ターナー・スポーツのオーディエンスを惹きつける NFT戦略:「成熟からはほど遠いNFTで、ユーザーにどう価値を提供するか」

DIGIDAY

メディア幹部の一部は、Web3の未来と、業界をブロックチェーンが一変させる予想図に確固たる自信を抱いているが、多くのオーディエンスは、NFT(非代替性トークン)とは一体何なのか、デジタルアート作品ひとつになぜ何百万ドルもの大金を喜んで払う人がいるのか、いまだ理解できていないのが現状だ。

そして、それは仮想通貨に大望を抱くパブリッシャー勢にとって、大きな壁となっている。

ターナー・スポーツ(Turner Sports)デジタルリーグビジネスオペレーション、グロース&イノベーション部門SVPヤン・アディヤ氏も、そうしたパブリッシャー勢の一員と言えなくもないのだが、同氏はこの4年間、さまざまなブロックチェーンベースのプロジェクトを生み出すとともに、自社のオーディエンスにNFTへの関心を抱かせ、投資へと誘う多様な戦略も試してきた。

以下はアディヤ氏の実践例だ。

01 現実世界との類似性を活用

最初のNFTはコレクティブル(収集品)だったと、アディヤ氏は語った。それはつまり、野球のトレーディングカードやギャラリーに展示されている絵画と同じく、値段がバイヤー(買い手)の見出す価値によって決まることを意味するという。

「コレクティブルが受け入れられたのは極めて理に適っていると思う。ビジネスで利用されているスマートコントラクトや対面およびバーチャルイベントのチケットなど、現在NFT取引が行なわれているほかの分野と比較して、具体的な形のあるもののほうが人々はシンプルに理解しやすいからだ」と、コロラド州ヴェイルのグランド・ハイアットで5月に開催されたDIGIDAY Publishing Summitでアディヤ氏は語った。

ターナー・スポーツが手がけるなかで最も成功しているNFTコレクティブルのひとつが、NBAトップ・ショット(NBA Top Shot)とのパートナーシップから生まれたものだ。米プロバスケットボールの試合の動画クリップといったデジタルコレクティブルが取引対象となっている。

「NFTが可能にした重要なアンロックのひとつが、以前は生み出せなかった希少性を創れるようになった、という点だ。そして、デジタル希少性を創出できることで、いまやその価値をバイヤーが自分で決め、自分だけが所有できるアイテムを生み出せている。マイケル・ジョーダン氏が印刷された紙のトレーディングカードとまったく同じだ。ジョーダン氏のカードは相応の価値が付くものであり、レブロン・ジェームズ氏のデジタルトレーディングカードも同じく、相応の価値が付くことになる」と、アディヤ氏は説明した。

02 初期段階で狙うべき層を特定する

コレクティブルNFTがブロックチェーン実験の優れた出発点、との認識が済んだら、最初のターゲットはスポーツファン、そしてファッションやアートの愛好家たちであることは、レア物や一点物の所有欲に対する親和性を考えれば、明らかだった。ただ、NFTの利用例が増え、その価値が個人的な興味に結びつかなくなるにつれ、ターナー・スポーツのオーディエンス内におけるほかの層が、アディヤ氏のチームが立ち上げる新たなプロダクトの魅力なターゲットになったという。

「我々はすぐさま先に進み、『どうしたら、さらなる利便性を創造できるのか?』と考えるようになった。当初はそれを、ゲーマーを使って掘り下げようと考えたのだが、そこには少々問題があった。ゲーマーコミュニティ内には、自分たちが慣れ親しんできたものを壊してしまうという感覚があったからだ」とアディヤ氏は語った。

それを回避するべく、アディヤ氏のチームは別の有望な層に目を付けた。いわば、金融マニア――つまり、自身のデジタル資産と価値を結びつけ、経時的にさらなる価値がそこに付与されることで、その相場が高まる様子を見たいと欲する集団だ。

03 新たなテクノロジーで遊ばせ、利益も得させる

ゲーマーと金融マニアとの違いは、アディヤ氏のチームがBlockletes(ブロックリーツ、ブロックチェーンとアスリーツを合わせた造語)と名付けたNFTベースのビデオゲーム内で顕現した。

このゲームでは、ユーザーがゴルファーとしてプレイし(キャラクターがNFTそのものとなる)、大会に参加して他プレーヤーと競い、用具(同じくNFT)を買い揃えて充実させ、ほかのキャラクターと相互交流するなかで、自らの価値を高めていく(または反対に減じていく)。キャラクターおよび用具のNFTはゲーム内で売買ができ、米ドルと交換さえできる。

「プレーヤーはまず、初心者という、数が多くそれゆえ手に入りやすい存在から始め、希少価値の高いレジェンド級の選手になることもできる。レジェンドになるには自らのスキルを上げるしかない。あるいは、公開市場で販売されていれば、レジェンド(NFT)を買い求めることもできる」と、アディヤ氏は説明した。

04 ブロックチェーンへの参加に報酬を与える

アディヤ氏のチームが取り組む次なる試行は、オーディエンスに同社ブランドへの、そしてこれら新プロジェクトへの積極的なエンゲージメントを促すことで、金銭的投資よりも、独占性やコミュニティへのアクセスを重視する新たなゴールを与える、というものだ。

「NFTはすでに何年も前から出回ってはいるが、依然、成熟からはほど遠いスペースだ」とアディヤ氏。「我々のユーザーにどうしたら価値を提供できるのか。私は今、そこに目を向けている。NFTは端的に、デジタルアイテムの所有権を移行する機会であり、そのアイテムに希少性を持たせることができる。しかも、プログラム可能だ」。

そして、そのプログラマビリティこそが、アディヤ氏のチームが現在とりわけ関心を寄せている点であり、彼らはコレクティブル性という枠を越え、コンテンツおよびオーディエンス参加への価値付与の可能性を見据えている。

「デジタルトレーディングカードを収集し、さらにその人たちがたとえば我々の配信番組『Inside the NBA(インサイド・ザ・NBA)』を見てくれるとする――それはつまり、そのNFTアンロックの価値が増したことを意味する。彼らは引き続き我々の取り組みに参加し、関わってくれるからだ」と、アディヤ氏はまとめた。

また、アディヤ氏のチームは現在、NFTのオーナーに対し、ほかのオーディエンスにはアクセスできない独占的なコンテンツやイベントへのアクセスを提供するリワードプログラムのあり方をテストしている。「我々にとって真に重要なこと、それはNFTの価値を理解するコミュニティの構築にほかならない」と氏は語った。

[原文:Case Study: How Turner Sports is enticing audiences with a crypto strategy

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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