ヒット作ひしめく ストリーミング 市場で、新番組を売り込む方法:「多くのネットワークが膨大な数の在庫と格闘している」

DIGIDAY

競争の激しいストリーミング市場では、人気番組の新シーズンが発表されたために、知名度の低い新番組が失敗に終わってしまうことがある。

新しい番組の影が薄くなり、視聴者にその存在をまったく気づいてもらえなくなるからだ。ストリーミングプラットフォームでは、新番組を売り込むにあたってこのことが大きな問題となっている。

「多くのネットワークが膨大な数の在庫と格闘しているに違いない」

CTV広告の増加が示しているように、TV視聴はCTVに大きくシフトしている。IAB(インタラクティブ広告協議会)のレポート「2021 Video Ad Spend and 2022 Outlook(2021年度の動画広告費および2022年度の展望)」によれば、CTVの広告費は2021年に前年比57%増の152億ドル(約2兆210億円)に達しており、2022年にはさらに212億ドル(約2兆8190億円)に拡大する見込みだ。 つまり、この2年間でCTV広告費は118%増えることになる。

だが、大半の視聴者が実際にどのような番組に関心を寄せているのかを広告業界が把握できるのは、まだ先の話になりそうだ。たとえば、ストリーミングプラットフォームやTV放送サービスには、十分な注目を集められず、評論家にも視聴者にも見過ごされている番組がたくさんあると、オンラインマガジン「インバース(Inverse)」のエンターテインメント部門の記者で、エンターテインメント業界紙「バラエティー(Variety)」に定期的に寄稿しているモニカ・マリー・ゾリラ氏はいう。

「TVでTV番組シリーズを売り込むときのようにストリーミング番組を売り込んでも、あまり効果がないと私は考えている。5年前はこのやり方が理にかなっていたが、今はあらゆるメディアネットワークが独自のストリーミングプラットフォームを所有している」と、ゾリラ氏は語った。

音楽専門のケーブルTVネットワークであるリボルト(Revolt)のCEO、デタビオ・サミュエルズ氏は、「多くのネットワークが膨大な数の在庫と格闘しているに違いない」と話す。「すべてのタイトルに等しく注ぎ込めるほどの予算はないからだ」。

コンテンツの世界では量がすべて

一方、TV番組の売り込みは最適化が進んでおり、効果がなくなったわけではないというのは、BENグループ(BEN Group)で最高プロダクトプレイスメント責任者を務めるエリン・シュミット氏だ。

「Netflixは、大ヒット作品を利用して視聴者を惹きつけるアルゴリズムを確立しており、このテクノロジーを使って視聴者の共感を呼べるものと呼べないものを見極められるようにしている」と、シュミット氏はいう。マーケティングはかつて、TVネットワークの予算が最も多く割り当てられる分野のひとつだったが、ストリーミングの世界ではそうではない。

「今のストリーミング時代において間違いなくいえることは、コンテンツの世界では量がすべてだということだ。このような傾向は、Netflix、Hulu(フールー)、Amazon Primeなどのストリーミング大手で以前から見られる。彼らは新しいオリジナル番組を絶えず追加しており、こうした動きがディズニープラス(Disney+)やHBOマックス(HBO Max)といった有料TVネットワークに引き継がれている」と、サミュエルズ氏は指摘する。

「どの番組も質が高く、視聴者が好む内容かもしれないが、積極的に売り込んでそれに見合うだけの視聴者を集められるほどの予算はおそらくない」。

「見るべき」だが「見られていない」番組たち

また、ストリーミングプラットフォームのコンテンツが飽和状態になり、マーケティング戦略によっては番組の効果的な宣伝が難しくなっている可能性を考えることも重要だ。「結果として、デジタルの世界は飽和状態になり、生き残りをかけて、より競争力のある業界になっている」と、シュミット氏はいう。

たとえば、ストリーミングの世界では新参者のディズニープラスは、新規会員の獲得と既存会員のつなぎとめに最適な方法を見いだすために、番組アルゴリズムをテストして分析することが必要になるだろう。ディズニープラスの「ミズ・マーベル(Ms.Marvel)」シリーズは、同社の他の「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)」シリーズと比べて視聴率が振るわなかったといわれている。また、同じ日に放映された「オビ=ワン・ケノービ(Obi-Wan Kenobi)」にも視聴率で敗れている。

「視聴すべき素晴らしいTV番組はたくさんあるし、内容が素晴らしいにもかかわらず、人気番組と比べてマーケティング的にほとんど注目を集められていないTV番組もたくさんある。正直なところ、ここに大きな問題があると思う」と、ゾリラ氏は述べている。同氏自身も、絶対に見るべきなのにまだ視聴できていない番組が30本はあるという。

[原文:Experts weigh in on the challenges of marketing TV shows in the crowded streaming space

Julian Cannon(翻訳:佐藤卓/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)

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