M&A におけるヘアケア人気いまだ衰えず:ウェルネス、バイオテクノロジーなどが新潮流

DIGIDAY

5月に産休から戻ってきたら、ビューティ&ウェルネス業界ではたくさんのことが起きていた。経営陣の刷新、新ブランドや新商品の発売、M&Aなど、変化のスピードは加速しているように見える。

ブランドの際立った存在感はまだ示せる

起きている変化はさまざまだったが、なかでも特に新しいヘアブランドが数多く現れているのには若干驚いた。ヘアカテゴリーは、米国で新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで大きく伸びてはいたが、ビューティ全体で見ると、割合としては小さいままだ。それはそれとして、2021年12月にはプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)がウェイ(Ouai)を、2022年4月にはウェラ(Wella)とヘレン・オブ・トロイ(Helen of Troy)がそれぞれブリオジオ(Briogeo)とカールスミス(Curlsmith)を買収し、5月にはバンスク・グループ(Bansk Group)がアミカ(Amika)とエヴァNYC(Eva NYC)の株式の過半数を取得している。同月、Lキャタルトン(L Catterton)のビューティ・インダストリー・グループ(Beauty Industry Group)も、ヘアエクステンションのブランド、ベラミ(Bellami)を買収した。

カテゴリー全体が好況を呈しているということ以外、具体的にどのようなテーマで動きがあるのかは明らかではない。たしかに、ブリオジオ売却のうわさは流れていた。ブリオジオは2013年に「クリーン」という価値提案をヘアカテゴリーで最初に示したブランドのひとつで、先に挙げた各種ブランドのなかでも歴史が長いほうだ。一方、売却までが早かったのはカールスミスで、アルタビューティ(Ulta Beauty)でベストセラーとなった同社が創業したのは2018年だ。

ヘアカテゴリーの成長に減速は見えていない。つまり、景気後退局面下にあっても、ブランドが際立った存在感を示す機会はまだある。NPDグループ(NPD Group)は7月の第3週に、2022年第2四半期の売上高に基づき、ヘアが、ビューティ市場で規模がもっとも小さいながら、もっとも急速に伸びているカテゴリーであると報告した。売上はヘアケア、スタイリング、カラーのすべてのセグメントにわたって伸び、前年比24%増の7億8100万ドル(約1015億3000万円)に達した。

フィナンコ・レイモンド・ジェームズ(Financo Raymond James)のマネージングディレクター兼ビューティ&パーソナルケア部門グローバル責任者のベネット・ホー氏は「当社で取り扱った最新の4案件はどれもヘア関係だった」と語る。「ヘアがこれほどまでに魅力的なのは、いまや高級(ビューティ)分野でもっとも成長が著しいカテゴリーに挙げられるからだ。かつては、髪を洗えば(ヘアケア製品が)排水管に流れていくだけだと思われていた。効能への意識はなかった。だが、いまではその認識が完全に変わっている。ヘアにもテクノロジーや効能が関係するという気づきをもたらしたオラプレックス(Olaplex)は、業界全体にとって一大事だった。以来、ヘアの買収案件を見る目が完全に変わってしまった」。

ウエルネスとの深いつながり

ヘアカテゴリーがいま、ウェルネスと深くつながっている(ブリオジオまたはカールスミスのポジショニングを考えてみよう)ことから、ブランドは、特に消費者が機能だけでなく体に良いものを求めている場合に、複数のストーリーラインを検討できるようになった。バーチュー・ラボ(Virtue Labs)の創業者でCEOを務めるメリッス・シェイバン氏は「ヘアはすっかり定着しているが、テクノロジーに支えられるヘアケアもまた、間違いなく定着している」と語る。

K18のCEOで共同創業者のサビーン・サヒブ氏もこれに同意する。「ヘア市場で驚異的な成長が見られているのは、髪と頭皮のそれぞれのニーズと相互関係に対する理解の深まりとともにヘアケアの『スキンケア化』が進み、それが機会を生み出しているおかげだ」。サヒブ氏は、現在ヘアケアに起きていることを、かつてスキンケアに起きたことになぞらえる。ビューティ業界は、化粧品で欠点を隠すという考えから離れ、素肌レベルで問題に取り組むことで、化粧で隠さなければならない箇所を少なくできるようにしたのだ。ヘア関連のテクノロジーでは、ヘアボンドに特に大きな機会がある。

創業9年のマディソンリード(Madison Reed)は、「効能」と「体に良い」のどこに線を引くかを探っているヘアカラーブランドだ。同社CEOで創業者のエイミー・エレット氏は、同ブランドが自然で体に悪いものが入っていない点を、長持ち効果を指摘することでさらに強調する。マディソンリードは2022年4月に自社の実店舗と小売流通を拡張するため、3300万ドル(約42億9000万円)の資金調達を行った。これまでの多額の資金調達(2億2000万ドル、約286億円)は売却が視野に入っていることをうかがわせるが、マディソンリードではこれを否定している。

「まだ終わりではないし、資本もある。2022年にどのような金額で売ろうとも、数年たてばその倍になる可能性があるのに、いま売却する理由がない」とエレット氏はいい、同社が黒字に近づいていることを指摘した。「計画実施の細かい点を調整しているところで、まだ先は長いのに安売りはしたくない。市場があるのか、という問題ではない」。エレット氏は現在の財務情報については明かさなかった。

