夏になると決まって発生して人間たちをやきもきさせる蚊ですが、種類によっては人間を特に好み、感染症を媒介してしまうものもいます。デング熱を媒介することで知られるネッタイシマカを調べた研究により、蚊がどのように「匂い」をかぎ分けているかのかが詳細に明らかになりました。
Non-canonical odor coding in the mosquito: Cell
https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.07.024
Scientists discover how mosquitoes can ‘sniff out’ humans | Animal behaviour | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2022/aug/18/scientists-discover-how-mosquitoes-can-sniff-out-humans
蚊は人間の体臭や熱、二酸化炭素などに引かれて集まり、人間の血を吸います。特にネッタイシマカは人間を刺すことに特化していますが、これは淡水に卵を産むネッタイシマカが、常に淡水の近くにいる人間を好むよう進化したことが原因だと考えられているとのこと。
脊椎動物を対象に行われた以前の研究では、動物は匂いの化学物質を感じ取る受容体を神経細胞1つにつき1つ発現し、1つの受容体はそれぞれ複数の匂いを感じ取ることができることが明らかになっています。さらに匂いを識別する「糸球体」と呼ばれる部位も1つの神経細胞につき1つ投射されます。つまり、受容体・神経細胞・糸球体が1:1:1で構成されるのが、嗅覚系の一般的なモチーフだと考えられているわけです。
ミツバチなどの昆虫にもおおむねこの構造が当てはまるそうですが、ネッタイシマカでは受容体の数と糸球体の数に大幅な不一致があり、少なくとも糸球体の2倍の数の受容体が存在しているとのこと。この構造がどのように生まれるのか、この構造であることが人間を見つけるのにどう役立っているのかという問題を解き明かすため、ロックフェラー大学のマーガレット・ヘレ氏らはネッタイシマカの研究に着手しました。
ヘレ氏らが遺伝子編集技術・CRISPR-Cas9を用いて特定の遺伝子をネッタイシマカへ挿入したところ、異なる受容体を発現する神経細胞が同じ糸球体へ頻繁に投射しており、個々の神経細胞に複数の受容体が共発現していることが明らかになったとのこと。これにより、ネッタイシマカでは1つの受容体を失っても別の受容体が同じ匂いを検知する「バックアップ」が働くことが分かりました。
「人間の匂いを検知する受容体」をすべて取り除いてもネッタイシマカが人間の匂いを検知し続けるという疑問は、この発見により解決されたわけです。
研究には携わっていないダラム大学昆虫神経研究所のオレナ・リアビニナ博士は「蚊が人間を刺すように仕組まれていることはすでに分かっていましたが、今回の研究によって、蚊の嗅覚系は私たちが考えていたよりももっと複雑であることが分かりました」と指摘。ヘレ氏らは「蚊の脳が人間の臭いをどのように処理するかを理解することで、蚊の行動を抑え込み、マラリアやデング熱などの蚊が媒介する病気の蔓延を抑えることができるでしょう」と述べました。
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