大量のアプリやウェブサイトに子どもの保護を義務づける法案が可決され「ネットユーザーの顔スキャン」が加速する危険性

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近年はSNSやゲームプラットフォームなどが子どもたちに及ぼす害が懸念されており、企業に未成年者の保護を求める動きが進んでいます。2022年8月29日にアメリカ・カリフォルニア州議会で可決された「California Age Appropriate Design Code Act(カリフォルニア年齢適正デザインコード法/AB-2273)」は、「18歳未満の子どもがアクセスする可能性が高い」すべてのウェブサイトやアプリを対象にしていることから、大人のユーザーに対しても顔スキャンなどの年齢認証システムが導入される危険性があると指摘されています。

Sweeping Children’s Online Safety Bill Is Passed in California – The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/08/30/business/california-children-online-safety.html

Age Verification Providers Say Don’t Worry About California Design Code; You’ll Just Have To Scan Your Face For Every Website You Visit | Techdirt
https://www.techdirt.com/2022/08/29/age-verification-providers-say-dont-worry-about-california-design-code-youll-just-have-to-scan-your-face-for-every-website-you-visit/

現代では先進国に住む子どもたちの多くが自分のスマートフォンを持っており、SNSやゲームプラットフォームで大人に混ざって写真や動画を投稿したり、ゲームで遊んだりしています。しかし、子どもたちが過剰にアプリへのめり込んでしまったり、悪意を持った大人が子どもたちに接触したりする危険性も指摘されていることから、YouTubeInstagramTikTokなどは相次いで子どもを保護する措置を講じています。

そんな中、カリフォルニア州議会では連邦法より厳格な子どもの保護を義務づける「カリフォルニア年齢適正デザインコード法」が提出され、2022年8月29日に賛成33:反対0で上院議会を通過しました。すでに下院議会は通過していることから、残るはギャビン・ニューサム知事による承認を残すだけという状況です。

デザインコード法が対象にしている年齢層は「18歳未満の子ども」と幅広く、子どもや若者向けのアプリやオンラインサービスに限らず「子どもがアクセスする可能性が高い」すべてのアプリやウェブサイトに適用されます。大手日刊紙のニューヨーク・タイムズはデザインコード法について、「自動車産業と同様の基本的な安全基準をオンラインサービスに課すことを目的としたもので、アプリやウェブサイトは若年層ユーザー向けに、シートベルトやエアバッグに相当するデジタル保護を設置するよう求めています」と指摘しています。

テクノロジー業界からはデザインコード法があまりにも広範なアプリやウェブサイトを対象にしており、必要性を超えた範囲で影響を及ぼすことを懸念する声が上がっています。SNSやゲームプラットフォームだけでなく、オンラインに接続するおもちゃ、音声で起動するデジタルアシスタント、VRアプリといったものまで適用される可能性があるほか、学校向けの教育ポータルであるGoogle Classroomにも影響を及ぼすとのこと。また、デザインコード法はカリフォルニア州の法案ではあるものの、州内だけでなくアメリカ全土における変更をもたらす可能性があるそうです。

デザインコード法について、Amazon・Apple・Google・Oracle・Metaなどが加入するハイテク業界団体のTechNetやカリフォルニア商工会議所は、カリフォルニア州議会に対し「子ども」の定義を18歳未満から16歳未満まで引き下げるよう圧力をかけました。また、法案があまりに広範囲に適用されることに懸念を示したほか、規定が曖昧なことから実行が難しいことも主張。TechNetとカリフォルニア商工会議所は2022年4月に議員に宛てた書簡で、「企業が子どもの「最善の利益」を考慮するという要件は、非常に解釈が難しいものです」と訴えています。


さらに、プライバシー専門家からは「デザインコード法が消費者のプライバシー侵害につながる恐れがある」という声も上がっています。デジタル権利団体である電子フロンティア財団は4月の書簡で、「このようなシステムは、プラットフォームがすべての人に対する精巧な年齢認証システムを設定することにつながる可能性が高く、すべてのユーザーが個人データを提出し、企業によるさらなる監視に服従しなければならないことを意味します」と述べました。

テクノロジー系メディア・TechdirtのライターであるMike Masnick氏は、デザインコード法について懸念を示す記事を投稿したところ、Age Verification Providers Association(年齢認証プロバイダー協会)からのコメントが寄せられたと述べています。年齢認証プロバイダー協会はコメントの中で、「年齢認証プロバイダーはあなたの個人データにアクセスする必要はまったくないかもしれません」と述べていますが、Masnick氏は「ないかもしれない(may not)」という発言は「しない(will not/does not)」とはまったく異なる言葉だと指摘し、プロバイダーが個人データにアクセスする可能性があるのは問題だと主張しています。

また、年齢認証プロバイダー協会は顔スキャンに基づく年齢推定システムを導入する可能性を示唆しており、「リスクの高い事例では、年齢チェックにおいてユーザーが数枚の自撮り写真を撮ったり、プロバイダーが要求するフレーズを言う短いビデオを録画したりする必要があります」「リスクの低い事例では、3カ月に1度のチェックで済むかもしれません。リスクの高い状況では、買い物をするたびにダブルチェックが要求されるかもしれません」と説明しています。これに対してMasnick氏は、「ネットサーフィンのために顔スキャンが必要だという考えはクレイジーで、それが子どもたちにどのように役立つのか全くわかりません」「これは、ウェブカメラの搭載されているPCでしかウェブサイトを閲覧できないことを意味していますか?公共図書館やインターネットカフェは、すべての機械にカメラを装備する必要があるのですか?」と述べました。

加えてMasnick氏は、2021年に相次いだ「顔認証システムに失敗した失業者が雇用保険を受け取れなくなってしまった」という事例を挙げ、そもそも顔認証システムの精度がそれほど高くないことも問題視しています。

顔認証システムにより多数の失業者が失業手当をもらえない事態が発生している – GIGAZINE


影響を受けるのはSNSや特定のソーシャルプラットフォームに限らず、ニューヨーク・タイムズを含むウェブ版を展開する出版社やニュースメディアも影響を受けます。業界団体のNews/Media Allianceも、法案によって新聞や雑誌が「年齢確認システムの実装」や「年齢に応じた複数バージョンの記事作成」を迫られる可能性があるとして、内容の変更を求めるロビー活動を行っているとのこと。

また、特に根本的な問題かもしれないのが、デザインコード法の「最初から害を及ぼさないようにする」という基本姿勢です。この姿勢はシリコンバレーにおける「まずは作って、それから問題に対処する」というスタートアップ精神と反するものであり、アメリカのハイテク産業を抑制しかねないとニューヨーク・タイムズは指摘しています。

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