シートの背が鳥に見える

デイリーポータルZ

シートバードウォッチングの愉しみ

ある日、電車の前のシートの背が鳥に見えた。これは鳥鉄かと思いきや、鉄どころではなかった。飛行機の中、リムジンバス、山崎まさよしに負けないくらいいつでも探しているよ、シートに鳥の姿を。そんなとこにいるはずもないのに。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:西友「みなさまのお墨付き」ぎりぎりでお墨付いた冷や汁をいただく

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

特急のシートにバード

明確に意識したのは2018年10月20日、「コウモリフェスティバル」というイベントに参加すべく三重県は津に向かう電車の中だったと記憶している。名古屋駅から近鉄特急に乗り込みホッと一息ついた瞬間、こちらを見つめるつぶらな瞳と目が合った。

ピヨピヨ。

コミカルながら気品のある白い羽毛に包まれたその姿は北海道の白い天使、シマエナガのようだった。

北海道でしか見られないはずの雪の妖精に名古屋で、しかも電車の中で会えるとは!

電車に乗る新たなモチベーションを獲得してしまった。言うなれば鳥鉄だ。こいつはやばい。

松山から今治へ向かう特急しおかぜ(だったと思う)でウインクしてくる鳥。しぶい色味でかわいくさえずるミソサザイのようだ。
林の中に住み小さな体から美麗な鳴き声を響かせる渓流の歌姫を四国の電車の中で見られるとは!
京阪と南紀を結ぶ特急くろしおではミミズクに遭遇。何がどうミミズクかというと両サイドに突き出た耳(のように見える羽根)だ。
ワシミミズク。闇の中で静かに佇み、思索を巡らす森の哲学者が電車の中に!

2018年からと書いたが写真を整理していたら2014年ごろからポツポツと写真を撮っていた。見出していたのだろうか、バードを。

特急こうのとり。高貴な深みのあるネイビー、これはまさにオオルリ。
こうのとりにオオルリとはこれいかに!
東京と信州を結ぶ特急あずさにも青い鳥が、鮮やかなブルーはまさにルリビタキ。
青い宝石、ルリビタキ。これに関しては近所の公園とか行ったほうが早いかもしれないけど電車の中で会える!

2014年からだとして、そこから今まで乗り物に乗ってシートの背を見ては「なにこれ、鳥っぽいじゃん、かわじゃん」とかやってるわけだが年で言うと39歳から46歳にかけてか。楽しいけれど少し哀しいな、オレンジジュースとミルクまぜながら呟いた。

シートの背をおがめる電車といえば我が国が誇る高速鉄道、新幹線は避けて通れない。パッと見それほど鳥感ないじゃないかと思ったのだが……。
 

なんかな……しかし待てよ……。
ここにビルトインされてるじゃないか。

 ABS樹脂感満載でふさふさの羽毛はないが、この目とくちばしのバランスからしてどこに出しても恥ずかしくない鳥である。
シートには背面全体で表現されるアウトサイドバードと中央の留め具周りにコンパクトに鎮座するインサイドバードが存在するのだ。

いるいる、四白眼がかわいい特急りょうもうのインサイドバード。
同じ新幹線でも東北新幹線にはアウトサイドバードがいた。
秋田・東北新幹線E6系の座性カラーは稲穂をイメージしたもの、稲穂ときたら鳥でしょう。

アウトサイドにもインサイドにもバードを擁する車両も存在する。我らが西武池袋線の特急ラビューである。

ひよこカラーでピヨピヨ。
アンドピヨピヨ。
同じインサイドバードでも札幌と旭川を結ぶ特急ライラックは優雅な冠をかかげている(チケットホルダーなのだが)
カンムリバトと完全一致!
いったん広告です

飛行機にも、バスにもバード

今思えば至極当然だが、鳥は電車だけにいるわけではなかった。空をゆくジャンボジェット機にも、陸路をゆくバスにもいたのだ。

行列を作るペンギン!北海道中標津行きANA4881便。
ペンギン!ANA987便。

 電車と違い目が無いのが惜しまれるがトレー留め具の形状や位置は絶妙で背面を鳥に見立てて設計したのではないか見紛うほど。きっと飛行機の安全運行のために鳥のメタファーは欠かせないのだ。
なんでそれでペンギンなんだよとか言わないで。

スカイマークにモズがいた!スカイマーク513便。
はやにえで有名なモズさん。くちばしから横一文字に走る黒いラインが完全一致。
鹿児島行きJAL643便は漆黒のカラス。
鹿児島から徳之島へ向かうJAL3795もカラス。

 JALだから黒なのかというとそうでもない。

AKIRAに出てきた「鳥男」っぽさがある。
LCCも負けてはいない。 PeachMM541便のよいペンギン感。口元が白く、くちばしが黒いのでヒゲペンギンではないか。
ヒゲペンギンじゃん!

