レクリエーション(治療ではない)としてのビタミン点滴の人気が復活、ウェルネスの最新トレンドになっている。
この2カ月間に、ビタミン点滴がアップスケールなホテルやスパで新しいサービスとして提供されつつある。フォーシーズンズ(Four Seasons)のマウイのロケーションでは、5月下旬、ビタミンショットと点滴を提供するためにネクストヘルス(Next Health)との提携が開始された。次に続いたのはエクイノックス(Equinox)で、6月初旬に同社のハドソンヤーズ(Hudson Yards)ホテルでニュートリドリップ(NutriDrip)によるビタミン点滴を提供。テキサス州ヒューストンやサンアントニオ、オハイオ州インディペンデンスなど全米各地でもサービス提供が始まっている。このような治療法は、活力やフィットネス、二日酔いからの回復、デトックスなどを目的としている。しかし、想定されるメリットとは別に、利用者からは、最適化を目指したハイパフォーマンスのウェルネス治療の大きなトレンドの一部として考えられているようである。
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ビタミン点滴に疑問を呈する医師
「これは、新しいダイエットのトレンドのように、波のようにやってきては消えてゆく。とは言え、ビタミン点滴があまりに一般的に行われているのは信じられない」と述べているのは、米国栄養学専門医師会(National Board of Physician Nutrition Specialists)の会長、ケン・フジオカ医師である。「健康なら、ビタミン点滴をする理由はまったくない」。
フジオカ医師はビタミン点滴の人気の理由はわからないというが、サービス提供者らによる「根拠のない」主張がマーケティングに多く使われているのを目にすると指摘する。たとえば、エクイノックスは、ビタミン点滴により徐々に「肝臓がクリーンにデトックスされる」「免疫系を強化する」などのメリットがあるというようなフレーズを使っている。また、同医師は、これらの治療を受けることに関する「クールファクター」とプラセボ効果があることを挙げる。フジオカ医師によると点滴バッグなどの資材やビタミン自体は比較的安価であるが、レクリエーション療法がその価格を上げているということだ。
エクイノックスのサービス
エクイノックスはこのクールファクターを大いに活用している。エクイノックス・ハドソンヤーズの屋上にあるプールサイドで、ジムのメンバーはくつろぎながら、120〜600ドル(約1.6万円〜8.1万円)で約1時間の点滴治療を受けることができる。エクイノックスは2020年2月にイースト74丁目のロケーションでビタミン点滴サービスを開始したが、コロナ禍のために2020年〜2021年に中断を余儀なくされた。パンデミック後にサービスは再開され、人々は屋上のプールサイドに腰掛けたまま治療が受けられる。エクイノックス・ハドソンヤーズはビタミン点滴会社のニュートリドリップ(NutriDrip)と提携して、ベースになるビタミン点滴の14オプションと、そのベースに追加できるB12やビタミンCなどの16のブースターを提供している。
エクイノックス・ハドソンヤーズのスパのディレクター、ジェームズ・グー氏は次のように述べている。「目的は最適化と自分の時間を最大限に活用することだ。利用者の健康とウェルネスに影響を及ぼして、目標に近づくための支援をしている。我々の提供する点滴療法はその時点で特定の結果をもたらすブーストとして機能しており、通常の栄養療法の一環というわけではない」。
グー氏は、エクイノックスには複数の場所にサービスを拡張する計画があると述べているものの、詳細は明かされなかった。同氏によると、エクイノックスの会員は「ハイパフォーマンス」というコンセプトに惹かれているので、(即時的に効果が出る)ビタミン点滴に関心を持つようになるという。さらにカスタマイズの考え方はビューティ、ウェルネス、フィットネス業界に浸透しており、顧客からはカスタマイズされたヘルス体験が求められている。
「マルチビタミンの場合は毎日同じものを摂取するため、必ずしもその時点でのニーズに合わせて調整されているとは限らない」とグー氏は言う。
メリットは不明、リスクあり
