ピンタレスト、新CEOにGoogle出身ビル・レディ氏就任:eコマースプラットフォームとしての再編は進むか?

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

ピンタレスト(Pinterest)は6月28日、新しい最高幹部を迎え入れることを発表した最新のテクノロジー企業であった。共同創業者でCEOを務めるベン・シルバーマン氏は、Googleのシニアエグゼクティブのビル・レディ氏が、ソーシャルメディア企業である同社の最高の役職に就くことを明らかにした。

レディ氏はこれまで、Googleの決済・コマース担当のプレジデントを務めており、同社のマーケットプレイスの開発や、Googleの一連のプラットフォームでショッピングを促進する動画や広告ユニットのテストを担当していた。シルバーマン氏はピンタレストの代表取締役社長となり、長期的な戦略を担当する。

ショッピング領域で遅れをとるピンタレスト

レディ氏のこれまでの職歴を考えると、多くの業界関係者は、ピンタレストでのショッピングを促進するために同氏が招き入れられたと見ている。同業他社のGoogle、TikTok、スナップ(Snap)、メタ(Meta)のように、ピンタレストは業界全体の広告収入の逆風に対抗するため、自社のプラットフォームを通じて、人々により多くのアイテムを購入してもらおうと試みている。同社はそれを実現しようと、過去数年間にわたり、プロダクトピン(Product Pins)やショップ・ウィズ・レンズ(Shop with Lens)などの機能に加えて、ショッピングスポットライト(Shopping Spotlight)という新しいセクションでインフルエンサーやブロガーからのお勧め商品を取り上げるなど、さまざまな方法を試みてきた。しかし、いずれの方法も同社をショッピング業界の大手に押し上げるには至らず、同社は何年にもわたってユーザー数の停滞に苦しんできた。同社は最新の業績で、500万ドル(約6億8000万円)の損失を計上し、ユーザー数は9%減の4億3300万人になったことを報告した

レディ氏は、LinkedInのメモで次のように記している。「キャリアのほとんどをコマースと決済に費やしてきた者として、ピンタレストに何か独自のもの、特別なものを作り上げる機会があることは、明確に見てとれる。当社は次の段階として、人々が当社プラットフォームで見つけた魅力的な商品やサービスとより親密に関わり合い、最高の生活を実現できよう支援していく」。

同氏はGoogleで勤務していたとき、ブランドがGoogleで販売することをより快適にしたと評価された。たとえば、Googleはパンデミックの最中に、出品者の数を増やそうとして、出品者がマーケットプレイスに無料で掲載できるようにした。また同社は、買い物客がGoogleショッピング(Google Shopping)を離れずにすべての商品検索を行えるよう、価格トラッキングを統合したり、買い物客が商品を地元で購入できる場所に基づいて商品を並べ替えるなど、多くの機能を追加してきた。

ショッピングの場としてのソーシャルメディアの将来性

Googleに入社する前、レディ氏はブレインツリー(Braintree)とベンモ(Venmo)のCEO、そして、PayPalの最高執行責任者を務めていた。

専門家たちは、ソーシャルプラットフォームで買い物をする消費者行動が十分なけん引力に至っていないことから、レディ氏は膨大な課題を抱えているという。たとえばメタは、2022年にオンサイトコマースとショッピングへの投資を優先し、メタのアプリファミリーであるFacebook、インスタグラム、メッセンジャー(Messenger)などにおいて、アプリ内チェックアウトなどの機能を使い、より直接的に商品を販売するための取り組みを全社規模で行ってきた。しかし、Facebookの収益の大部分(97%)は依然として広告によるものだ。

パフォーマンスマーケティング代理店のテイク・サム・リスク(Take Some Risk)の創設者であるデュエイン・ブラウン氏は、「顧客はソーシャルメディアでの買い物を望んでいるのだろうか?」と述べている。「どのソーシャルプラットフォームも、ソーシャルコマースを自社のビジネスの一部にするために多くの労力を払ってきた」。しかし同氏は、「Facebookやインスタグラムも含めて、どのプラットフォームも解決策を見つけ出していない」と付け加えている。

「レディ氏は多くの経験を持ち、コマースの世界では著名人だった。しかし、顧客がソーシャルメディアでより多くの買い物をするように行動が変化しなければ、その事実も意味を持たないだろう」と、ブラウン氏は述べている。

コマースにおけるピンタレストの利点と課題

ピンタレストが保有している利点のひとつは、商品に対する消費者のエンゲージメントが大量にあることだと、代理店のデジショップガール・メディア(Digishopgirl Media)の創設者で、さまざまなブランドがピンタレスト上で業務を拡大できるよう7年にわたって支援してきたキャティヤ・コンスタンタイン氏は語る。Facebookと比べて、ピンタレストを訪れる人々のほとんどは、結婚式や今後のバケーションなど、最終的に実際に消費するものについて調べに来る。

「もし、ピンタレストがより強力なプラットフォーム内ショッピング体験を創造し、主要なオーディエンスが目的を満たしたり、希望する商品を簡単に購入できるようになれば、それは大きな勝利になるだろう」と、同氏は付け加えた。

しかし、ピンタレストが長年にわたって抱えている課題は、一部のブランドがピンタレストで、Facebookと同様のコンバージョン率を得られていないということだった。これは、人々が多くの場合、商品や体験についてリサーチする早期段階でピンタレストを使用することが多いため、コンバージョンまでに長い時間を要するのが理由だ。

コンスタンタイン氏は、同氏のクライアントにとって、ピンタレストのパフォーマンスは過去3〜4か月にわたり変化しなかったと語る。CPM(1000回表示あたりのコストまたはインプレッション単価)は増加したが、コンバージョン率は改善されなかった。

「Facebookは、広告ユニット内の動画や商品にタグ付けすることで、コマース体験をより密接に統合するようになった」と、コンスタンタイン氏は述べている。「もしピンタレストが、大量のオーガニックピンについてこれを行い、広告に適した商品に変換できれば、それは極めて独自の機会になるだろう」。

ショッピングプラットフォームの買収も

ピンタレストは、レディ氏の就任する前から、ショッピングへの本格的な投資を行う手順を進めていた。同社は6月、ザ・イエス(The Yes)というショッピングの新興企業を買収した。これは、女性向けファッションに特化し、人工知能を使用して動作するショッピングプラットフォームだ。ピンタレストは、ザ・イエスの創設者であるジュリー・ボーンスタイン氏が同社に加入し、ピンタレスト上で特化したショッピング体験を作り上げるという。

「私は、ショッピング、ファッション、テクノロジーの交差点でキャリアを過ごし、ブランドがプラットフォームに簡単に参加でき、顧客が自分たちの好みを共有できるようなテクノロジーを作り上げることが、重要な影響をもたらすことを直接目にしてきた。ピンタレストと協力し、このような有用なプラットフォームを活用してリーチを広げることは、当社のチームとテクノロジーにとって魅力的かつ理想的な次へのステップだ」と、ボーンスタイン氏は述べている。

しかし、これらの投資すべて、そしてレディ氏の就任をもってしても、ソーシャルメディアアプリをショッピング中心のアプリに変えていくのは簡単な作業ではない。

ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、「Googleのコマースのけん引力は、過去2年間にそれほど成長していないため、Googleが成長を加速させるために何を行うかは興味深いところだ」と米モダンリテールに述べた。

「コマースへの転向は現実的な行動に思えるが、北米においては過去にこの方向性で大きな成功を収めた企業は存在しない」と、同氏は付け加えている。

[原文:How new CEO Bill Ready may reposition Pinterest as an e-commerce platform]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Pinterest

Source