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はじめに
はげます会限定ページで、スズキナオさんが好きな漫画を紹介してくれました。動画とテキスト版の一部をチラ見せします。
橋田:今回はスズキナオさんが好きな漫画を紹介してもらいます。
スズキナオ:今回トルーさんにおすすめできる機会をもらって、けっこう咄嗟に決めました。最近出た本で、7月8日発行、大嶋宏和さんの『THIS TOWN』です。
スズキナオ:大嶋さんの別の漫画『エンディングテーマ』とか、同人誌もそうなんですけど、やるせないマンガばっかり書く人なんですよ。
橋田:やるせないマンガって?
スズキナオ:例えば、絵を書きたいとか、写真をやりたいとか、そういう人たちが『THIS TOWN』に出てきます。
橋田:夢をかなえる途中の人のストーリー
スズキナオ:会社員しながら表現活動を本当はしたい、と憧れてる人たちのうまくいかなさみたいなものがを生々しく描かれている。読んでいてスカッとするとかでもなくて、嫌だなみたいな感じもけっこうある漫画。
トルー:リアルですね。
スズキナオ:だけど、最後救いがある。
橋田:救いがあってよかったよ
スズキナオ:『THIS TOWN』は最新作は、インセクツっていう発行元が大阪にあるものだからっていうのもあると思うんですけど、大阪を舞台に描いたものが多い。
橋田:なるほどね
スズキナオ:大阪の中之島にある小さなジェントルギャラリーオーナー。その人は60歳ぐらいの男性との合同展で絵を発表している、絵を描きたいんだけどサラリーマンをしている男性と、ギャラリーの近くをウロウロして歩いている写真を撮ってる女性。という3人の人生がギャラリーを拠点に交差するみたいな話なんですよ。
橋田:みんなそれぞれの人生がある
スズキナオ:ギャラリーのオーナーはなかなかギャラリーがうまく立ち行かなくて困っている。
合同展に出してる男の人はお子さんがいて、子育てと仕事と、自分はホントは絵を描きたいというせめぎ合いの中でいろいろ悩んでいる。
写真撮ってる女性も出てくるんですけど、その人は会社がすごく仕事が憂鬱で、パワハラみたいなのを受けたりして、くっそーとか思いながら生きてるみたいな漫画なんですよ。その生々しいんですよね。
橋田:気になる。
スズキナオ:みんなが、ため息がめちゃくちゃ出てる。いやーな顔ではぁ…って言ってるシーンが何回も出てくる。
橋田:ため息多いマンガって珍しいですね。
スズキナオ:あと育児の物語は切なくて、泣いちゃいますよ。
橋田:泣いちゃったの?
スズキナオ:絵描きになりたい男性には子供がいる。世に出るチャンスが無くて、参加費を払って出店するような合同展に出る。
橋田:はいはい
スズキナオ:他の人達の作品はみんないいねーとか言って若い人たちが集まってくるのに、自分のところは誰も人が来なくて、「なんだこれ、おっさんがやってるんだって」ってヒソヒソ聞こえてくる。辛いじゃないですか。
橋田:めちゃつらい!
スズキナオ:でも絵を描くことがその人には支えになっているんです。
橋田:人生の支えになってるんですね
スズキナオ:奥さんは育児の手伝いをしてほしい。だけど、会社サボって絵を描きに行っちゃったりして、喧嘩するシーンがすごい。
橋田:奥さんの気持ちもわかるよ
スズキナオ:ネタバレとかないと思うんですけど、最終的にマンションの上階から絵を奥さんがぶん投げるんです。そのシーンが最高なんですよ。最高に傷つくと言うか。でも奥さんの気持ちもめちゃわかる。そのこれ以上は言えないな。
橋田:投げちゃうのすごいですね
スズキナオ:何かをやりたい気持ちはあるけど、現実はうまくいかないじゃないですか。それを淡々と描き続けているのが大嶋さんのずっとやってること。
橋田:だいたいの人はうまくいってないんじゃないかな
スズキナオ:コマ割りがアメコミの影響を受けたとインタビューで語っていまいした。
橋田:スッキリして、整ったコマ割り。
スズキナオ:これが映画を連想するのかもしれない。カメラが淡々と人を追ってるような雰囲気に見えるんですよ。
橋田:映画のシーンみたい
スズキナオ:一人ひとりのの表情とかね。エグいんですけど、笑えるエグさなんですよね。
スズキナオ:あまり大げさすぎもせず、自分としてはグッとくる。
橋田:大事件が起こるわけでもなく。
スズキナオ:起こるわけでもないんですよ。
橋田:そのほうがリアリティがある。現実って事件起こらないですよね。
スズキナオ:それを「そういうことあるね」って言ってくれてる感が最終的にあるから良い。笑いながら泣き笑いですね。
橋田:泣き笑いの一冊。
スズキナオ:一番すっきりまとまっていて、このまま映画化されそうな気がする。
トルー:ずっとナレーションみたいな。
スズキナオ:言葉のやりとりがいいんですよ。ちょっと疲れてるときでも読める。
トルー:テレビに映る高校球児を見て、「こいつらにはこれが就職活動みたいなもんだからな」って最高に下品な笑顔を見せる。
スズキナオ:最初にグループ展に男の人が出展したところに奥さんが子供を連れて来るんです。「これで気が済んだ?いい思い出になったでしょ」とか言ってくるんですよ。きついっすね。奥さんからしたらいつまでそんなことしてるのっていう気持ちもあるというか。
橋田:わかるよ。
スズキナオ:いきなり。1ページ目からです。
トルー:これが出だしなんだ。ほんとだぁ…。
スズキナオ:文字が書き込まれてセリフの応酬みたいな部分もあったりするし、静かなコマもある。
トルー:最近テレビのトーク番組とかでも」「僕たちこのテレビとか出れてるけど、全然思い通り言ってないね」的な話をしていて、みんなそうなんかいっていうのもありますよね。テレビの話しちゃいました。
スズキナオ:いいですよ。全然。うまくいかないっていうこと、あまり言い合えないじゃないですか。恥ずかしかったりとか。
橋田:うまくいったことは「やったぞー」って言いますけどね。
スズキナオ:日々の小さな後悔みたいな、すごいある。
橋田:ありますよね。ちょっとやっちゃったなって。
動画
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終わってふたたび解説です
『THIS TOWN』買って読みました。個人的にはファンタジーやSFのようなフィクションものよりノンフィクションが好きなので、すぐに読み終えました。巻末におまけの漫画もあります。
大嶋宏和さんの作品で『エンディング・テーマ』『SHITTY GIRL』という作品もあります。
はげます会のページでは「タテの国」のおすすめしている部分も読めます。(はげます会担当 橋田)