 バスになるとだいぶ鳥感は薄れるが、それでもこんなテクスチャやカラーリングを見せられると鳥がいる、森は生きていると言わざるをえない。

甲府行き高速バス(富士急行だったかな?)前出のミソサザイのようなトーン。
成田空港行きリムジンバスにはジョウビタキ(オス)が!
そんなに珍しくはないが見られると満足感の高い事で知られるジョウビタキさん。
ちなみに今のところ、船や路線バスは全然鳥じゃない。今さら述べるほどの事でもないがようするにトレイと留め具が付いているかどうかなのだな。
いったん広告です

海外バード、この人に聞いてみた

海の向こうではシートの背にいるバード事情はどうなっているのか、っていうかこんな事誰に聞けばいいのか。実はかなり前にある人物に無謀な問いを投げかけていた。

DPZに彗星のごとく現れ、ネタも文章も完全無欠におもしろい幾多の名作旅記事を残していったSatoruさんである。

「バカをつかまえろ(コートジボアールの歩き方)」より。現在は岡田悠さんと共に「旅のラジオ」でその圧倒的な知識と能弁を発揮している。

多くの読者やライターと同じく彼のコンテンツに衝撃を受けた私はライターのコミュニティで思わず打診してしまったのだ。

こんなお願いをしたのが2019年。言い回しが真面目なのでばかさが際立つな。
快く写真を送ってくれた。記事にするのに3年かかった。ほんとすいません。
ジョージアのバス。たしかに鳥はいない。だけどいい!見たいでしょジョージアのバス。
「コソボの長距離バスの背面です」
長距離バスだが日本のリムジンバスのようなバードトレイは付いていない。黒いパーツの片側がパカっと開きそうな感じだ。
「チェコ共和国のバスです」
かっこいい!トレイがあるのに鳥っぽくない!留め具がないのか。走り出したらバタンと倒れてこないのかな。ひんじのとこが固いとか?
「パレスチナのバスです」
なんだろう、イスの柄などインテリアの感じがけっこう日本のに近い気がする。
「スリランカのバスです」
シートのカバーかわいい!

Satoruさんが次々に繰り出す異国の乗り物景が良すぎてしびれる。鳥感の無さはともかく(でも、鳥感ないなというのも鳥感を見る事なのだ)、いろんなイスの背があるねえというだけで興奮してしまうが、鳥っぽいのもやはりあって、それは飛行機の中に見出されるのだった。

「イラン上空飛ぶ初代ボーイング747です」
そんなクラシックなものがまだ飛んでるのか。シックな黒のペンギンがずらりと並ぶ。さすがに内装は変えてるかな。
「おなじくイランのATR 72-600です」
ん?この鳥は、なんか見た事あるぞ!
これは私の写真から、徳之島から奄美大島へ向かうJAL3842便。やはりどちらもATR社製のターボプロップ機だ。ATRのターボプロップは鳥、おぼえておいて得はない。
「カイロ発リヤド着のエジプト航空MS647(ボーイング737-800)の機内。化粧パウダーみたいな匂いが充満しています」
丸っこくてかわいい!っていうかなんでこのアングルの写真がすっと出てくるんだ。鳥を感じていたんじゃないのか。
「エコノミーなのに喫茶ルノワールみたいなふかふかのシート。隣のサウジ人女性に『僕の人生で最高のエコノミー座席だよ!』と伝えましたが薄い反応」
さすが余裕あるな、サウジの人。

Satoruさんイチオシの鳥シートはこちら、といって出てくるのが主に西アフリカ、中央アフリカに就航しているASKY Airlines。とにかく引き出しがすごい。

「過去最高に鳥に見えました(右側に目が2つ)。ご査収ください」
かわいい!左に90度回転させるとカモメのような鳥になる。この見え方も斬新。

 この企画の一番の功績はこの人の「イスの背中が見える画像フォルダを開かせた事」なんじゃないかという気がしてきたが最後に私の一押し鳥を掲載して終わろう。都心と成田空港を結ぶ京成スカイライナーにいたインサイドバードがめっちゃいいのだ。

口をめいっぱい開いてエサをねだるツバメの子!
駅にもよく巣を作るツバメが車内へ進出。
すぐ上には「トリ」!

出張や旅行で新幹線を使うたびにシートの背の鳥を見続けて、ごく最近やっと気付いたのだが、留め具を少しかたむけて下から撮影するとかなり鳥っぽくなる事がわかった。このTIPSをお中元にでもいかがだろうか。

イスごと飛んでいきそうだ。

Source