カスタマイズには当然限度がある。たとえば、エクイノックスは治療前に利用者に検査を行い、ビタミン欠乏症があるかどうかを判断したりはしていない。エクイノックス、ニュートリドリップ、そして、ニュートリドリップの所有者であるクリーンマーケット(Clean Market)はいずれも、経口サプリメントと比較して点滴が優れている理由としてそのバイオアベイラビリティを挙げている。カプセルよりも点滴からのほうが多く体に吸収されるかもしれないが、限度もある。ビタミンCやビオチン(B7)など体内に蓄積されないビタミンもある。つまり、体に十分な量が吸収されれば、あとは尿から排泄されるということだ。また、ビタミンKのように肝臓などの臓器に貯蔵されているが、摂取しすぎると毒性レベルに達する可能性のあるビタミンもある。
フジオカ医師は、健康な人への危険性は不明であり、医学文献では発疹、不快感、さらには死に至る可能性のある副作用を経験している割合は1%未満から最大10%と指摘されていると述べている。これらの治療法はサプリメントであるため、米国食品医薬品局による追跡や規制は行われていない。同医師は、慢性的なビタミン欠乏症の人はリクリエーション的な療法に頼らずに、医師の処方に従って医療点滴センターに行くべきだと指摘する。
「私ならビタミン点滴を受けないようにとアドバイスする。何かを直接血液に入れるとどんなことが起こるか予測ができない」とフジオカ医師。「実際にどんなメリットがあるのかはわかっていない。リスクだけがある」。
食事からの栄養不足を補うものか
栄養士と医師は、バランスの良い食事からほぼすべてのビタミンとミネラルが得られると主張している。一方で、米国ではバランスの取れた食事が取れていないという証拠も存在する。米国農務省によると、2015年、米国人の健康的な食事スコアの平均は100点満点中58点であり、米国人の平均的な食事が推奨されているものとは一致してないことが示されている。さらに、現在の食糧源から得られる栄養素は過去数十年と比べて低くなっている。エクイノックス、ニュートリドリップ、クリーンマーケットのいずれも、インタビューやマーケティング素材両方においてビタミン点滴を使う理由として食事からは全栄養素が得られていないことに言及している。
ペースの速い現代生活に対処する一つの方法か
ウェルネススパとストアであるクリーンマーケットの共同創業者、リリー・クニン氏は次のように述べている。「我々の顧客の多くは、点滴療法を使って栄養面のギャップに対処するため、当社施設に来て、活力と総合的な健康を得ようと試みている。そして、顧客には非常にペースの速いライフスタイルを送っているという共通点がある。人々は自分の健康データについてよく知っており、またかつてないほど健康データにアクセスできるようになっている。多くの顧客から利用されているのは、彼らが自分の健康をサポートする特定の治療法を選択できるからだ」。
クリーンマーケットは2018年にオープンし、ニューヨーク市の複数のロケーションとラスベガスの支店で1000ドル(約13.6万円)の独自のビタミン点滴治療を提供している。メニューには100〜695ドル(約1.4〜9.4万円)の特製ビタミン点滴治療14オプションのほかに、凍結療法と赤外線サウナセッションも提供されている。また、月額95ドル(約1.3万円)または年間995ドル(約13.5万円)のメンバーシップもあり、点滴療法20%オフなどの特典がある。
クニン氏は、具体的にはNAD+とグルタチオン点滴治療がいままで以上に求められていると述べている。補酵素のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの略であるNAD+とグルタチオンの双方は細胞の健康と長寿に重要であり、同氏によると、人々はこれらの治療を体内のアンチエイジングの一形態として使用しているという。点滴でのNAD+の補給は、最近ケンダル・ジェンナー氏が宣伝していた。同氏は『カーダシアン家のセレブな日常(英題:The Kardashians)』のあるエピソードで、点滴体験に癒されて、幸せを感じられるのでそれだけでも自分のサポートになると語っていた。
「顧客の多くがペースの速い生活の中におり、何百年も前には存在しなかった生活におけるストレス要因も含まれる」とクニン氏。「これらの治療法は、個人的に私がニューヨーク市のライフスタイルに適応するのに役立った」。
[原文:Why IV vitamin drips are popular again]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:猿渡さとみ)