マディソンリードはD2Cビジネスとして構築されたが、自社店舗も成長戦略の重要な一部となっている。エレット氏はフランチャイズモデルに注力したこともあったものの、その計画は2020年に断念した。マディソンリードでは現在の62店舗を年末までに80店舗に増やす計画だ。マディソンリードは、アルタビューティとターゲット(Target)でも扱っている。

話題のヘアブランド、K18が注目される理由

D2C、プロ向け販売、小売という3本立てのビジネスモデルを中心に据えているのは、K18(オラプレックスの話が出ると名前が挙がることの多い話題のヘアブランド)も同じだ。K18は、リーブイン・モレキュラー・リペア・ヘアマスク(Leave-in Molecular Repair Hair Mask)という小売価格75ドル(約9750円)の消費者向け製品ひとつで、2020年に市場に登場した。2022年1月にはVMGから2500万ドル(約32億5000万円)の投資を獲得している。かつてはトゥルービューティベンチャーズ(True Beauty Ventures)からも投資を受けたことがある。

サヒブ氏は「積極的に成長資金を求めているわけではない。K18は設立1年目にしてスケールと収益性の両面で拡大を果たしている」といい、「かなりの関心が示されたことを受けて、専門サロン向けアクティベーションのグローバル戦略の加速、長期的なイノベーション推進に向けた投資拡大、予測できない厳しいサプライチェーン環境に対する防衛策のために成長資金を取り込むことを選んだ」と語った。

K18は、業界筋の多くが目を付けていると話すブランドだ。最近の会話の中で、サヒブ氏はK18がターゲットとなっていたことを認め、「発売開始数カ月以来ずっとストラテジックバイヤーの注目を浴びているが、適切なタイミングが来たら決めることだ」と話した。「現在のところは成長と、シンプルさとスピードでプロ・消費者両方に喜ばれる、科学的な裏付けのある優れた製品を届けることに専念する」。

2021年のK18の小売売上高は7500万ドル(約97億5000万円)に達した。2022年はこれが50%から100%拡大すると見られている。8月初めにはペプチドを使用したプレップシャンプー2品を発売する。効能と良心的な処方がK18の価値提案の核心であり、サヒブ氏は「消費者は結果を得られるのであればその分の金額を出してもよいと考えている」と話す。

サヒブ氏は「ビューティ業界内のすべての市場でバイオテクノロジーが問題解決の手段として関心を集めることによって、ヘア業界でもシンプルな日常の手入れで効果の高い製品を提供できるような、さらなる変革が可能になると思う」と語る。

バイオテクノロジー企業の台頭

もちろん、自社をバイオテクノロジー企業だと考えているビューティブランドはK18だけではない。アウグスティヌス・バデール教授が開発したラグジュアリースキンケアブランドのアウグスティヌス・バデール(Augustinus Bader)は、そのトリガー・ファクターコンプレックス(Trigger Factor Complex)「TFC8®」の発見につながったバイオテクノロジー研究が自慢だ。このテクノロジーで、同ブランドは最近ヘアケアにも進出している。ヘアケアブランドのバーチュー・ラボも、独自のプロテイン成分Alpha Keratin 60ku®を発見し、すべての製品の中心に据える。

シェイバン氏は、2017年に設立されたバーチュー・ラボを、いまでも成熟したビジネスではなく、成長中だと考えている。まだブランド売却する気はないという。シェイバン氏は、オラプレックスのようなIPOを含め、複数の可能性があるとしながらも、Alpha Keratin 60ku®が製品とカテゴリーの両方の拡大を推進できるという事実を踏まえると、バーチュー・ラボにはまだ成長の余地があると考えているそうだ。また、バーチュー・ラボの年間売上高6000万ドル(約78億円)の60%がウェブサイトからの売上であることは、小売への依存がなく、小売販売の拡大もまだ狙えるということを意味する。

シェイバン氏は、バーチュー・ラボが、ヘアカテゴリーでありがちな、新製品を出すためだけに新製品を作っているのではなく、狙いを定めて拡大計画を練っていると話す。2021年4月に発売された抜け毛対策のフローリッシュ(Flourish)は同社の売上の大きな部分を占め、2022年はバーチュー・ラボの総売上の約24%に相当する1700万ドル(約22億1000万円)の売上が予想されている。フローリッシュに関する18カ月計画で、バーチュー・ラボは売上高3000万ドル(約39億円)、総売上の約25%を目指す。

シェイバン氏は「特に販売チャネルが進化し続けるなかでは、製品の乱発や、やたら手を広げることで成長するのは望ましくない」と話す。バーチュー・ラボのテクノロジーはスキンケアとネイルケアに使用できるが、シェイバン氏はヘアでの取り組みも終わりではないことを知っている。

こうしたヘアケアブランドなどに集まる関心をよそに、ビューティ業界の一部の消息通は景気後退がM&Aの減速につながると見る。売却を目指すブランドにとって、2023年のほうが現実的なタイミングではあるかもしれないが、ホー氏は売却への入り口に立つブランドにとって安心材料となるコメントを残した。「すばらしいブランドやテクノロジーが数多くあるため、このトレンドは続くだろう。人々はヘアケアについてかなり真剣に考えるようになっているし、ヘアケア製品に求めるものも多くなっている」。

[原文:Beauty & Wellness: Hair care is still poised as an M&A darling

PRIYA RAO (翻訳:SI Japan、編集:  山岸祐加子 )

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