不況に備え、 レイオフ が拡大しつつある小売業界。その実態とは?【ファッション・ブリーフィング】

DIGIDAY

さらなる厳しい時代に備えて雇用を削減する小売業

この1カ月半で、ストックX(StockX)、スティッチフィックス(Stitch Fix)、クラーナ(Klarna)などの大手eコマースおよびリテールテック企業がレイオフを発表した。その理由について共通している点は、公式声明でこれらの企業の最高経営責任者たちが、さらなる経済的課題に備えるためとしていることだ。

6月28日にこの報道を伝える記事が出たのち、オンラインスニーカープラットフォームのストックXは、従業員の8%をレイオフしたとGlossyに認めた。同社が発表した声明によると、「ストックXは現在世界経済に影響を与えているマクロ経済の課題」に対して「影響を受けないわけではない」という。2021年4月の時点で、38億ドル(約5157億4400万円)の評価額にもかかわらずだ。

「今日の現実を効果的に乗り切るには、長期的なサステナビリティへの投資が必要だ」と声明にはある。同社はこの記事で取り上げている他のブランドと同様に、声明文に記載されている以上のコメントについては控えるとしている。

緩やかなペースだが、レイオフが拡大しつつある

景気は多くの基準では好調を維持しているが、ブランドにとって前途に危険が広がっていることを示す兆候がみられる。つまり、雇用の伸びの鈍化失業保険受給申請件数の加速、5月の小売売上高の減少という報告である。インフレが高進するにともない、連邦準備理事会は均衡を保つために金利を引き上げており、借入金で企業を成長させることが難しくなっている。一方で投資家の財布の紐はますます固くなることが予想され、地政学的な対立も火に油を注いでいる。

公開市場の下落によって、景気後退が迫っているいう話が数カ月も取りざたされている。そのため、カラーコスメなど一部の業界が一夜にしてレレバンスを失ったかにみえたパンデミック発生時にくらべると、レイオフのペースは緩やかになっている。しかし、クランチベース(Crunchbase)によれば、2022年の大量人員削減によって、6月下旬の時点で2万2000人以上の米国の技術者がレイオフされたという。

一部の企業では、この2年間の波に乗った結果、従業員数の回復や成長機会への傾倒がみられ、過剰雇用が生じている。現在そうした企業は、資金を節約するための行動を取ることで、不況に身構えるだけでなく、機敏に行動できる能力を証明している。もちろん、強固な(あるいは少なくとも傷を最小限に抑えた)財務状況を維持することが目標だ。

パンデミックをきっかけに社内体制や業務を最適化する方向に

パーソナルスタイリングに特化した小売企業スティッチフィックスのCEOエリザベス・スポールディング氏は、6月の初めに給与職の15%にあたる330人を削減する決定をしたと従業員に向けて発表した。この動きは、「不透明なマクロ経済環境」などの要因のなかで、収益性の高い成長のために事業を位置づけるには何が必要かを「新たに検討」した結果だと、彼女は述べている。

また5月下旬には、決済ソリューション大手クラーナのCEOで共同創業者のセバスチャン・シーミアトコウスキー氏が、10%の人員削減を計画していることを明らかにした。その理由として「消費者心理の変化、インフレーションの急上昇、非常に不安定な株式市場、不況の可能性」などを挙げている。

これは何も新しいことではない。2020年には、パンデミックによってほとんどの規範が見直されたことをきっかけに、それほど影響を受けていなかった企業でさえも将来への備えという名目で現状の見直しを行っている。たとえば多くの企業が、効率性と収益性を重視し、チーム体制や業務を最適化する方向に向かった。

そして、この傾向は衰える気配がない。

2月に遠隔皮膚科診療に進出し、70億ドル(約9496億6800万円)の評価額を誇る遠隔医療企業のロー(Ro)は、従業員の18%をレイオフしたと6月23日にCEOザカリア・レイタノ氏が電子メールで社員に告げた。同社の広報担当者から提供されたそのメモには「過去半年にわたって、追加資本の調達や焦点の絞り込みなど、起こりうる(景気)悪化に備えるための措置を講じてきたが、経費の管理、組織の効率化、現在の戦略に対するリソースのよりよい計画など、さらなる大きな変化が必要だという残念な結論に至った」とある。

一方、グロシエ(Glossier)は1月下旬に社員の3分の1に当たる80人をレイオフした。また、eコマース小売のズーリリー(Zulily)は5月に社のチームを10%近く縮小している。

採用に対するより慎重な姿勢をとる企業

ユニコーン企業が規模を縮小していることが注目の話題となっているが、ファッションや美容関連の企業はあらゆるレベルで同様の厳しい決断を下している。

レイオフによる人員整理で規模を最適化している企業以外では、多くの企業が採用を一時停止または減速し、さらには採用取り消しさえ行っている。雇用された労働者ですらも、賃金の伸び率が鈍化し、交渉力が低下しているため、影響を受けている。

管理職スカウト会社DHRグローバル(DHR Global)のマネージングパートナーでグローバル・リテール・プラクティスを率いるトリシア・ローガン氏は、「不確実性が高い、そしてその結果として、企業は採用に対してより慎重なアプローチを取っている」と述べている。「優れた人材を獲得する競争は依然として激しいが、企業は現在の募集職種を綿密に評価しており、特定の職務の重要性について厳しい目で検討している」。

「近い将来、上級職の人員削減が行われるとは思っていない。しかし、取締役会や株主は業績不振に寛容ではないので、CEOの交代とそれに伴う経営幹部レベルの移動が増えるだろうと予測している。(それに)雇用凍結はすでに目にしており、今後さらに増えるかもしれない」。

早いうちに厳しい決断を下すことも

しかし、小売業界の誰もが景気後退があると確信しているわけではない。全米小売業協会(National Retail Federation)が6月30日に発表した最新の月間経済報告で、チーフエコノミストのジャック・クラインヘンツ氏は「今後数カ月の消費者見通しは依然として良好」であるため、2022年の景気後退はありそうもないと述べている。

しかし「景気後退に至らない程度に経済が縮小することは問題外ではない」が、2023年が景気後退の状態になるかという点では「予断を許さない」と付け加えた。

それをどう捉えるにせよ、よいニュースではない。

VCファンドのイマジナリーベンチャーズ(Imaginary Ventures)の共同創業者でマネージングパートナーのニック・ブラウン氏は、7月13日配信のGlossyポッドキャストの収録中に「これから1年半は大変だと気持ちを引き締めている」と話した。イマジナリーベンチャーズのポートフォリオには、スキムス(Skims)やグロシエをはじめとする小売企業やテクノロジー企業が含まれている。

彼が言うように、現在は悪いPRとみなされている同様の戦略的な動きが、ブランドの生命線となるかもしれない。

「半年我慢してから、マーケティング費用を削減する、あとでチームを削減する、などと言うかもしれない。しかしその時点では、決断を下すのが半年遅かったということになってしまうかもしれないのだ」と彼は述べた。「早い段階で厳しい決断を下して嵐を乗り切る準備を整えた企業こそ、嵐の向こう側でチャンスを生かすことができる企業だ」。– Jill Manoff

[原文:Fashion Briefing: Retailers are cutting jobs in preparation for harder times]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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