメントに注力してくれるなら、我が社が有する豊富な広告在庫をご紹介するし、当社の既存のシステム、たとえば『品質スコア』なども活用できますよ。ただし、データの詳細度は低いですがね」。広告枠を買いつけるチャンスを逃す不安にかられたマーケターたちは、Googleが提供するデータであれば何でも受け入れるしかない。

セラー・ディファインド・オーディエンス

最後に、「セラー・ディファインド・オーディエンス(Seller Defined Audiences:以下、SDA)」。広告の売り手であるパブリッシャーの主張はこんなふうだ。「マーケターさん、あなたはサードパーティだからこのユーザー属性データは取得できませんよ。ファーストパーティである我々が取得できるデータがこれです」。マーケターはそのユーザー属性を広告入札の設定に反映させ、オーディエンスターゲティングに利用できる。

現在、SDAは小規模なテスト運用が始まったばかりで、参加企業からの具体的なフィードバックはまだ十分に得られていない。ただし、多大なコストと労力を要する取り組みであるにもかかわらず、SDAに対するパブリッシャーの期待値は高い。オーディエンスデータのバンドル販売で主導権を握れる大きなチャンスとして有望視するのも当然だろう。

すでにおわかりのように、ここに紹介したCookie代替ソリューションは、それぞれに利点と難点がある。もちろん、3種類の技術すべてが受け入れられ、共存するシナリオもあるかもしれないが、どの企業も、自社が支持するソリューションの採用が進むことを望んでいるのは間違いない。たとえばSSPの場合、SDAに思い入れがあるのは明らかで、目標達成の一手段として、さまざまな状況で活用の機会を追求するだろう。

その目標とは、広告業界で生き残ることだ。SSPの経営陣がいま思い描く自社の将来像は、データクリーンルーム的な存在だといわれる。つまり、マーケターやパブリッシャーが自社データを匿名でアップロードするプラットフォームを運営し、広告主にとって魅力的なオーディエンス識別を目指すわけだ。ビッドリクエストにオーディエンスデータが含まれる場合、パブリッシャーはユーザーを特定できる個人情報を開示する必要はなく、DSP側に「このユーザーは、当該マーケターにとって価値が高いオーディエンスである」というシグナルを送信し、それによりDSPが入札の判断をする。こういった流れになれば、SSPは多数のアドテクベンダーとの競合を避けることができる。ベンダーが事実上、単なるワークフローのツールに成り下がってしまうからだ。

「主流になりそうな手法は見えている」

ほかの代替ソリューションの場合も同様に、生き残りをかけた巧妙な作戦が繰り広げられている。というわけで、マーケターたちはけっきょく、自社の事業にとって正しい選択をするという難題に日々、立ち向かわなければならない。

「いま、マーケターが信奉すべきは『試してみて学ぶ』手法だ。信頼のおけるパートナーと組んで、自社の業務要件を満たすソリューションやアプローチを見きわめる必要がある」と語るのは、メディア代理店のザ・セブンスターズ(the7stars)でテック&アクティベーション部門長を務めるリース・ウィリアムズ氏だ。

「とくに抜きん出た技術はどれかというと選ぶのが難しいが、プライバシー重視型マーケティングの長期的展望において主流になりそうな手法はいくつか見えてきており、データクリーンルーム、アイデンティティグラフ、コホート作成などがあげられる。マーケターはこれらの手法を、2022年第4四半期、2023年を視野に入れたロードマップに組み入れるべきだろう」。

[原文:Making sense of targeting without third-party cookies

Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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