核融合発電の実現に王手をかける歴史的快挙はどのようにして達成されたのか?

GIGAZINE


by Sam Portelli

核融合発電は化石燃料ではなく水素を燃料とし、排出されるのも温室効果ガスや放射性廃棄物ではなく工業分野で利用価値が高いヘリウムです。そんな核融合発電の実現に一歩近づいた重要な実験が成功するまでの経緯やその意義を、実験を主導した科学者たちが振り返りました。

Phys. Rev. Lett. 129, 075001 (2022) – Lawson Criterion for Ignition Exceeded in an Inertial Fusion Experiment
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.075001

Phys. Rev. E 106, 025201 (2022) – Design of an inertial fusion experiment exceeding the Lawson criterion for ignition
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.106.025201

Phys. Rev. E 106, 025202 (2022) – Experimental achievement and signatures of ignition at the National Ignition Facility
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.106.025202

Three peer-reviewed papers highlight scientific results of National Ignition Facility record yield shot | Lawrence Livermore National Laboratory
https://www.llnl.gov/news/three-peer-reviewed-papers-highlight-scientific-results-national-ignition-facility-record

ローレンス・リバモア国立研究所は2021年8月8日に、重水素とトリチウムでできた燃料ペレットに192本のレーザーを集中させて核融合反応を起こすレーザー核融合により、1.3メガジュールものエネルギーを発生させることに成功しました。この実験は、発生させたエネルギーもさることながら、核融合発電の実用化に必要な「点火」というプロセスの達成に向けて大きく前進したことで注目を集めました。

レーザー核融合で1京ワットのエネルギーを生み出すことに成功、核融合発電の実用化へ大きく前進 – GIGAZINE


この実験を成功させた研究チームは、実験から1年が経過した2022年8月8日に、成果についてまとめた査読済み論文を合計3本発表しました。それらのうちPhysical Review Lettersに掲載された論文には1000人以上の著者の名前が掲載され、歴史的な記録の樹立に向けて長年にわたり貢献してきた多くの研究者らに賛辞が送られています。

ローレンス・リバモア国立研究所のオマー・ハリケーン氏は、1年前の実験について「2021年8月の記録的なショットは、核融合研究における大きな科学の進歩であり、実験室内での核融合点火が可能だということを証明するものです。点火に必要な条件を達成することは、すべての慣性閉じ込め核融合研究にとって長年の目標であり、アルファ粒子による自己加熱が核融合プラズマを冷やしてしまうあらゆるメカニズムを上回るという新たな実験領域への扉を開くものとなりました」と位置づけました。

今回発表された論文では、実験が成功に至るまでの試行錯誤も記されています。論文3本のうち1本の筆頭著者であるAlex Zylstra氏によると、2021年8月の実験の前に、2020年と2021年初頭の2回実験が行われているとのこと。それらの実験の結果を踏まえて改善を重ねたことが、2021年8月の実験成功の鍵になったとZylstra氏は話しています。

また、もう1本の論文の筆頭著者であるAnnie Kritcher氏は、特に「ホーラム」と呼ばれる容器を改善して効率的な反応が発生するようにしたことや、燃料カプセルの品質を上げたこと、燃料を詰めたチューブを小型化させたことが、実験を成功に導いたと述べました。


その後行われた再試験では、2021年8月の実験で記録された1.3メガジュールに匹敵するエネルギー収量は得られていませんが、全ての実験で430~700キロジュールと、以前の最高記録だった170キロジュールをはるかに上回る収量が確認されています。科学者らは、これらの実験で得られた知見をもとにレーザーやターゲット、実験手法などの改良を続けて、核融合の実現に向けて着実に歩みを進めています。

ハリケーン氏は実験の意義について、「実験室内で点火の『存在証明』ができたことは非常にエキサイティングなことです。私たちは、先の実験が終了して以来どの研究者もたどり着いていない領域で活動しており、そのことは私たちが前進を続ける中で知識を広げる素晴らしい機会となっています」と話しました。

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